第159話 反撃


「防衛一方だけど、攻撃に転じられないのか!?」


 弩弓の雨、砲弾の様なバリスタと立て続けに受けて、防衛だけでは何れ防御を破られるのではないかと心配したマールの転生者の一人が声を上げる。


「いや、まだだ!! やるからには敵を一網打尽にしなくてはならない! 敵がしびれを切らして前進してくるまで待つんだ!! それまで攻撃の生成担当は出来る限り生成して貯めておけよ!!」


「くっそ!! 今は何とか守れる攻撃だからいいけど、もっとドでかいのが来たらどうするんだよ!!」


 今のところ、被害は出ておらず、防御も完ぺきではあるが、防衛するだけでは、やはり焦燥する思いは湧き上がっていく。


「ちょっとあれ! 見てくれ!!」


一人が声を上げて指さす。


「あれ…ちょっとやばいんじゃないか? すげー魔力だぞ…」


 敵陣中央の台座の上で一人の転生者が力を貯めて、その頭上に力の塊を作り出している。その力の凝縮のさせ具合は、ただ力を貯めているだけではなく、周辺につむじ風を生み出し、周囲の魔素すら吸い込んでいるようである。


「防ぎきれるのか!? かなり強力だぞ!」


「俺たちも防御に回った方がいいか? 彗星の後だから全力出せないだろ!」


攻撃担当の転生者たちが不安になって叫ぶ。


「いや、お前たちは攻撃をすることに専念しろ! 必ず防いで見せる!!!」


 防御担当の転生者は、それだけを言ってシールド魔法に集中する。攻撃担当者もそれ以上言葉をかけると、その集中の邪魔になるので、自分たちの事に専念する。



「フハハハハ!!! あいつら、俺様の魔法を受け止めるつもりなのかよぉぉ!!! 笑わせてくれるぜ!!! そんなに食らいたいなら食らわせてやるぜ!! はぁぁぁぁ!!!!!」


セントシーナの転生者は、歪んだ笑みを浮かべて、最後の仕上げの魔力を注ぎ込む。


「死ねぇぇぇ!!! スーパーノヴァダイナマイトエクスプロージョン!!!!」


 その掛け声と同時に、今まで貯めこんでいた魔力の塊が、マールの転生者たち目掛けて撃ち出される。それはあたかも先程防いだ彗星の破片の様に青白く輝いて急速にマールの転生者たちに迫る。


「くっそ!!! また、彗星みたいな奴がきやがった!!!」


「防御担当!!! マジ防げるんだろうな!!!」


「防ぐって言ってんだろ!!! ガタガタぬかすな!!!」


バシーン!!!


 敵の青白い魔法がシールド魔法に衝突し、音の張り手の様な腹まで響く轟音が鳴り響く。


「あ、あれ? 彗星に比べると軽いな…」


「馬鹿言ってんじゃねぇ!! これ、爆発する奴だぞ!!! このままじゃあ、爆発でマズい!!」


その言葉を聞いて、彗星よりマシだと考えていた転生者は顔が強張る。


「じゃあ! どうすんだよ!!」


「何とかする!! 黙っていろ!!!」


防御担当者がそう叫ぶと、シールド魔法に集中する。すると、シールドにぶつかっている敵の魔法がずりずりとシールドに沿って上に上がっていく。


「よし!!! このまま上に飛んでいきやがれ!!!」


 防御担当者が敵の魔法に沿ってシールドを横から見てしの字の様に変化させ、敵の魔法を空へ打ち上げる。


「こ、これで大丈夫か!?」


「馬鹿!! 爆発が来る!!! 皆、シールドの再構成だ!!! 皆を包み込む形に変形させる!!!」


 防御担当者はしの字になっていたシールドを再構成していき、転生者達全員を包み込む半球の形に再構成する。


 その瞬間、上空に打ち上げた魔法が一気に炸裂し、辺りが真っ白になり轟音が鳴り響く。シールドも彗星を受け止めたようにギリギリときしみ始め、虹色の膜に亀裂が入り始める。


「だ、ダメか!!!」


 バシーン!!!という轟音とともにシールド魔法が作り出す虹色の膜が砕け散る。しかし、それと共に魔法の爆発も終わったようで、熱い豪風だけが吹き降りてきた。


「あっち! あっち!」


「くっそ! 砂が口に入った…」


「生き残っているだけマシだろ!! 文句言うな!!」


防御担当者は力を出しつくし、膝をつきながら叫ぶ。


「しかし、シールド破れちまったな…」


「また、張れるか?」


「いや、もうちょっと待ってくれ…すぐには無理だ…」


 防御担当者は最後の回復薬を飲み干していく。しかし、身体に魔力が満ちるまで少し時間がかかる。




「ちくしょうぉぉぉ!! 俺の超絶魔法を防ぎやがったっただとぉぉぉ!!! ムカつく奴らだ!!!!」


 自分の魔法を防がれたセントシーナの転生者はそこらのものに当たり散らす。ひとしきり暴れた後、マールの転生者達に向き直る。


「でも、シールド魔法は破れたみたいだな…」


「では、もう一度魔法をつかいますか?」


部下の男が転生者に尋ねる。


「馬鹿野郎!!! 俺の魔力がもったいないだろうが!!!」


「で、では… もう一度、弓なりバリスタなりを撃ち込みますか…」


そこで、転生者はニヤリと口元を歪める。


「いや… 直接、全軍で前進して、捻りつぶしてやろう!!!」


一気に殺すより、逃げまどい苦しみながら殺す! それだけを考え始めた。


「全軍前進だ!!! あいつらをなます切りにしてミンチにしてやれ!!!」


「全軍前進!!! 前へ進め!!!」


 転生者の言葉に部下の男も号令をかける。それに伴いドラの音が鳴り響き。重装歩兵がガンガンと足を踏み鳴らし、ガチャガチャと鎧のこすれる音を鳴らしながら、足並みを揃えた隊列で前進を開始する。


「踏み殺せ! 捻り殺せ! 嬲り殺せ! 突き殺せ!! 切り殺せ!!! 奴らの死体を人の形に留め置くなよ!!!」


 台車に乗った転生者は本当に狂ったかのように叫ぶ。自慢の魔法を防がれた事で怒りの頂点に達していたのだ。



「ついに本体が動き出しやがった!!!」


「しかし、すげー重装歩兵だな… あんなの普通の剣が太刀打ちできんぞ!」


 おそらく、駆け出しの剣士や冒険者では、その鎧に傷一つ作ることが出来ないであろう。それほどに重厚な鎧をまとっていた。そして、片手には大楯ともう片手には長柄のハルバード。一般人の攻撃なら、蚊が刺すようなもので、即座にハルバードのでの反撃で、叩き潰されるであろう。


「じゃあ、もう撃つか?」


「いや! まだだ!! もう少しまて!! 全軍が射程に入るまでだ!!」


 マールの転生者達は、焦る気持ちを押さえながら、眼前に迫る敵軍が射程に入るのを固唾を飲んで見守る。


ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!


 ゆっくりと舌なめずりするように、重装歩兵が前に進み出てくる。騎兵も並んで進み始め、恐らくタイミングを見計らって転生者の側面や後方を塞ぎ、包囲殲滅をしてくるつもりなのであろう。


「まだか!! まだなのか!!!」


「あと、もうちょっとだ!!!」


ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!


重装歩兵達は上に構えていたハルバードを突撃体制へと移行する。


「そろそろ、突っ込んでくるぞ!!」


「よし!!! 今だ!!」


その掛け声に、攻撃担当の転生者は一気に魔力を放つ。


 そして、マールの転生者たちの一団から、冷気を含んだ風が吹き出され、敵の重装歩兵や騎馬隊の中を吹き抜けていく。


 そのただの冷たい風に重装歩兵や騎馬隊の兵たちは、ふっと鼻で笑う。なんだ?この程度か?魔力か尽きていたのか? そう考えた瞬間、意識が途絶える。


 重装歩兵や馬を含めた騎馬隊が、まるで糸の切れた人形の様に、軍全体でみれば、まるで将棋倒しかドミノのように、悲鳴一つ上げずにバタバタと倒れていく。


「い、一体… 何が起きたんだよ…」


セントシーナの転生者はぽつりと呟いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る