第3話 逃避行

 夜空を飛び交うドラゴンの群れ。

 自衛隊の対空砲火も徐々に数が減っていく。

 地面に落ちたドラゴンは命のある限り、人間に抗った。

 炎が街を焼く。

 人々は戦うか逃げ惑うしかない。

 紗季とシャルナは懸命に逃げた。

 手にした銃を撃ち捲り、ドラゴンの居ない場所を目指して、バリケードの合間を抜けて、誰も住まぬ住宅街へと飛び込んだ。

 木々や岩と重なりあった建物。

 崩れ落ちたマンション。

 それらのどこに魔獣が潜んでいるか解らない。

 だから、誰も住まない。

 紗季達も通り抜ける時は常に警戒をしている。だが、今はそんな事を言ってられない。空からドラゴンが襲ってくるのだから。

 逃げ出した人々を追い掛けて、ドラゴンが炎を吐く。

 誰も住まぬ街に火の手が上がる。

 同時にドラゴンの気配を感じた魔獣達が一斉に逃げ出す。彼らはドラゴンを恐れている。どれだけ獰猛な魔獣でも最強のドラゴンには勝てないからだ。人間など目もくれず、逃げ出す魔獣の群れに混ざり、人間も逃げる。

 二人は半壊した雑居ビルの影に隠れた。

 「はぁはぁはぁ・・・なんで、ドラゴンがあんな群れで・・・」

 紗季は呼吸を整えながら、疑問を呟く。

 通常、ドラゴンは群れを作らない。小型のドラゴンの中には数体の群れを作る種類もあるが、多くのドラゴンは単体で行動をしている。だから、紗季達のように少数でも狩りが出来る。

 「私達も初めて。あんな群れで襲って来るドラゴンなんて・・・怖い」

 シャルナはガクガクと怯えていた。

 「ふん・・・エルフが初めての事なんて・・・ね」

 紗季は息を整えると周囲を警戒した。ドラゴンのお陰で、他の魔獣なども逃げ出してはいるが、安全とは言い難い状況だからだ。

 「まずは安全な場所へ移動するのが最優先ね。まだ、日の出まで時間がある。夜行性の魔獣に狙われたら、厄介よ」

 紗季は持ち出した荷物の中から懐中電灯を取り出す。

 暗視ゴーグルなどの夜戦装備などは無い。懐中電灯程度ならば、夜行性の魔獣とまともに戦う事など不可能であった。

 二人はドラゴンや他の魔獣を警戒しながら、闇夜を移動した。

 

 日が昇る頃。二人は破壊された90式戦車の残骸の中に居た。

 破壊されたとは言え、ある程度、外観を保った戦車の残骸は下手な魔獣などから身を護る事が出来る都合の良い空間であった。

 「朝か・・・」

 紗季はキューポラから身を乗り出し、周囲を警戒する。

 「これが動いたら楽なのに」

 シャルナは戦車の残骸を撫でながら言う。

 「確かにな」

 紗季は笑いながら、戦車から降りる。

 「まともに位置も確認しないと移動したけど・・・ここは」

 紗季は破壊された街並みを眺め、現住所が解る標識を見付けた。

 「渋谷ね」

 練馬から都心の方へと逃げたみたいだ。

 「どうするの?」

 シャルナが不安そうに尋ねる。

 「どうするって・・・あの様子じゃ・・・もうあそこはダメでしょ」

 ドラゴンの群れに襲われ、炎に包まれた集落は完全に破壊された。戻ったとしても再興させるのは困難な上にドラゴンの群れが居座っている可能性もあるから危険しか無かった。

 「近くの集落に行くしか無いけど・・・」

 紗季は他の集落に関しての知識は無かった。その時、シャルナが何かに気付いた。

 「さっちゃん・・・匂いを感じるわ」

 「匂い・・・どんな?」

 「同胞の匂い」

 「同胞ね・・・エルフが近くに居るの?」

 「多分・・・エルフの隠し郷が近くにある気がする」

 「エルフの隠し郷か・・・面白いわね」

 紗季はエルフの隠し郷について、聞き覚えたがあった。エルフは危険な魔獣から身を隠す為に魔法で集落の周囲に結界を施すと。エルフ以外は結界に入ると迷ってしまい、集落に辿り着けない。だから隠し郷と呼ばれる。

 「そこに連れて行って」

 紗季に言われ、シャルナは鼻をヒクヒクさせ、匂いを辿った。

 「ここから結界です。魔法で結界を開きます」

 シャルナはエルフ語と呼ばれる言葉で何かを呟く。すると空間に切れ目が生まれた。そこから二人は中に入る。

 二人が一歩、中に踏み込むと、そこには先ほどと違った活気ある街の風景が現れた。

 「さっきまで・・・ただの廃墟だったのに」

 紗季はその光景の違いに驚いた。

 「これが隠し郷って奴です」

 シャルナが自慢気に言う。

 「殆どがエルフ・・・みたいね」

 紗季は行き交う人々を眺めた。皆、特徴的な耳をした美談美女ばかりだ。

 「思ったよりも大きな集落ですね」

 シャナルは集落の大きさに驚いた。二人が居た集落程では無いが、数百人ぐらいの住民が居そうであった。

 「都合が良いわ。食料の確保と情報収集がしたいわね」

 皐はそう言うと、並ぶ露店を眺めた。

 食料を買い込むと同時に彼女は店主に話を聞いた。

 「あぁ・・・ドラゴンの群れの話か・・・彼方此方に現れていると聞くよ」

 旅商人であろう店主はそう話してくれた。

 「彼方此方?」

 紗季は驚く。

 「あぁ・・・理由は解らないが・・・彼方此方で街や村が襲われているらしい。噂だが、話せるドラゴンから理由を聞いた奴が居て、ドラゴンが群れている理由は間もなく、世界樹に融合したドラゴンがこの世界を再構築する為だからとか」

 「世界樹とドラゴンか」

 それは殺したドラゴンから聞いた話と繋がる感じがした。

 「それでドラゴンが群れているのかよく分からないけど・・・」

 「それは・・・俺らも解らないよ。ただ、原因は世界樹とドラゴンの融合らしい。魔法で世界を変えようとしたドラゴンが居て、こんな風になっちまったのもそいつのせいとか言うからね。とんでも無い事をしでかしてくれたもんだよ」

 店主は溜息混じりに言う。

 

 「さて・・・食料は確保した。あとは拠点を確保しないとな」

 紗季がそう言うとシャルナが不思議そうな顔をする。

 「拠点って・・・ここに住むんですか?」

 「あぁ・・・折角、安全そうな集落を発見したんだ。エルフの結界で守られているなら、生活するには都合が良い」

 紗季はそう答える。

 「それは・・・多分、無理だと思いますよ」

 シャルナは残念そうにそう答える。その答えはすぐに理解が出来た。

 エルフの戦闘員のような連中がやって来て、二人を取り囲んだからだ。

 「お前、人間じゃないか?」

 戦闘員の1人が紗季にそう問い掛ける。

 「そうだけど?」

 紗季は当たり前だと言わんばかりに問い返した。

 「悪いが、エルフの村には人間は立ち入って欲しくない」

 「何故?」

 「結界の中とは言え、エルフ以外が存在すると魔獣に嗅ぎ付けられ、結界を破られる危険があるからだ。基本的に結界内はエルフのみとなっている」

 「なるほど・・・シャルナは良いってわけね。どうする?私は一人で新しい場所を探しに行くけど」

 紗季はシャルナにぶっきらぼうに尋ねる。正直に言えば、ここでシャルナと離れても左程、大した事では無いと思っているからだ。

 「さ、さっちゃん・・・私も一緒にここから出ます」

 シャルナはそう告げる。そのやり取りを聞いた戦闘員達は一様に納得した様子だった。

 「そうか。じゃあ、すぐに出て行ってくれ」

 彼らに言われて、二人は早々に結界の外へと出た。

 「なるほど・・・結界も万能じゃないって事か」

 紗季は廃墟にしか見えなくなった集落を眺める。

 「はい。所詮はまやかしですから」

 シャルナはこうなる事を予測していたようであった。

 「じゃあ・・・人間の集落に向かうしか無いね。一番近い場所を聞いておいて正解だった」

 紗季は予め聞いておいた場所を地図で確認する。

 「朝霞か・・・」

 「遠いんですか?」

 「そこそこあるわね。これまで都心の方ばかり行ってたから、こっちって、あまり行かないんだよね」

 「どんな場所なんですか?」

 「畑や田んぼがあって、そうした食料はここから仕入れてって聞いた事があるわ」

 「食料には困らなそうですね」

 「そうであって欲しいけどね」

 二人はゆっくりと歩き出した。

 

 

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