第123話

 と、そこでゼロはモーゼズに「ポン」と掌を叩きながらこう尋ねた。


「ああ、そうそう、ちなみにウチの虎の子である未来演算は偏差値70オーバーの頭脳やからということで与えられたんやけど……」


「はい、転生者は前世の能力がスキルに影響しますからね」


「アンタの虎の子である『寄生』のスキルは何でなんや?」


 そうしてモーゼズはしばし考え、頬を赤らめてこう言った。


「…………だったからに決まっているでしょう」


「あ? なんやって?」


「だから…………だったからに決まっているでしょう」


「え? 何やって?」


「だから――ニートだったからに決まっているでしょうっ!」


 そこでゼロは固まり、放心状態となった。


「モーゼズ兄やん……?」


 真っ赤に頬を染めているモーゼズは眼鏡の腹を人差し指で押し込んだ。


「何でしょうか?」


「アンタの職業適性が賢者である理由はなんやったかいな?」


「……30歳まで童貞だったからですが?」


 そこでゼロはその場で腹を抱えてうずくまってしまった。


 プルプルと震えていることから、ツボにハマりすぎてどうにもできないようだ。


「いや、兄やん……アンタがまさかそこまでの筋金入りやとは思わんかったで」


「ですが、転生した先で私は文字通り生まれ変わりました。前世がニートで童貞……だからどうしたのです?」


 その言葉でゼロは立ち上がり「まあそれもせやな」と肩をゴキゴキと鳴らした。

 

「現在の私は現生人類最強クラスのステータスを持ち、そして転生者をまとめ上げる……正真正銘の強者です」


「まあ、それこそ、世界連合の総長なんかよりも遥かに地位は高いわな」


「そう、今の私はかつて……部屋でずっと引きこもっていた男ではなく、異世界で生まれ変わり、そして好きに生きる者であり、ある種の達成者でもあるのです」


 そこでゼロは何やら色々と思案して、そうして大きく頷いた。


「ウチとかは生粋のサイコパスやさかいな。そういう世界についてはよー分らんけど、まあ、ともかく思うことは一つだけや」


「はい、何でしょうか?」


「クソ野郎でいてくれてありがとうっちゅうことや。あるいは、アンタと同じ境遇でもリュート=マクレーンの側に立った奴も多いんちゃうか?」


「その辺りは個々人の選択ですからね」


 そうしてゼロはモーゼズの背中に両手を回して軽く抱き、その頬にキスをした。


「ちょっ……何をするのです?」


「ファーストキスはコーデリアちゃんの為に残しといたるわ」


「……」


「まあ、ともかくや……アンタがクソ野郎やさかい、せやからウチは結構楽しいんやで?」


「しかし、クソ野郎とは心外ですね。私は、私の良心に従い、私の好きなように生きているだけです」


「ああ、それでええんや。それでこそ、愛すべきクソ野郎や」


 と、そうして二人は共にニヤリと醜悪に笑い、右手でガッチリと握手を交わしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る