第111話 一週間後──
それから、およそ一週間後──。
城郭都市たる王都を包み込むほどの超巨大規模の氷塊は、それを展開した騎士や冒険者たちにより完全に解除され、すっかり元の姿を取り戻していたのだが。
ジカルミアに住まう全ての人々は未だにお祭り騒ぎを続けており、それだけ【ジカルミアの
その中には、この一ヶ月で通り魔怖さに王都を離れた者たちや、かの通り魔により身体を欠損した事で王都からの退去を余儀なくされた者たちの姿もあった。
彼ら、もしくは彼女らは総じて国王の名の下に東ルペラシオ全土へ流布された、【ジカルミアの
魔導国家の軍事力や商業などの中心である城郭都市を、たった一ヶ月で
そう思ってしまうのも無理はないかもしれない。
しかし、ナタナエルから解放された後のネイクリアスは、その肉体的にも精神的にも憔悴しきった身体を押して公務に取り掛かる中、先述した情報に『王都を去った者たち及び【ジカルミアの
結局、彼と無理やりに【契約】を交わしていた元魔族が彼自身やノエルを除いて被害を出す事はなかったが、その間【ジカルミアの
それを耳にしたからこそ、ただでさえ王都を離れた者たちや欠損の影響で職に就けない者たちの半分ほどは我先にと王都へ戻り、しかるべき手続きを経てから王家直々の補償を受ける選択をしていたのであった。
……もちろん、というのもあれだが──。
王都へ戻ってきた者たちの中には、さも何食わぬ顔をしつつ保障を受けようとする無関係な者たちの姿もあり、そういった者たちを追い払う目的で五体満足な衛兵たちが四つ存在する王都の門へと出張っていた。
また、王都を去った者たちや身体の一部を失った者たち食い物にする目的で野盗も現れ、クラリアを始めとするヴァイシア騎士団やガレーネを始めとする冒険者たちは騒動が終わってからも休みなく働いている。
では、あの双子は何をしているのかといえば。
この一週間、騎士たちや冒険者たちと違って怪我を身体に残したわけでもないスタークとフェアトは、あくまでもパイクやシルドの存在は隠したうえで、もう随分と数を減らしてしまった騎士団に協力しており。
「あ〜……暴れたりねぇなぁ……」
「
ごきっ、と肩や首を鳴らしながら物足りなさを全面に押し出してくるスタークに対して、フェアトは姉の発言に女の子らしさの欠片もない事に呆れてしまう。
今日も今日とて双子は野盗狩りに精を出し、その後始末を先日の騒動で
そんな双子が担いだ、もしくは身につけた半透明な武具は王都を訪れた時とは趣きが異なっていた──。
「にしてもよぉ……これ、かなりいい感じだぜ。 何つーか……凄ぇ手に馴染むんだよ。 なぁ、パイク?」
『りゅう!』
かたや、かつての勇者が武器としていたものと酷似した諸刃の剣から、その矛先で天をも穿てそうなほどの圧倒的な力を感じさせる半透明な三叉の矛へと姿を変えているパイクに対して何とも得意げに声をかけ。
「馴染むというなら私たちだってそうですよ? やっぱり【盾】なんて名乗ってるからですかね? シルド」
『りゅ〜?』
かたや、これまでは左手にのみ嵌めていた四つの指輪を両手の人差し指と中指に嵌める形に変え、そのうちの一つを宙に浮かぶ盾へと変化させつつ問いかけるも、よく分かっていないシルドは疑問の声を上げる。
ちなみに、フェアトが指輪を嵌める位置を変えたのは今も彼女の近くで浮かぶ盾が、ある程度だが彼女の手の動きと連動する事が明らかになっているからであり、それを活かすべく両手に嵌める事にしたらしい。
そんな日常とも思える会話を、その殆どが命を落としている野盗たちを背景に繰り広げている双子は、とてもではないが『普通』であるとは言えないだろう。
現に、それを見ていた三番隊の騎士たちは畏敬の念と畏怖の念の混じる複雑な視線を向けていたのだが。
「何をボーッとしてんだぁ!? いくらでも仕事は残ってんだ、こんなとこで呆けてねぇで働きやがれ!!」
「「「はっ、はい!!!」」」
突如、途轍もない声量にて差し込まれたのは今回の騒動で半数以上を喪った一番隊の隊長ハキムの声であり、それが明らかに自分たちを咎める目的で発せられていると察した騎士たちは敬礼してから動き出した。
「ったく……すまねぇな。 スターク、フェアト。 あいつらに悪気はねぇんだが、まだまだ若輩だからよぉ」
「いえ、お気になさらず」
どうやら、ハキムは王都に住む全ての者たちの恩人である双子にそういった視線を向けている事に納得いかなかったらしいが、これといって気にしてもいなかったフェアトは『お気遣いどうも』と首を横に振る。
「……腕は大丈夫なのか?」
「ん? あぁ……」
もちろん、スタークも妹と同じように気にしていなかったものの、それは他に気になる事があるからであり、その原因たるハキムの左腕について問いかける。
彼は戦いの最中、役に立たなくなった左腕を切り落としていたが、それは『後から神官にでも【
しかし、そんな彼の考えは上手くいかなかった。
クラリアの【
結局、斬り落とさざるを得なかったのだが──。
「まぁ、とりあえずはな……フェアトが【
「……そうか。 ならいいよ」
彼の左腕があった場所には、どうやらシルドが硬度と柔軟性を兼ね備えて創り上げたらしい鈍色の義手が装着されており、おそらく魔力で動かしているのだろう義手を見て、スタークは安堵からの息を漏らした。
巻き込んだ事への罪悪感があったのかもしれない。
「頑張ってくださいね──“新”副団長さん」
「……あぁ、
そんな姉をよそに、クラリアから聞いていたヴァイシア騎士団の人事に含まれていた『新しい副団長』に対してフェアトが微笑みかけ、ハキムが自分の手で埋葬した前副団長を忘れぬように微力を尽くすと──。
宣言しようとした──その時。
「そういや、お前らに伝言があったんだ」
「「伝言?」」
ハッと何かを思い出したらしいハキムが双子への伝言を預かってると口にした事で、いかにも双子らしい反応を見せたスタークとフェアトが首をかしげる。
「お前ら、今日で王都を──っつーか、この国を出るんだろ? 王族と師団長と冒険者の集会所長……で、我らが騎士団長様の計五人が謁見の間で待ってるぜ」
ハキムの言葉通り、スタークたちは『そろそろ次の国に行こうぜ』と昨日のうちに話し合っており、それを聞いていた五人が王城で待っている──と伝えた。
それを受けた双子が、『見送りですかね』『行ってみりゃ分かんだろ』と会話するのを見ていたハキムは軽く笑みを湛えてから、スッと姿勢を正して敬礼し。
「じゃあな。 スターク、フェアト。 また会おうぜ」
「おぅ、またな」
「えぇ、また」
おそらく、この時を最後に当分は会わないだろうと踏んで別れを告げた事で、スタークは踵を返しながら軽く手を振り、フェアトは常通りに頭を下げていた。
そして双子は、そのまま王城へと向かう──。
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