ドラゴンハンターガール

三八式物書機

第1話 ドラゴンハンター

 10年前の事だった。

 当時、5歳の子どもだった。

 記憶にある事は二度目のオリンピックがあった事ぐらい。

 その冬。

 世界は崩壊した。

 突然、世界は二重になり、一つになった。

 まったく別の世界が強制的に一つになったらしい。

 詳しい事は未だによく分かっていない。

 ただ、そのせいで私は家族を皆、失った。

 父も母も姉も。

 別世界の木々が彼等と合わさり、一つになった結果。

 今でもその木々は緑の葉を揺らしている。家族を養分にしながら。

 そんな事が世界中で起きた。

 地形は大きく変わり、建物や構造物は木々や山と合わさり、崩落した。

 無事だった街など皆無で、一瞬にして、大半の人々が消えたのだ。

 残された人々を守ったのは軍であった。

 日本も自衛隊の残存部隊が独自に再編成され、彼らは日本中の人々を救うために動き出した。一人残された私もその一人だ。

 突如として、出現した魔獣と呼ばれる獣は人間を恐れる事無く、襲い掛かり、喰らった。残された多くの人々も魔獣の餌にされたのだ。

 自衛隊は魔獣も狩った。多くの損害を出しながらも。

 自衛隊の武力無くして、人々は守れなかった。

 そうやって、人類は新たな世界を歩み始めて10年が経った。

 

 まだ、人類は厳しい状況ではあった。しかしながら、失われた公共インフラの復活など、人類は一歩づつ、文明を手にしようとしていた。

 ビルの多くは崩落し、代わりに木々が伸びていた。

 アスファルトを穿ち、草が生えている。

 東京の中心とも言える新宿はかつての風景を無くしていた。唯一、無事に建っていたのは都庁庁舎だけだった。

 「ねぇ・・・なんで、高校の制服なの?」

 黒髪ツインテールの少女はジト目で前を歩く金髪ロングの少女に問い掛ける。

 彼女達の姿は紺色のジャケットにチェック柄のプリッツスカート。都内某所の高校で採用されていた制服であった。

 「えぇ?可愛いじゃないですか?いつも野戦服だとせっかく東京に来ているのに、雰囲気が出ないって思ったから」

 金髪ロングの少女はスカートをヒラヒラさせながらクルクルと回る。

 「雰囲気かよ。私達は遊びに来てるんじゃないんだぞ?」

 黒髪ツインテールの少女は怒る。

 「えぇ、でもさっちゃんだって、何だかんだ言って、着てるじゃない?」

 金髪ロングの少女にそう言われて、さっちゃんと呼ばれた少女は真っ赤になって堪える。

 「それより・・・獲物はどこに居るか解るか?」

 さっちゃんは金髪ロングの少女に尋ねる。すると彼女は目を瞑り、鼻をヒクヒクさせる。

 「うーんと・・・匂いが漂ってきた。西に一匹居るわ」

 「西か・・・狩りの準備をしろ」

 さっちゃんは肩に担いでいたバーレットM95対物ライフル銃を手に取る。

 「はいはい」

 金髪ロングの少女も肩に担いでいた折り畳み銃底式の89式自動小銃を手にした。

 「いつも通りに仕留める」

 さっちゃんがそう告げると、金髪ロングの少女は解ったと言う代わりに左手の親指を立てた。

 二人は慎重に物陰に隠れながら、西に向かった。その先には都庁がある。

 「都庁の上に居る」

 金髪ロングの少女がそう告げる。さっちゃんは銃を構えて、照準器で探す。

 「あぁ・・・大型ドラゴンだ」

 照準器の中に居たのは都庁の屋上で寛ぐように翼を休めるドラゴンであった。

 背中に翼を持ち、肉食恐竜のような顔をして、どっぷりと太ったような体躯をした灰色の肌のそれはどこか遠くを見ているように見えた。

 「距離があるな。あそこで仕留めると死体が回収が出来ない」

 さっちゃんは少し考える。金髪ロングの少女はアイデアを出す。

 「だったら、誘き寄せる?」

 「なるほど・・・だけど、誘いに乗るか?」

 「頭が良くても所詮は獣。腹が減っているなら、餌には喰い付いてくるよ」

 そう言って、金髪ロングの少女が物陰から出た。

 「ちっ、勝手に動くなよ」

 さっちゃんは銃を再び構えた。

 金髪ロングの少女は草木の生えた路上をブラブラと歩く。何も警戒をしていないように。それは遥か遠くに居るはずのドラゴンの目にも映った。

 ドラゴンは微かに考えるような仕草をする。目に映るのは確かに旨そうな人間であった。ドラゴンの味覚にとって、人間は若い方が肉質が良いと思っている。特に雌は柔らかくて旨いと。故にドラゴンにとって、目に映るのは御馳走だった。しかしながら、この場所は人間があまり立ち寄らない場所である。そんな場所に雌が一匹だけでウロウロしているとは考えられなかった。

 ドラゴンは警戒した。しかし、あまり時間を掛けていれば、別の魔獣に奪われてしまうかもしれない。人は食いたいが、それほど、簡単な獲物じゃない。他の動物に比べて、人間は厄介だ。武器を持っている。それはドラゴンがこれまで知り得なかった武器だ。多くの同族が人間に殺された。だが、それでも人間は旨い。だから諦められない。

 ドラゴンは我慢が出来ずに巨大な翼を広げた。

 都庁の上から飛び降り、広げた翼で滑空する。

 その速度は300キロにも及ぶ。

 金髪ロングの少女の元へと降り立つまでに数十秒。

 一瞬にして、彼女を奪い取るつもりだった。だが、一瞬、光った何かに気付く。

 ドラゴンは危ないと思った。滑空状態を止める事は出来ない。だが、身体を捻りながら回避運動をする。

 「遅い」

 さっちゃんはニヤリとした瞬間、引金を引いた。

 50口径の巨大なライフル弾の弾頭が銃口から放たれる。

 音速を超えた弾丸は空気を切裂き、ドラゴンへと飛び去る。

 身体を捻ったドラゴンの胸板を銃弾が貫く。

 その威力をまともに受けたドラゴンはクルクルと回りながら地面に落ちた。

 「胸板を貫いただけか・・・トドメを刺さないとな」

 さっちゃんは茂みの中から立ち上がり、銃を構えながら、ドラゴンが落ちた場所に近付く。金髪ロングの少女も銃を構えながら周囲を警戒した。

 「一発で仕留めたね」

 金髪ロングの少女が嬉しそうに言う。

 「当たり前だ。ドラゴン相手に外していたら、命が幾つあっても足りない」

 さっちゃんは真剣な表情でドラゴンに近付く。

 ドラゴンはまだ、死んでおらず、体を震わせながら、動いている。

 「早くトドメを刺さないとな」

 さっちゃんはドラゴンの急所である心臓のある胸の真ん中を狙う。

 「や、止めろ」

 突如として、しゃがれた老人のような声が聞こえた。

 「誰だ?」

 二人は周囲を見渡す。

 「俺だ。お前に撃たれたドラゴンだ」

 その言葉に二人は驚き、ドラゴンを眺めた。

 「ドラゴンが喋った?」

 さっちゃんは驚き、金髪ロングの少女を見た。

 「き、聞いた事があります。年齢を重ねたドラゴンは魔法で他種族に話し掛ける事が出来ると」

 「そ、そうなのか・・・人間の言葉だぞ?」

 驚くさっちゃんにドラゴンは更に話し掛ける。

 「人間の言葉ぐらい、すぐに理解が出来る。我々は神に最も近い種族だぞ」

 「蜥蜴野郎がうるせぇ」

 さっちゃんはドラゴンの言葉に苛ついたのか、撃ちそうになった。

 「ま、待て、待ってくれ。助けてくれ」

 ドラゴンは懇願するように言う。

 「助けてくれ?・・・いや、それは私に何のメリットもない」

 さっちゃんは微かに考えるも、それを拒否する。

 「そ、そうだな。じゃあ、この世界を元に戻せるかもしれない話をする。それならばどうだ?」

 ドラゴンの提案に二人は顔を見合せる。そして、笑う。

 「おい、蜥蜴。助かりたいって、そんな嘘をつくなよ」

 さっちゃんは再び、撃とうとする。

 「待て・・・撃つな。本当だ。我々はこの世界が何故、こうなったかを知っている。そして、その原因もだ」

 ドラゴンは必死に懇願する。

 「おい、シャルナ。こいつ、こんな事を言っているが・・・信じられるか?」

 シャルナと呼ばれた金髪ロングの少女は少し考え込む。

 「ドラゴンは確かに神にもっとも近い種族です。ひょっとすれば、何かを知っていてもおかしくはないですね」

 シャルナの言葉にさっちゃんは考える。

 「そうか・・・ふーん・・・じゃあ、まずは喋ってみろよ」

 「助けてくれるのか?」

 「それを判断する為にまずはお前の話を聞く」

 「くっ・・・人如きが・・・解った。話そう。だが、核心まで言わんぞ。それは助けて貰ってからだ」

 ドラゴンは忌々しいように黒髪ツインテールを見る。

 「早くしろ。止血しないと死ぬぞ?」

 さっちゃんはニヤニヤと笑いながら言う。

 「くそっ・・・13ラグナ前の話だ」

 「13ラグナって・・・あんたの世界の年の数え方だっけ?」

 さっちゃんはシャルナに尋ねる。

 「そうです。この世界の数え方だと10年前ですね」

 「ああぁ」

 さっちゃんの表情が淀む。

 「あの時代。古代ドラゴンの一頭がとある魔法を考案したらしい。奴はその魔法を実験する為に世界樹へと赴き、世界樹を巻き込むように魔法を発動させたのだ。それが何の魔法であったは知らぬが、奴は結果的に世界樹と一体化した。その途端、世界は突如、鳴動を始め、一瞬にして世界を隔てる壁が崩れたのだ。すなわち、それが我等の世界とこの世界を合体させた時であった」

 「へぇ・・・そいつが原因なんだ」

 さっちゃんは唾を吐き捨てる。

 「う、うむ。お前らにとっては気持ちの良い話では無いだろうな。我等だって、同じだ。突然、世界が変わったのだからな」

 「で・・・そいつは今どこに?」

 「世界樹の在処は・・・知らん。世界がこうも変化しては元の場所にあるとは思えないしな。だが、どこかには存在しているはずだ」

 「そのドラゴンを殺したら・・・世界は元に戻るのかしら?」

 「そうだろうな。魔法の効力によって、世界は一つになっている。魔法が失われれば、理に従って、二つの世界は分離して、元に戻るはずだ」

 「ふーん・・・それが本当だと言える?」

 「本当も何も・・・私だって、聞いた話をしているだけだ」

 ドラゴンは微かに笑う。刹那、さっちゃんは発砲をした。

 ドラゴンの心臓は銃弾で貫かれ、破裂した。一瞬にして、体長5メートルに及ぶ巨躯のドラゴンは絶命した。

 「さっちゃん、ひどーい」

 シャルナは心底、そう思っていない軽い感じで言う。

 「ドラゴンの戯言を信じている程、暇じゃないのよ」

 さっちゃんは対物ライフル銃を担ぎ、代わりに大きな麻袋を広げる。

 「さて、鱗と牙、爪を頂くわ。肉はその辺の魔獣にくれてやる。骨は肉片が腐りきってから回収ね」

 さっちゃんはそう言うと、腰から鉈を取り出す。それで鱗を削ぎ落すのだ。

 二人は手際良く、ドラゴンから鱗を取り、続いて、牙や爪を剥いだ。

 ドラゴンの鱗や牙などには金属質が多く、それはこの世界にない、珍しい金属である為に、重宝されるのだ。

 「さて・・・これで、今月も遊んで暮らせるわね」

 二人はぎっしりと詰まった麻袋を担ぎ、歩き出した。

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