第4話 巫女

 新天地を求めて、朝霞へと向かう。地形は大きく変わり、川も氾濫を繰り返し、ようやく落ち着いた流れになったぐらいだ。

 その為、多くの耕作地は使えなくなり、食料生産力はかなり低下したと言われる。それでもこうして、都市部から離れると、次第に田畑が広がるようになる。海外から容易に輸入が出来ない状況となっているので、いち早く、農業に力が注がれた。田畑を魔獣や害獣から護るために警察、自衛隊は完全武装の上で警戒に当たっている。

 幹線道路を紗季達が歩いていると前から高機動車の車列が走って来る。彼らは二人の傍で車を停車させた。

 「君達はどこから来た?」

 窓から自衛官が二人に尋ねる。

 「東京からです」

 「東京か・・・こちらにはどうして?」

 「練馬の街がドラゴンの群れに襲われて」

 「ドラゴンの群れだって?」

 自衛官達は驚いた。

 「そうか・・・噂には聞いていたが・・・こんな近くでも・・・こいつは警戒を厳しくした方がいいな。それで・・・君達は朝霞に向かっているのか?」

 「はい。一番、近い街がそこなんで」

 「そうか・・・東京から逃げて来たヤツは君達しか確認してないが・・・相当の数の避難民が居るはずなんだな?」

 「多分・・・生きていれば」

 「そうか・・・解った。僕らは任務があるから送っていけないが、歩いて行けば、2時間ぐらいで着くよ」

 そう言い残して、彼らは走り去った。

 「2時間か・・・遠いな」

 紗季は遥か遠くを眺める。

 「車は良いよね。車は・・・」

 シャルナは遠ざかる車列を眺めながら呟く。

 

 二人は歩き続け、ようやく、バリケードに囲まれた街へと到着する。

 「確か、自衛隊の基地を周辺に街が出来ているはずだけど」

 本来の朝霞の市街地は放棄され、自衛隊の敷地を中心に新たな街が形成されていた。建物の多くは新たに建てられたらしく、真新しい。練馬に比べて整然としている感じだ。

 「活気がありますね」

 シャルナは賑わう大通りを見て、そう呟く。

 「街中に比べて、食料などの物資が多いからね」

 紗季は屋台などを物色しながら、歩く。食べ歩きをしている二人に不意に声を掛ける者が居た。

 「そこのあんた。ちょっといいかい?」

 フードを目深に被った女だった。紗季は一瞬、警戒して、腰のホルスターに手を伸ばす。それに気付いた女は慌てて、フードを外す。すると綺麗な顔立ちが姿を見せる。

 「あまり警戒しないでね。私はミョルム。そこのお嬢さんと同じ、エルフだよ」

 そう言われて、紗季は彼女の耳を見た。確かに先が尖り、エルフの特徴が出ていた。

 「エルフが私に何の用?」

 「エルフを連れているから珍しいと思ったからね。少し、話をしていかないかい?」

 「話?・・・あまり知らない奴を信じないもんでね」

 「ははは。用心深い人間だね。嫌いじゃない。私は占い師をやっていてね。エルフの占いはよく当たると聞くだろ?」

 紗季は少し考える。エルフは魔術で占いをする。その的中率は人間のそれとは違う。正に未来が見えていると思える程なのである。

 「面白いわね。じゃあ、占って貰おうかしら」

 紗季とシャルナは彼女に連れられて、路地裏へと向かう。

 路地裏にひっそりと『占い』と書かれた看板の下がった扉があった。ミョルムが扉を開くと、薄明かりの独特な雰囲気のある店があった。

 「いかにも占いって感じね」

 紗季の独り言にミョルムが笑う。

 「この手の商売は雰囲気が大事なのよ。当たる気がするでしょ?」

 「外れる事もあるんだ?」

 「当たり前じゃない。だから占いよ。それはそっちの彼女も解っているでしょ?」

 ミョルムに言われて、シャルナも頷く。

 「さて、そこに座って。占うから」

 ミョルムに言われて、紗季は水晶玉の置かれた机の前に座る。

 「水晶玉って・・・占いみたいだな」

 「これも演出よ。それにこれ、ただのガラス玉だから」

 ミョルムは笑いながら水晶玉を台拭きで拭く。

 「さぁ、占うわ」

 ミョルムは何かの力を使っているのか、周辺の雰囲気が変わる。

 「見えるわ。あなた・・・竜を殺しているわね?」

 ミョルムにそう言われて、紗季は少し驚く。

 「よく解ったわね。そうよ。竜を殺すのは仕事だから」

 「かなり多く・・・数十頭は殺している。手練れのドラゴンキラー」

 「褒めても何も出ないわよ」

 紗季は笑みを零す。

 「なるほど・・・あなたは・・・これからある竜を殺す為に旅に出るわ」

 「ある竜?」

 紗季は訝し気にミョルムを見る。

 「ある竜とは・・・この世界を変革した原因である竜」

 「へぇ・・・聞いたような話ね」

 「その竜は・・・ここより、西・・・関西地方にあるわ」

 「関西・・・大阪とかその辺?」

 「えぇ、世界樹があるはず。そこにその竜は居るわ」

 「なるほど・・・で・・・その竜の特徴とかは?」

 「竜は古代竜の一種。白い肌に赤い目。長い体を世界樹に巻き付かせている」

 「見たように語るわね。あなた・・・何者?」

 紗季はレッグホルスターから拳銃を抜いて、ミョルムに突きつける。それにシャルナが驚く。だが、銃口を突き付けられたミョルムは怯える事も無く、笑みを浮かべた。

 「あら・・・占いはお嫌い?」

 そう返され、紗季の表情から笑みが消え、彼女を睨んだ。

 「占い・・・違うだろ?あんた、最初から、私にその話をするつもりでここに誘き寄せたな?」

 「だったら?」

 「目的は何だ?」

 「目的・・・あんたにこの世界を戻して貰う。それだけだ」

 カチャリと拳銃の撃鉄が起こされた。

 「ふざけるな。今の話は私が瀕死の竜から聞いた話に酷似している。何がどうなっているか解らないが・・・あんたは信用が出来ない。はっきり言えば、エルフを殺しても殺人にはならないよ?」

 「怖い怖い。だが、この世界が元に戻るのはあんたら人間にとっても悪い事じゃないだろ?私達だって・・・こんな世界で人間に媚びを売って、生きるのは本望じゃないしね」

 「ふん・・・エルフは人間に隷属していればいいわよ。化け物と違って・・・可愛がって貰えるでしょ?」

 「あら?女として、エルフに負けていると?」

 「人間の子どもも孕めない化け物相手に?」

 それを聞いたミョルムはニヤリと笑う。

 「じゃあ・・・あんたは子どもを作るだけの肉豚じゃない」

 「ぬかせ・・・穴豚が」

 一瞬、紗季が撃つと感じたシャルナが慌てて、紗季の拳銃を掴む。

 「ふ、二人共、もう止めてください」

 それで紗季は拳銃の撃鉄をハーフコックに戻し、ホルスターに拳銃を戻した。

 「ふん・・・気に入らないね。あんた・・・何者?」

 紗季はミョルムを睨みながら、収まらぬ怒りのままに尋ねる。

 「占い師は表の顔・・・エルフ族の巫女さ」

 それを聞いたシャルナが驚いた。

 「み、巫女様なのですか?」

 その様子を見た紗季は胡散臭そうだと感じた。

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