対立する”願い”

『”媒介”を貰ってるのに、すぐに”願い”を叶えないってのはさ。ツァンちゃん、リーさんみたいなで、白虎パイフー様に関係が薄い”願い”なんだろうね』


 俺達から離れるのが寂しいのか、ガンちゃんが仕事に向かう前に愚痴っぽく言っていた。


『正直、全部タイチ様に丸投げしたいんだけどね。リーさんとクゥイちゃんの”願い”の”感謝信仰”がてるんだって。玄武シェァンウー様に行くはずの”信仰”が、タイチ様を経由しているからか白虎様と青龍チンロン様にも分散してるの』


『リーの時は白虎の【神技シェンジー】。クゥイちゃんの時は白虎と青龍の2つを使ったからな。純粋に玄武だけに感謝信仰できないという訳か』


 玄武が”願い”を叶えると”媒介”を渡したのに、”願い”を叶えたのが俺で、その方法に他の神の【神技】が使われたのでは、分散してしまうのは仕方ない事なのだろう。



『まあ、こういう難しい案件の為にタイチさまを優遇してるんだから。無理だと思ったら、タイチ様に泣きついても良いって言われてるけど……』


 そう、言葉を切って、ガンちゃんが朗らかに笑いながら言った。



『僕だけで上手くいったら褒めてね。うんと、褒めてね。めっちゃ甘やかしてね!』




 ーーーーーー




「難しい話は、クゥイは分かんないけど。クゥイは玄武様よりタイチ先生せんせーに感謝してまーー!」


「ちょっと!? クゥイちゃん? そこはボクも居るんですから、嘘でも玄武様に感謝してくださいよ!!」


 俺に助けられてから、暇さえあればツァンの店に顔を見せるようになった領主の娘であるクゥイちゃんの子供特有の無邪気で悪意の無い発言に、玄武の精霊ジンリンであるシンが注意する。

 ガンちゃんが居ないことを質問してきたクゥイちゃんに居ない理由を説明していたのだ。



「クゥイちゃん。しばらく来れなくなると言ってたけど、今日は大丈夫なのかい?」


「なんかね~~。帝都から、お客さんが来るから家に居なさいって言われたの。でも、みたいだから。今日は、タイチ先生せんせーの所に行って良いって」


「クゥイちゃんなら、いつでも歓迎だお! 気兼ねなく来てね」


 ツァンが、のん気にクゥイちゃんが訪ねて来たことを喜んでいたが、話は簡単ではなかった。

 光星グゥァンシン街が所属する国、赤壁チービー帝国の首都からの客人が

 領主が対応することになる相手なら、それなりに地位が高いはずなのに遅れているということは、という事だ。


「……だからか。俺としては、弟子にしろ、手合わせをと、が居ないのは助かるが。大変だな、領主様も」


 俺と同じく、傭兵特級の”万能ワンノン”のフェイランが、クゥイちゃんの護衛に就いていないのが納得できた。

 トウコツの一件のため、しばらく付きっきりのはずなのに居ないということは、それほどのなのだろう。


「タイチ殿の。フェイ・ラン様は、お客人たちをに行っております」


 俺の考えを裏付けるように、クゥイちゃんの護衛に就いていた者達の代表が発言する。




 面倒なことに、また巻き込まれるのではと、一抹の不安を抱かずにはいられなかった……。






と言うより、と言うんですよ。”お節介焼き”のタイチさんの場合は」


 リウ、一言多いぞ。




 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






「全員! 俺から離れろ!!!」


 急速に近づいてくる気配を察知し、全員から少し離れた位置に移動し、

 何事かと全員、身構える。



「__タ__うわぁ__」



「うわぁぁぁん!__タ__様!!」



 聞こえてきた声が、泣き声なので、俺以外の警戒が解かれ始める。



「うわぁぁぁぁぁん!! タイチ様ぁぁぁ!!!」


 黙っていれば可愛らしい顔を、涙と鼻水でグシャグシャにしながら、受け止める俺のことを全く考えていない勢いで、胸に飛び込んでくる。



「お帰り、ガンちゃん。その様子だと……だったみたいだな」


「はぁ~~。ガンガン、タイチさんの仕事から何を学んでいたんですか?」


 あまりの勢いに、仰向けに倒れた俺に馬乗りになりながら泣いているガンちゃんをなだめていると、リウが苦言を呈していた。


「だって! だって! 無理だよ! 僕にはっていうか、タイチ様でも難しいと思うくらいの”願い”なんだもん!! めっちゃ無理だよ!!!」



「タイチさぁん。お忙しいところ悪いんでぇすけど。お客さんですよぉう」


 ジィェンに連れられてきた客人、ガンちゃんが”願い”を叶えるのが無理だと判断した相手だろうと思われる客が入ってくる。



「ガンちゃん殿。急に駆け出さないでください。場所が分からないんですから、視界から消えられると追えません。ガンちゃん殿の速度に追いつくのは大変なんですから」


 入ってきたのは細身でポニーテールが印象的な、ネズミの獣人の少女だった。

 全体的に地味な格好だが、首元のスカーフだろうか、それが一際に目立っていた。


「ごめんよぅ、ツァィちゃん。この人が話してたタイチ様。僕には無理だったけど、タイチ様なら何とかしてくれるよ。絶対。きっと。たぶん。……どうにか」


「ガンちゃん殿!? そこは言い切って頂かないと!!!」


「話も聞かない内には返答は出来ないし、話を聞きたいのだが?」


 ”願い”をしたツァィとガンちゃんが問答していたが、馬乗りにされたままで”願い仕事”の話を聞くのは体裁が悪かったので一旦、落ち着こうと提案した。



 美女に馬乗りにされるという、金を払ってでも男なら、お願いしたい状況だが女性陣の眼が痛い。

 特に___



 「うふ。うふふ。うふふふふふ」



 ___ジィェンの眼が






 ーーーーーー




「”願い”は、≪悪事を働く兄達を止めたい≫のです。私の種族は夜目が効きます。かつて、そういった種族が悪事を働いたせいで、忌避されるようになりました。おかげで慢性的な貧困です。兄達は、それを解決するのに窃盗などの悪事を働きました」


 一旦、座って、茶を一口飲んでから、とくとくと”願い”に至る経緯いきさつを語り始めるツァィ。


「問題はなんだよ、タイチ様。1つは、悪事に至る≪貧困≫を解決しないと駄目だってこと。もう1つは働いた≪悪事≫が、めっちゃヤバいの!」


「どのくらいんだ?」


 どちらが答えるか、ガンちゃんとツァィが顔を見合わせて、意を決してツァィが答えようと俺を見据える。




「今、ちまたを騒がせている”黄巾フゥァンジン党”は、




 窃盗ぐらいなら服役し、キレイな状態で出てこれるだろうが、をしたのであれば、死罪も有り得ることに頭が痛くなってくる。




「最後の問題はツァィちゃんは≪めたい≫。お兄ちゃんは≪めない≫。そして、お兄ちゃんは白虎様の”媒介”を持ってることなんだ。つまりは拮抗してるんだよ。有利な点が、タイチ様が居ないと無いの。こんなの僕には無理だよ!!」




 ”媒介”持ち、今回も【神技シェンジー】級の妨害を覚悟するだけでも頭が痛くなってくる。






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