第54話 製錬の成功と最初の課題

「報告というのは、なんでしょうか?」


 私は今、製錬場の担当者から呼び出され、製錬場にいた。製錬場では前回と同じく、大きな炉が作られており、転生者達が周りから魔法を続けている。


「ここ、あついなぁ~」


私についてきた、カオリが熱気に顔をしかめる。


「あっ、マールたん! もう少し待ってね」


 私の存在に気が付いた転生者は、皆に合図を送り、炉の底面に穴を開けて、溶鋼を流し出す。流れ出た溶鋼に皆で水を掛けていくと物凄い水蒸気が辺りを覆い始める。それと同時に溶鉱炉の方でも転生者達がつるはしを持って、溶鉱炉を解体し、水を掛ける。


 前回と異なるのは、建物の上部に羽根車が取り付けられ、転生者がハンドルを回すと水蒸気が外へ吸い出されていき、すぐに霧が晴れていく。


 霧が晴れると転生者達はすぐさま、出来た金属の塊を金はさみで挟んで、次々と水桶の中に放り込んでいく。


「今回はどんな感じですか?」


私は水桶の近くに行き、担当の転生者に尋ねる。


「まぁ、見ててみ」


 転生者はそう言うと、水桶から鉄の塊を取り出して、近くの石に投げつける。前回はゴツンという鈍い音がして割れてしまったが、今回はキンッ!という金属特有の甲高い音がして、そのまま転がる。


「成功だ」


 転生者が自慢げな表情で答える。別の転生者がその金属の塊を広い、石で何度かこすった後、私に手渡す。渡された塊はまだほのかに温かく、こすった所が金属の光沢を放っている。


「すごいじゃないですか!」


 私は素直に喜んだ。当初、金属の製錬が出来るのは何か月も先の事だと思っていたからだ。しかも、薪や木炭などの燃料を使わず、魔法だけで製錬をやってのけたので、材料的な経費は殆どゼロである!


「じゃあ、祝杯をあげようか!!」


 そういって、別の転生者が奥から例の水差しをもってくる。そこにリーレンが皆にグラスを渡していき、水差しから飲み物が注がれていく。


今回の飲み物は、前回の透明な酢を希釈したものとは異なり、黒々としている。


「これ、なに?」


カオリがグラスを凝視する。


「飲むまで秘密だ」


転生者が答える。


「今日はあの赤い実は無しですか?」


私は前回の赤い実について尋ねる。


「それも無しだ。まぁ、飲んでみてからのお楽しみだ。それより、マールたん」


「はい、なんでしょう?」


「乾杯の音頭をたのむ」


 私は急に振られて、驚いたが、今後はこう言う事も何度もあるかもしれないと思い、覚悟を決めて、頭の中で乾杯の音頭を考える。


「では、製錬の成功と、今後の繁栄を願って乾杯したいと思います。それでは皆様!乾杯!」


「「「乾杯!」」」


皆は私の音頭で満足したようで、みな笑顔でグラスを掲げ、飲み干していく。


「えっ! なにこれ! 炭酸飲料やん! しかもコーラっぽい!」


カオリが飲み物に感嘆の声をあげる。


「ふふふ、今日と言う日の為に開発しておいたのだよ…」


「これ、コクとライムのフレーバーがよいですね」


 私がそう感想を述べていると、奥では、前回と同じ様におやつというかおつまみが配られていた。


「これ、おいしいなぁ~ 鶏肉の燻製やん。醤油に色々な香辛料つことるな…」


 私にも配られ、口にするが結構おいしい。これは普通の塩漬け肉よりも人気が出るであろう。


「しかし、よくこんな短期間に製錬を成功させましたね?」


私は担当の転生者に尋ねる。


「あぁ、この飲み物を作る方法を応用したんだよ」


「え?この飲み物が関係しているんですか?」


私は驚きながら目を丸くして、グラスの中の黒い液体を見る。


「この飲み物は炭酸水と言って、水の中に二酸化炭素と言うものが含まれているんだよ」


「二酸化炭素?」


 私には何の事であるかさっぱり分からない。学院にいた頃の錬金術を専攻していた友人がその様な事を言っていたかもしれないが、私には全く分からない。


「まぁ、こっちの世界では分からなくて当然だね。簡単に言うと木炭を燃やした時にでる。気体というか煙みたいな物と考えてくれ」


分からないという顔をしていた私に、転生者が説明してくれる。


 なるほど、木炭を燃やした時に出る二酸化炭素と言うものが必要であり、製錬の時には木炭が必要なのであろう。だから、魔法で加熱しただけでは駄目だったのか。


「なんとなく、分かりました。その二酸化炭素というものを魔法で吹き込んだのですね?」


「そそ、大体そんな感じ。さっきの説明でよく分かったね~」


転生者は私の言葉に少し驚きながら笑う。


「じゃあ、これで金属の生産が行えますね」


「そうだね、運搬は一日一往復してくるし、こちらでも一日一回ほどは製錬できるな」


「では、今後の取引先の検討をしないと駄目ですね」


「ちょっと、それは待って欲しい」


私が今後の取引の思案を始めると、転生者からの制止の声が掛かる。


「待って欲しいとは、何でですか?」


私は頭を傾げる。


「先ずは、この金属で色々な道具や設備を整えたいんだ」


「道具と設備?」


「あぁ、俺たちがいくら魔力が豊富でも、それだけで色々やっていては効率が悪い。だから、効率を良くするための道具や設備を作りたいんだ。あとこれからは正確な部品を作る必要が出てくるから、その専用道具も必要になる。」


 なるほど。確かに魔法で何でもできると言っても、それだけでは効率が悪いのは理解できる。今は製錬だけであるが、鍛冶仕事になってくるとその道具も色々必要であろう。また、色々な仕事を増員するにあたっても道具は必要。今後、鍛冶仕事の重要性は増してくる。


「分かりました。では、今後、鍛冶仕事で必要な道具を練習も兼ねて、どんどん作っていってください。良いものが出来て、前のものが不要になったら、それを売りに出しましょう」


「いいねぇ!マールたん!話がわかる!」


担当の転生者は全身を使って、喜びの感情を表す。


「これでレーバテイン2号の制作に取り掛かれる」


「ちょっとまって!レーバテイン2号って… 1号… 農場のおっちゃんの鎌の1号はどないしたんや!?」


 カオリに言葉に、身体で喜びを表していた転生者は静まり返り、暫く目を泳がせた後、カオリから顔を反らせた。


「あぁ! あんた! 顔そらしたな! 失くしたんか!? 壊したんか!? どちらにしろ、農場のおっちゃん、涙目になりながら、弁償せなあかんかな~っていいながら、手で草むしっとったんやで!?」


カオリの猛烈な叱咤に、転生者はとうとううなだれる。


私はその様子にはぁ~っと溜息をつく。折角、株を上げた所なのに、自ら下げるとは…


「…では… 練習と謝罪を兼ねて、鎌から作り始めてもらえますか?」


こうして、私は鍛冶仕事の最初の課題を設定した。









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