狂乱の”極真武”

祭りへの招待状

「帰ったゾーーーー!!!」


 勢いよく傭兵の受付所に入っていく三苗トウコツの陽気な大声が轟く。



「「「………………」」」



 入るまで、ガヤガヤと喧騒が聞こえてきた受付所から一切の雑音が消え去っていた。




「なんだ! なんだ!! 元気が無いゾ!! オマエら!!!」


 それもそのはず、一見可憐で可愛らしい、虎のようなフードの付いたパーカーを着て、ギザ歯で、獅子のような長い尻尾をした小柄な少女は___




「……あまりウチを邪険に扱うと____!! 凡愚ぼんぐ共が!!!」


「「「ひぃいいぃいぃぃ!!!??」」」


 ___悪神”四凶スーシィォン三苗トウコツの”現身シィェンシェン”と呼ばれる精霊ジンリンなのだから!




「……やめろ、トウコツ」


「ハ~~イ! わかったゾ。タ~~イチ!」


 それを従える俺も同様に、同業者傭兵達から恐れられている……。




「くくく。愉快ね。褒めてあげるわ。感謝なさい、タイチ。貴方は私の退屈をしのいでいるわ」


 朱雀ヂゥーチュエ精霊ジンリン、孔雀の亜人のようなホンが笑いをこらえていた。






 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






「大金貨!? 3枚だと!??」


「はい。それもでの話。月の家賃ですね」


 勝手に俺のだと言い張っている浅黄色の揃いの受付服を着た、長い三つ編みの受付嬢のチィェンに”引っ越し”について聞いていた。

 驚いたことに、月の家賃が大金貨三枚、俺の世界の日本で三百万円が”特級”傭兵の住まいの基準らしいのだ。



「本来なら特級に登りつめるまでに莫大な資産が有るはずなのです。タイチ様は異例の”特級飛び級”。そこまでの貯えが無いのは分かっているのですが」


「特級ともなれば、それなりの住まいに住まないと”示し”が付かないと?」


 上が良い暮らしをしていないと、下の仕事の意欲にも関わってくる。

 良い物を食べ、良い服を着て、良い家に住む”特級”を目指して、”五級”から目指す若者を育てなくてはならない。



「それも有りますが、技師や厨師と違って荒事の多い”傭兵”。妬みや恨みも多いのです。領主様くらいの厳重とは言いませんが、それなりに警固で広い住居でないと物件が無いのです」


「復讐や特級の資産目当ての襲撃で、周囲に被害が出るので密集地の売り手が無いということだな」


「おっしゃる通りです。として意見を言わせてもらば、”引っ越し”はオススメしません。元々、ツァンさんの店の周囲の方々はかは別として。”グゥイ”が近くに住んでいることをなさっています」


 ”爆弾”が手頃で安価な密集地の住民に理解を得るより、このまま住んだ方が良いという訳なのだ。

 納得も理解もしているし、何よりツァンが手狭だろうが賑やかな方が言っている。




「? どうした、タイチ? ウチの顔を覗き込んで」


 今まで”引っ越し”の最大の理由だったトウコツは、俺に敗れたことで従順だが___




、醜く死んでいくのを見られたいと思うの!!!??』


 ___面と向かって言われた手前、顔を合わせづらい!!!






 ーーーーーー






 そういった事情と近々に開かれる武術大会”極真武ジーヂェンウー”に向け、この国の皇女・シーと”無手”部門の連覇を目指すフェイランからの修行の催促が激しさを増していた。

 この世界に無い【武道】の流出を防ぐのと、単純にから傭兵の仕事に精を出して逃げていた。



 俺に憑いている精霊のリウガンちゃんやシンは、激務に嫌気がさして留守番を決め込んでいた。




「タイチ様は、トウコツ様を従えた一件から働き詰めですよ。ちょっと休憩。などに行ってはいかがでしょうか?」


「観光か。帝都で、7日後だったか。”極真武”が開かれるのは。が手薄になっているだろうし、のんびり出来そうで良いかもな」


 自称、受付嬢のチィェンの言葉を素直に受け取り、この世界の温泉やレジャーを思い浮かべていた。



 __この時の俺は遠征の連続で疲れていたのだと思う。



「タイチ様? ”極真武”が開かれるのに、に行って何をするのですか? この国、赤壁チービー帝国に住む者として。いえ、この世界に住む者として見逃せませんよ!!」



 ____このチィェンが、自分の得にもならないことを勧めてくる女性ではないことを忘れていた。



「そんなタイチ様に≪指名依頼≫が入っております。これは≪強制依頼≫でも有りますが、依頼内容を鑑みるに。タイチ様にとっては観光ピクニックに行くような手軽さで、報酬も破格ですよ!」



 ______皇帝の目の前で【武道】を見せていたのを忘れていた。






「皇帝、”光武グゥァンウー帝・ダオ”陛下からの≪指名依頼≫です。____≪”極真武”の”無手”の部門にて。その卓越な【武道】を無しで披露せよ≫とのことです」






 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






≪強制・指名依頼≫を詳しく読みながら、ツァンの店に帰る道すがら。




 __『そっちの世界で言う”魔王”みたいなのが居ないからね。全人類の敵。この世、全ての悪。そういうのが居ないのに呼んじゃうと駄目なんだってさ』




≪タイチが創造神・黄龍フゥァンロン様の意を汲み。武力の、【武道】の一国集中を危惧するのは、大いに敬意と好感をちんいだいている≫


 皇帝・ダオの≪依頼書≫を片手に、この世界に来た時のガンちゃんとの会話を思い出していた。

 世界中の人間が一致団結するような世界全体の敵魔王が存在しない以上、極度な軍事力の偏りは要らぬ紛争を招くだけなのだ。



≪だが、すでにフェイランを始め、多くの者達が。がタイチの【武道】を目にし、つたないながらも会得した者も出てきている≫


 この世界の【仙術シィェンシュ】の効率的な動作の補助を使えば、【武道】のような動きは出来るのだが、その動きをことは出来ない。

 仙力シィェンリーと引き換えに得る、動作の最適化をため、覚えられないように【隠蔽】も働いているのだ。



≪それを良く思わない他国の陳情が有るのだ。ついては”極真武”にて、タイチの【武道】を披露することで解消しようと考えている。直接、目にし、体感し、有用だと判断したのならタイチからの指導を、教授を得る制度を創ろうと思っている≫


 俺が住む赤壁帝国の人間だけでなく、全国各地に【武道】を広めるのなら創造神の意向を尊重できると考えているのだろう。

 他国の重鎮と知己を得られるのなら、【武道】を広めることに障害と格差が無くなる。




 つまり、俺の知識が、【武道】されることが無くなるのだ。




≪長期的に見れば、タイチにとっては損が多い事だと思う。だが、長きに渡る平和の均衡を【武道】のために、タイチのために崩す訳にはいかないことを理解して欲しい。そのために”媒介”を授けると約束しよう≫


「おお~~! 参加しただけでか!? ま、ウチのタイチが優勝出来ないはずが無いからナ! ”媒介”を2個、貰ったも同然だナ!!」


「優勝者に”媒介”が出るのか?」


「”無手”、”仙術”、”武器”の部門ごとの優勝者に好きな”媒介”が与えられるわ。大抵が、私のあるじの”羽根媒介”だけどね」


 皇帝に、権力者に取り入ることで”信仰”を効率的に集めている朱雀の精霊であるホンに、隣で≪依頼書≫を盗み見ていたトウコツの発言の裏を取る。



「中央の”赤壁チービー帝国”、極東の島国”洋露波ヤンルーブォ”、西方の列国”ダーフォ”、常夏の南国”タルワール”。それぞれの代表者4名。当日参加も含まれた予選を勝ち抜いた4名。総勢8名のトーナメント勝ち抜き戦。お祭り騒ぎのこそが”極真武”よ」


 ”無手”はフェイ・ランが前回の優勝者なので代表枠、俺は一般参加の枠での参加になるらしい。

 予選からなら、より多く【武道】を見せることが出来るだろうからという考慮も有るようだ。






「ん? まだ≪依頼書≫が。別のが混じっているな」




≪手数ではあるが、タイチの指導を得られるまで帰らんと駄々を捏ねているちんの娘・シーを。その護衛を任せたフェイ・ランも連れて来てもらいたい。【神技シェンジー】を使っても構わん。”極真武”に間に合うように頼んだぞ≫






 あいつら、まだ向かってないのか!!? 皇帝に心配かけるなよ!!!






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る