第6話 西へ・・・

 二人は西に向かう為に歩き始めた。

 「さて・・・どうやって大阪まで行くかね」

 紗季は地図を眺めながら、考える。彼女が眺める地図は世界が重なった時、大きく変化した。鉄道も道路も多くが寸断され、現在もその多くは復旧されていない。それに自動車も貴重な物となり、尚且つ、燃料の輸入もままならなない状況で、自由に使えるわけでは無かった。その為、移動手段に馬などが見直されている。だが、危険な魔獣や獣が多く出没するようになり、安易に人々が往来する事は出来なかった。

 街の外に出入りする事が出来るのは行政に許可を受けたハンターと呼ばれる者だけだ。彼等は魔物や獣を狩る事を条件に銃器の携帯許可を受ける。無論、身元確認はされ、許可証を常に携帯する事が義務付けされ、自衛官や警察官から求められたら、即座に掲示、検査を受ける事が義務付けられている。そんな彼等は自衛官や警察官以上に一般市民に頼りにされる事が多い。

 それは金次第で動いてくれるからだ。

 一般市民が自由に街の外へと行けないからこそ、彼等に護衛を頼み、人や物を別の街などに運ぶ事が通例となっていた。

 特に商工会議所が街の企業や商店などに呼び掛け、定期的に別の街にトラックや馬車の列を成して、輸送をするキャラバンには多くのハンターが雇われる。当初は自衛隊が携わっていたが、本来、彼等の使命は街の防衛と魔物の討伐である事から、ハンターの数が増加するにつれて、離れていった。

 紗季は商工会議所に向かい、キャラバンの予定表を眺める。

 キャラバンの護衛は左程、良いギャラでは無い。武装したトラックと多くのハンターを連れたキャラバンを襲う盗賊は皆無だし、魔物だって、大抵は簡単に撃退が出来てしまう。安定収入を求める為に参加するハンターが殆どだ。

 紗季からすれば、ギャラよりも行き先だった。さすがにここから大阪まで向かうキャラバンは居ない。だとすれば、中継地点として、良い場所まで行くキャラバンを探さないといけない。

 「横浜か・・・」

 紗季はそこが一番妥当では無いかと思った。それを聞いたシャルナが楽しそうに尋ねる。

 「横浜ってどんな街ですか?」

 「あぁ、横浜ってのは大きな港がある街よ。ここから船が出ていて、海外とも貿易をしているはず」

 「海外!海を渡れるのですか?」

 「当然よ。大きな船があるからね。昔なら飛行機で遥か遠い海の向こうへ数時間で旅行をしていたんだから」

 それを聞いて、シャルナは驚く。

 「あんた達の世界じゃ、無理でしょ?」

 「空を飛ぶのは色々な種族が出来ますが、海を渡るなんて考えもしませんでした」

 「この世界じゃ、当たり前の話よ。数千年前から海を行き交っているのよ」

 紗季は少し、偉そうに言う。それから、商工会議所の窓口に向かう。

 「あの・・・横浜行のキャラバンに参加したいのですけど」

 そう告げると窓口の女性職員がファイルを捲る。

 「まだ、定員に達してませんね。許可証のコピーを取らせてください」

 そう言われて、二人は彼女に許可証を渡す。

 

 キャラバンの出発予定は三日後だった。

 その間に二人は街の外で適当に魔獣や獣を狩る。

 大きな魔獣は自衛隊が狩っているので、大抵は狩り逃した小物ばかりだ。だからと言っても一般市民には危険な魔獣である。

 紗季はシャルナに銃の手ほどきをしながら狩りをさせる。

 これまで、シャルナには銃や狩りを教えた事は無かった。エルフは魔法が使えるし、力が人程は無かったからだ。だが、これから先、危険な事が多いと感じた紗季はシャルナに護身程度の銃の扱いは覚えさせるべきだと思った。特に見知らぬ人間の集落に向かうとなれば、エルフは決して、歓迎されるとは言えない。

 エルフは人間と友好的な関係を築いている種族だが、その容姿ゆえに悪い人間に騙されたり、強制されたりして、奴隷扱いされる事もあった。それを防ぐ為にも自分の身は自分で守れる程度に武器は使えるべきだと考えたからだ。

 「まぁ・・・バラ撒く程度なら何とかね」

 呆れたように紗季がシャルナの射撃を評価する。視力は人間を遥かに超える程にあるので、狙いは光学照準器を使っているかのように良いが、腕力が無いせいで反動に耐えられない。銃よりも弓やボウガンの方が当たるかもと紗季は思ったが、さすがに今どき、それで何とかなる相手は少ない。

 「連射は止めて、単発でしっかりと狙って撃って。最初の一発だけなら、当たるから。あとは銃口が彼方此方に向いてしまって危ないだけ」

 紗季にそう言われて、シャルナは悔しそうにしている。

 「もっと筋トレをして、鍛えなさい。エルフは鍛えるって事をしないから」

 「そんな事を言われても、魔法が使えるから鍛える必要はあまり無いですよ」

 「魔法に頼り過ぎよ。確かに凄い力だけど、発動に時間が掛かるし、集中する必要もあるし、それでいて、効果の範囲や力が弱過ぎるのよ。それで狩れるのは兎や鳥ぐらいじゃない」

 「それだけ狩れれば充分なんですよ。エルフの生活では」

 シャルナは膨れっ面で紗季に言うが、その顔を見て紗季は笑うだけだった。


 そして、予定の日がやって来た。

 横浜へのキャラバンはトラックが10台。総員30名であった。

 運転手10人と護衛は20人。

 護衛の中に紗季とシャルナの姿もあった。彼女達は後ろから3台目のトラックの運転席に乗っている。

 運転手は40代ぐらいのいかにもトラック運転手の強面のおじさんだった。

 彼は二人を見て、少し顔を赤らめる。

 「め、珍しいな。若いお嬢ちゃんがハンターなんて」

 それを見て、紗季は揶揄うように横に添い立つ。

 「おじさん、テレてるの?」

 そう言われて、恥ずかしそうに運転手は紗季を払う。

 「馬鹿にするな。照れてるわけねぇだろ。小娘ごときによぉ」

 明らかに動揺しながら、彼は運転席へと乗り込んだ。続くように助手席に二人も乗り込んだ。

 「俺は田中だ。よろしくな」

 運転手はそう挨拶をする。

 「紗季です。こっちはシャルナ」

 「そうか。二人は横浜に何をしに行くんだ?確か片道だよな?」

 「大阪に行かないといけないから、まずは横浜に」

 「大阪ぁ?」

 田中は驚く。

 「大阪って、かなり大変だぞ?」

 「だろうねぇ・・・だけど、ちょっと用事があってね」

 紗季は茶目っ気たっぷりに言うので、田中は呆れる。

 「まぁ、危険だけど、気を付けて行けよ。まずは横浜まで頼むわ」

 そう田中が言うと、車列がそろそろと動き出した。

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