第26話 その国の名は
大陸の中心部に座す一つの大国と、その国をぐるりと囲むかのように四方に位置する四つの国。
東には──五つの国の中で最も魔法を活用する技術に秀でており、先に挙げた
西には──五つの国の中でも特に武術の流派が豊富であり、各国の高名な武闘家の殆どはこの国の出身であるという【武闘国家】、“西ルペラシオ”が。
南には──五つの国の中では異質といえば異質、海にせよ山にせよ美味しく芳しく新しい食材の発見が絶え間ない【美食国家】、“南ルペラシオ”が。
北には──五つの国の中でも唯一、狂いのない金属音が鳴り響き、『いずれ魔法を過去の技術に』という度を超えた方針の【機械国家】、“北ルペラシオ”が。
そして、中央には──これまでの四つの国にも建立しているものとは荘厳さで遥かに上をいく純白の王城が建ち、国名に関しても四つの国とは全く整合性のない名前がつけられた大規模の国が旗を掲げていた。
──ちなみに。
ヴィルファルト大陸において『季節』という概念が存在するのは──中央の国ただ一つであり、それ以外の四つの国は常に同じ気候となっているのである。
その為、空から見ると──北の国だけにしんしんと積もるような雪が降り、南の国だけが文字通り南国の如きカラッとした日差しを浴びているように思えた。
「あれがそうか……しかし、何つーか……あー……」
そんな五つの国が織りなすヴィルファルト大陸を見下ろしていたスタークだったが、どうやら何かが引っかかっているらしく顎に手を当て思案していた時。
「『真ん中の国だけデカくないか』、ですか?」
「……心を読むんじゃねぇ」
完全に姉の思考を読み切っていたフェアトがチラッと横目で見ながら声をかけるも、スタークは簡単に考えを読まれてしまった事に軽い苛立ちを覚える。
「姉さんは単じゅ──あぁいや、えっと……」
「無理に取り繕うともすんじゃねぇ」
「ご、ごめんなさい。 つい……」
一方、軽口を叩こうとするも姉が割と本気で拗ねているのを察したフェアトが、ハッとなって言い直そうとするもスタークはすでに妹から完全に目を離してしまっており、それを見たフェアトは素直に謝罪した。
本気で貶すつもりは──微塵もないのだから。
「……で? 何で真ん中だけあんなデカいんだ。 あの国って確か……名前が印象的だったような気が……」
その後、溜息混じりに気を取り直したスタークが指を差しつつ、大陸の中心を大きく陣取り居を構える国について尋ねながらも、どうやら『昔に名前を聞いたかもしれない』、そして『記憶に残る名前だったかもしれない』という事は覚えていたらしく、腕組みしながら首までかしげて再び思案を始めてしまう。
「それは覚えてるんですね……まぁ、あの国は私たちに
そんな折、『印象的だという事を覚えていただけでも大金星だ』と脳内でのみ姉を称賛していたフェアトは、言うまでもないが国名を覚えており、おまけにその名は自分たちに関わりがあるのだと口にした。
──それもその筈。
「あの国は──【教導国家】“
大陸の中央に位置するその国の名には、スタークとフェアトの母親であり、この世界の救世主の一人であり、かつて神々に選定された聖女でもある──。
“レイティア”の名を──冠していた。
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