テスラ・シャイン

 吾輩わがはいはシャイン家の食い詰め者三男坊として産まれた。



 六男だとか八男なら”傭兵”として暮らしていけただろうが、”貴族の義務ノブレスオブリージュ”のために家から一人は従軍させなくてはならない。

 基本的に、家督を相続することが出来ない身に産まれた吾輩わがはいは、境遇の同じ他の者達と共に当然の如く軍学校に進学した。




 そう、”団体行動軍学校”にだ。




 人より恵まれた仙力シィェンリー、希少な”属性”の”光”に恵まれた吾輩わがはいは良かった。




 しかし、此処は”団体行動軍学校”なのだ。






「おい! テスラ!?」「何も!」「いい加減にしろよ!!!」


 自慢では無いが溢れんばかりの仙力のせいで、興奮などで容易に光り輝く吾輩わがはいは皆の足を引っ張るせいで”落ちこぼれ”だった。

 吾輩わがはいが強すぎることも有り、周囲から浮いてもいた。






「テスラ、お前には白虎パイフー様と____朱雀ヂゥーチュエ様の才能が有る。その【閃光フラッシュ】、磨けば


 そんな吾輩わがはいを見捨てずに向き合ってくれたのが教官、第二の父と慕う事になるマークス・ワンフィールド殿だった。


「今は、まだ無理なようだが。指向性を持たせられる朱雀様の”適性”を磨いていけば敵だけを、狙った相手だけの眼を眩ませることが出来るぞい。目の見えぬ相手を集団でポコポコに出来るなんて、痛快ぞい!」


 そう言って根気よく、何度も、何度も、嫌な顔をせずに何度も、笑顔を絶やさずに大きな腹を抱えながら付き合ってくれた。

 やがて自宅に招かれて、ニーナ殿も含めて家族ぐるみで親しくしていただいた。




 マークス殿とニーナ殿のためになら、この命を捧げることも構わない。






 そんなマークス殿の、、あんなにもか弱く、小さくなった背中など見たくはないのだ!




 父を案じ、非難する国民を恨むニーナ殿の怒りと悲痛の顔など見たくはないのだ!!






 そのためには”優勝”を! ”勝利”を!! ”媒介”を国に持ち帰らなければならないのだ!!!






 ーーーーーー






 予選でタイチとテスラになったニーナの試合は単純に説明したと思う。



 ___多くの者は”無手”で見せた【閃光】の後に放たれた神技シェンジー】をタイチが【瞬歩神技】で躱す。

 そのまま近づいたタイチが【雷波紋レイブォウェン】を至近距離で放ち、あっけなく決着が付いたことだけが分かったのだ。____と。




 しかし今は、




 詳しい試合内容をテスラだけが知り、状況と____が違うのだ!!!






 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






 ーー現在のタイチの仙力は”球体”からの回復により【神技】2.3回分ーー



 審判の開始の声は、すでに発せられている。

 しかし、両者は睨み合ったまま動かないでいた。




「「「……………………」」」




 それを不満に思う、咎める、はやし立てる観客の最初の声も止み、水を打ったような静けさで二人を見つめていた。




 予選の際にニーナが放った【閃光】で目を眩ましても、タイチが青龍チンロンの【仙術シィェンシュ】で正確に相手を捕捉したことをテスラは【神技】に集中していた。

 放てば、全てを消滅させる必殺の【神技】に!




 対するタイチも予選の際の破壊痕、自身が【神技】を、【瞬歩シュンブー】を使避けきれなかった事実。

 迫りくるテスラの【神技】に対して、即座に【瞬歩】を使うために集中している!!




 さながら、”落ちてくるコイン開始の合図”の無い、ガンマン同士の決闘なのだ!!!






 ーーーーーー






 一見はタイチが【合気道】により、相手の”気”を、”機”を、”起”を感知できるので有利に思えるが、

 ひりつくような殺気の飛び交う中で、負けるのだ。




 二人の間で唯一、開始を告げられるテスラの”気”が変わったことで試合が動く!


「【日輪サンシャイン】!!!」


「【瞬歩】!!!」


 この”機”を逃さずと、テスラの”起”に反応し、タイチが【瞬歩】を使って回避を試みる!!




 しかし___



「ぐふぅ!!!」



 ___【日輪】の発動を、万力のような力を込め、鼻血を噴き出しながら全身に血管と浮かび上がらせたテスラが耐えていた!!!






 真に素晴らしい”フェイント”は反応しなければ____そのまま攻撃として使えるモノ!

 直前まで、極限までに集中したテスラが視界から一瞬消えたタイチに反応し、発動を止めた!!

 そして、タイチを確かめると___



吾輩わがはいの____勝ちだぁぁああ!!!」



 ___万感の想いを込めて、必殺の”光”を放つ!!!!!






 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






 テスラの前方が扇状に、放射線状に



 __タイチは信じていた。



 誰もが”光”が、周囲が光った際にタイチが敗北したのだと思ったのだろう。

 実際に、チィェンは泡を吹いて気絶してしまった。




 ____タイチはテスラを




「【雷波紋レイブォウェン】!!!」


「がああぁぁぁあぁぁぁあ!!!??」


 突如として、テスラの背後から”いかずち”が、電撃が迸る!




 ______テスラの戦士としての才能と嗅覚を!!!






 自身も【神技】の経験が有り、テスラを信じていたタイチ。

 背後でなく、あえて正面目の前に移動することでテスラの虚を突き、肉体を”雷”と変えて動く【雷動レイドン】で背後に回っていた。



 いかに”雷”の速さといえど”光”を回避は出来ない。



 しかし、予想外の正面に立たれ、二度目の発動のタイミングを狂わされたテスラの【日輪】を躱しきるには、そので充分!




 まさに____負けるのだ。






 ーータイチの残り仙力・【神技】1.1回分ーー






 予選の時と同様に、【雷波紋】で気絶したと思われるテスラ。




 __『勝者! コレエ__「まだだ!!!」




 しかし、予選から状況と___



「まだ終わっていない! 吾輩わがはいは!! まだ戦えるぞ!!!」



 ___が違うのだ!!!




 眼も虚ろ、脚も震え、口から黒煙を吐きながらもテスラの意識は、戦意は衰えていない!!!






 ーーーーーー






 ”光”の兵器、光学兵器と聞いて、何を思い浮かべるだろうか?

 光線、ビーム、ロボットアニメやSF映画に出てくるものを想像するだろう。

 しかし、現実では限られた空間でしか”光”は殺傷能力を基本的に持たない。




 現代の科学力をもってしても、軍隊が”光”を殺戮兵器として運用出来ていない!




 つまり、”光”に攻撃力を持たすこと自体が【神技】級。

 テスラに”光”の攻撃手段は、”属性”での攻撃手段が【神技】以外に無い!






「負けられない! 負けられないのだ!!!」


 今、テスラが使っているのは【仙弾シィェンタン】という、仙力を込めた弾を撃ちだすという単純な【仙術】。

 当然、タイチ程の実力者を倒す威力が無く、あまつさえ当たることもなく躱されてしまっている。



 無理をすれば、ヨシコのように体力を仙力に変えれば、もう一度だけ【日輪】を使えるかもしれなかったが___


 ・【神技】の使用は一度きり。


 ___”縛り”のせいで、テスラに二度目は無かった。

 しかし諦めない、






「出し惜しみは無しだ! お前に!! お前のに失礼だからな!!!」


 テスラの必死の覚悟に、タイチも覚悟を決める。






「はあぁぁぁあ。また要らない”お節介”を……」


「うふ! それがタイチさぁんの良い所ですよぉ」


「うん! タイチ先生せんせーの、そゆとこ好きーー!!」


 ため息をついて呆れるホンに、ジィェンとクゥイが笑って応える。






「【雷波レイブォ】!!!」


 ”波紋”を集め”波”と化した、今のタイチが出せる最大限の【仙術】で、テスラとの試合に終止符を付ける!!!






 __『勝者! コレエダ・タイチ!!!』






 ーータイチの残り仙力・【神技】0.6回分ーー






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