”二つ名”を冠する者達
ご機嫌な朝飯
朝早く、まだ夢見心地のなかで聞こえてくる、食材を軽快に刻む包丁の音。
汁物が煮込まれ、じっくりと魚が焼けていく良い匂いが、タイチの寝室まで届いていた。
「あ、おはようございまぁす。すぐ出来ますからぁ、待っててくださぁいねぇ。うふ」
タイチが座るはずの席に、すぐに用意された熱い茶と今日の朝刊が置かれていた。
≪義賊”
物騒な見出しの最近、話題の強盗団の記事を読みながら、世話になっている
「怖いですよねぇ。ウチは悪徳なんかとは無縁ですから安心ですけど、
「
タイチから
独り暮らしの男の朝食では用意するのが困難な、
シンプルな豆腐とワカメの味噌汁、甘い卵焼き、魚の塩焼き、サラダ、ごはん。
日本人が考えるであろう単純で、至高の朝食の一つの形が、そこには在った。
中国風の異世界で、日本人の男女が巡り合ったおかげで生まれた、
ーーーーーー
「ふわぁぁあ。凄いお。美味しそうだお」
「タイチさんから、ツァンさんの店で働かせると言われたので、接客は前職の方から習ってそうでしたけど。料理も出来るなんて凄いです」
出来上がった朝食の匂いに誘われたのか、ぞろぞろと起き出してくる。
「ジィェンもタイチ様と同じ世界からの”
「本人が心機一転。
当然、俺はジィェンの本当の、日本名を知っているが、それを言うと”知り合い”だったのがバレるので言ってはいない。
「フフーン! 尊く慈悲深き
成り行きで付いて来た玄武の
ーーーーーー
「さあ皆さん、食べてみてくださぁい。お口に合えば。うふ。嬉しいですぅ」
「うわぁあ、コレって”ミソ”でしょ? タイチ様、僕コレ苦手。だって見た目が、ウ〇コみたいじゃん」
「……
正しい作法にのっとれば、【実体化】せずとも食事を取れるのだが、ジィェンが精霊達の反応を見たいと言うので【実体化】させる前の発言で良かった。
「ふうわぁ……。美味しいです。ツァンさんのように、ガツンと来るものが有りませんけど。優しくて、染み入る、朝に相応しい食事です」
「美味しいですね。偉くて賢いボク。可憐で健気なボクに相応しい繊細な味ですね!」
ジィェンにも見えるように【実体化】した
「ガンちゃん、さぁん。何か苦手なモノでも有りましたかぁ?」
味噌汁を手に、苦い顔をしていたガンちゃんが、不安そうに覗き込むジィェンの視線に意を決して一息で飲み込んだ。
「……っ、プハァ!! 美味しい!? 何コレ!?? 本当に”ミソ”? めっちゃ
「? え?
「……めっちゃ
「うふふ。お口に合って、良かったですぅ。それに”さん”は要りませんよ、タイチさぁん。私は貴方の物なんですから、気楽に呼び捨ててくださぁいねぇ。うふふふふ」
多少の波乱があったが、楽しく和気あいあいとした
ーーーーーー
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「あれ? タイチさん。そんな立派な
食事を終え、食後の一服をしている時に目ざとく俺のキセルが変わっているのに気付いたリウが、無駄遣いだと騒ぎだした。
「ああ、コレは
まさか俺のタバコとの交換が、一服だけではなく、リーのキセルごとの交換だったとは夢にも思わなかった。
あまり飾り気は無いが、ちょっとした刃物や打撃に余裕で耐え抜き、”
相当に高価なのだろうが、惜しみなく交換したリーは、流石は色街一の
「チィゥ・リー。タイチちゃんと、寝た女の人……」
「うふ。うふふ。うふふふふふふふふふふ」
リーの名前が出たことで、ご機嫌な朝飯の空気が変わる。
いつ”消滅”するか分からない俺に好意を寄せてくれているであろう女性から幻滅されるために、何も無かったとはいえリーと一晩を過ごしたかいがあったようだ。
嫌われる加減を間違えると、
「ヤッホーーーー! タイチぃ!! またセック〇しよ、ぽよ!!!」
俺の世界での一昔前のトレンディ・ドラマの名セリフと共に訪れたリーのおかげで、張り詰めた均衡が崩れる。
ご機嫌な朝飯が一転、鬼が住むか邪が住むか”
今日は、俺の命日なのか?
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