第31話「ただ知りたいだけ」
「春野先輩」
「ん? なぁに?」
また恋人繋ぎに切り替えてにぎにぎと遊び始めた春野先輩に声をかけると、とても緩みきった顔を向けられてしまった。
かわいらしく小首を傾げながら俺の顔を見上げてくるさまは本当にかわいいのだけど、同時にこの人は本当にあざといなとも思う。
だけど幸せそうな笑顔を見ているとこちらも幸せな気分になってくるので、そこに関しては何も言わない。
「お昼の続きの話をしたいです。結局白雪先輩が俺の事を知っていたというとこらへんで話が進まなかったので」
俺が春野先輩の同行を許したのはこれを聞くためだ。
じゃないと、いくら彼女といっても孤児院に連れて行くのは躊躇していたと思う。
「あっ……えっと……」
しかし時間が空いてしまったからか、一度は話す覚悟を決めた春野先輩だったが躊躇うように俺から視線を外した。
にぎにぎと握ってくる力が少し強くなったのは話したくないというアピールなのかもしれない。
だから俺は同じように少しだけ力を入れて握り返し、優しい笑みを意識して口を開く。
「大丈夫です、ただ知りたいだけですので。それで何か先輩に酷い事を思ったりするなんて事は絶対にありませんから」
一瞬頭に『詐欺師のような笑顔ね』という白雪先輩の顔と言葉がよぎったけど、本当に俺は知りたいだけなので笑顔のまま先輩の顔を見つめる。
先輩はそれで何を感じたのかはわからないけど、ゆっくりと口を開いてくれた。
「君がコンテストで優勝した帰り――私は、君と話をしないといけないと思ったの」
「話、ですか……?」
「うん、そうだよ。君からしたら凄く勝手な事だと思うだろうけど、コンテストで優勝をする君を見て、珍しく興奮するふぶきを横目に私はこのままだといけないと思った」
興奮をする白雪先輩というのが想像つかないけど、今大事なのはそこじゃない。
つまり少なくとも、コンテストを優勝する俺の姿を目にした春野先輩は俺に好意とは反対の感情を抱いていたという事なのだろう。
それがどうして今のような――言い方は少しあれだけど、デレデレのような感じになってるのかは多分このまま話を聞いていればわかるはずだ。
「それでね、私は少し抵抗するふぶきを連れて君の後を追ったの」
「それって――」
「うん、あの日も君は今日と同じで施設に顔を出してたね」
そう、春野先輩の言う通り俺はあの日、コンテストを終えた後美優さんに車で送ってもらって孤児院に顔を出していた。
まさかその後を付いて来ていただなんて、この人の行動力は本当にどうなっているのかな。
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