適材適所

 情報を聞き出すのに、以上の方法が有るとは俺は思わない。




「うんうん。大変だったぽよね。お父さんのマークスさんの為に、ニーナちゃんは幼いのに偉いぽよ」


 俺の住む街の最高の妓女ジーニュチィゥリーの接待、皇帝の払いで飲む最高の酒。


「うおおおおん!!! そうなのだ! 健気であろう!? マークス殿には吾輩わがはいも恩義が有るが、ニーナ殿の為にも! ニーナ殿と姫様の友情の為にも!!!」


 男を堕落させる三大要素、”酒”、”女”、”賭博”を内の二つの挟撃に為す術もなく陥落する。

 ベロベロに酔いながら、本当の猿のように顔を真っ赤にして喋り続ける猿の獣人のテスラ。




「だから! 吾輩わがはいは____【閃光フラッッァシューーー】!!!」


「「「「うおっまぶしっ!??」」ネ」ぽよ」


 作戦は成功だったが、テスラが興奮して時々、光り輝くのが難点だった。

 俺、ヤー、チュイ、リーの四名が、無意識であるため目潰しの効果が無いが”光”の【仙術シィェンシュ】に困らされていた。






「大体のことは聞き出せた。タイチ、明日も早い。お前は寝ろ」


「後は任せるぽよ。酔った客の扱いなんて、慣れっこぽよ」


 ヤーとリーが眩しそうにしながら俺に、部屋に戻るように指示を出す。




「タイチ殿~~! 何処いずこへ行かれますか~~。吾輩わがはいの話は終わっておりませんぞ~~」


「まあまあ、落ち着くネ。話ならワタシ達が聞くヨ」


 くだを巻くテスラを慣れた調子で抑えるチュイ達を背に、早々と部屋に向かう。






「うおおおおお!! 【閃光フラッッァシューーー】!!!」


「「「うおっまぶしっ!??」ネ」ぽよ」






 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






 食事や温泉施設から離れた宿泊施設に向けて、夜の闇の中をを頼りに歩いていた。




「【波紋ブォウェン】」


 おもむろに、俺を中心に仙力シィェンリーをソナーのように広げて探知、探索する【仙術】を放つ。




 日本庭園を模しているのであろう通路に

 いくら、今晩の月が強く輝いているとはいえ、時間で点いていたはずの明かりが無かった。




「こういうは良いのか? なあ、____ポンチャイ?」






「酔われているのに。素晴らしい警戒力です。タイチ様」


 夜の闇の中、【波紋】で探知した物陰から南国の”タルワール”代表選手。




 褐色の肌、灰がかった銀髪を背中まで伸ばし、少し長く尖った耳の亜人のエルフのポンチャイ・ウェストが姿を現した。






 ーーーーーー






「試合前の襲撃は、さすがに”本気で、勝つ気で”と言っても不正だろ? どういうつもりだ?」


 通路の明かりを消し、殺気ではないが闘気を漲らせたポンチャイ。

 テスラのように親睦を深めるでもなく、情報収集が目的でも無いことが明白だった。




「タイチ様。貴方様の【武道】、感服いたしました。是非にわれの国、”タルワール”に欲しい!」


 そう宣言しながら、ご自慢の”影”の中へと埋没していく。


「”タルワール”に欲しい! ご承知いただけないのなら!! !!!』



「”タルワール”の王も承知の上か!? 俺をさらうと言うなら、この後の試合も、諸国の不快を買うぞ!」


われが忠誠を誓ったのは、姫様にだ。王ではない! その姫様に【武道】が興味深ければ持ち帰れと御所望なのだ!!!』


 王の指示でなく、心酔している姫の為、ほぼ独断といった凶行のため、説得は難しい。

 ここで襲撃することを計画している以上、容易に逃走も出来ないだろう。




「【雷起レイチー】!」


 ポンチャイの”影”に対して、月明かりだけでは不安を覚え、左手に”いかずち”の火花を纏わせて”光”を確保しようとする。






『笑止! われの”影”は、夜の”闇”にて強力になっております。その程度の”光”では、子揺るぎもしないのですよ!!!』


 月明かりですら”影”が飲み込み、俺が”光”を出しても、一メートルの視界を確保できているかも怪しくなっていた。

 夜の”闇”を味方に付けた”影”の濃密な仙力が、【波紋】による探知ですら阻害し始めていた。




『殺す訳には、いきません。このまま【波紋】が効かぬ程に”闇”が、”影”が濃くなった時』



 __「__タ___~」




『その時に、われの全身全霊をもって捕らえさせて頂く!』



 ____「わ__い___しは_わって__んぞ! _イチ殿~~!」




『御覚悟を! タイチ様!!!』



 ______「話が、まだ終わってませんぞ! タイチ殿!! 【閃光フラッッァシューーー】!!!」






『ぐわあああああああああああああああああ!!???」


 走ってきたテスラ酔っ払いの”光”で”影”から、俺が殴り飛ばしたように引き釣り出されたポンチャイが吹っ飛んでいた!






 ーーーーーー






「ごめんネ、タイチ。逃げられたヨ」


「まさに猿のように機敏にな。大丈夫だったか? ウザ絡みされてないか?」


「タイチぃ、大丈夫だったかぽよ?」


 逃がしたテスラを追いかけて、ヤー達が心配そうにやって来た。




「ああ、むしろ


 一斉に頭に”?”を出しながら、俺の見つめる先を見る一同。






「貴様! われの邪魔をするか!!?」


「お!? 吾輩わがはいる気かぁ? 【閃光フラッッァシューーー】!!!」


「ぐわあああああああああああああああああ!!???」


 純粋にポンチャイの方がテスラよりも格上の実力者だとは思うが、”光”と”影”、相性が最悪なのだろう。

 実力が拮抗してしまった二人の泥仕合が繰り広げられていた。






「酔っ払いのケンカだ。犬も食わん。寝るとするか」


「そネ」


「ぽよ」


 俺達はテスラとポンチャイを、そのままにして宿泊施設へと向かって行ったのだった。






 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






「ようやく帰って来たわね。外が騒がしいみたいだけど、何か有った?」


 宿泊施設の談話室で独り、孔雀の獣人のような精霊ジンリンのホンが読書をしながら待っていた。



。酔っ払いのケンカだ」


「……そう。仮初かりそめといってもあるじが帰ってきたから、私は寝るとするわ。夜更かしはだからね」


 心底、ケンカなどに無関心な様子で寝に行こうとするのを___



「起きていたのなら、丁度よかった。明日の”仙術”で確認したいことが有ったんだ」



 ___引き留めた。






「あ゛あ゛ぁん!!! 聞こえなかったの? 夜更かしはだと」


「聞こえたさ。それなら、だろ?」


 俺の静止の声を振り切って行こうとしたホンの動きが止まる。




地元民に有名なモノらしいじゃないか? ≪帝都ムーダンに行ってきました・クッキー≫。朱雀ヂゥーチュエが皇帝に憑いて、帝都コッチ暮らしが長いから____?」


 答えず、こちらに背を向けているホンだが、だった。



「あぁ~~。チィェンのためにも、1つでも多く優勝しないと、なんだが。優しい精霊の誰かが、くらいで協力してくれないかな~~?」




「…………__袋……」


 ん?






で、手を打つわ……」


 ”3”欲しいか!? この卑しんぼめ!!!






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る