金とメンツと

 麻雀における最大級にして、全自動麻雀卓の繁栄により失われたいにしえのイカサマ技。



≪燕返し≫



 【仙術シィェンシュ】を用いた身体強化などで補えば、漫画やアニメのように一瞬で行うことが出来るだろうが、封じられた状態では数秒は必要な大技。

 大金が必要なことが露呈している俺の、そんな大技を許すほど相手の警戒は緩くない。



 仕込みとして、伏せ牌にしていることの違和感を消した。


 相手がするまでは、自分からはイカサマをせずに、だと見せかけた。


 通常の手順では手牌を揃える”理牌”と呼ばれる時間の、注意が散漫の時に行う大技だが、それも見送った。



 最後に___



「”腕輪”が壊れていない……。【仙術】が使われていない。……イカサマを証明できない以上、認めざるをえないな」



 ___あらかじめ、懐に忍ばせていた”白虎の爪媒介”で【神技シェンジー】を使い、すり替え過程を飛ばして、天和結果を得た。


 体内からではなく、からの【神技】の行使で、”腕輪”すらも誤魔化した。




 ーーーーーー



「タイチ殿が目指す大金貨100枚まで、ちと足りませんが。残りは傭兵の仕事をするなり、世話になっている娘っ子に借りるなりで足りるでしょうな。確かに、この局で終わりですかな」


「おい。何を言っている? まだ俺のだろ」


 勝手に終わった空気になっているところに水を差す。


「行けるとこまで行く!!!」



 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー







天和テンホー!!!」


 俺のイカサマを止めても大金貨八枚焼け石に水のため、満足に止められず、五連荘目の≪燕返し≫への警戒が薄れたところでの、純正≪燕返し≫。



「ほっほっほ。今度は、の≪燕返し≫ですかの。この歳で挑戦者、格下になるとは思いもしませんでの」


おきなよ。今のは警戒していたら、分かったはずだぞ。……確かに、これ以上の闘牌は無駄か」


 すでに目標近くまで稼いだ俺から、むしり取るのは不可能と悟り、警戒を解いているのも加味した≪燕返し≫。

 目標を大きく越えたことにより、周りからも事実上の敗北宣言白旗が出てくる。

 元締めマフィアの”財力”を脅かす存在であること証明し、対等な交渉をするための”賭場荒らし”。



「勝ち金は要らない。その替わりに”迷い人ミィーレェン”のジィェンを”自由”にしろ。そうすれば対外的には、凄腕の雀士を”女”で手懐けた。抱きこんだとして、メンツも立つだろう」


「対外的には、それでも良い。しかし、"制裁"を試さねば、の若いのが納得せんでな」



 この場に居る一人の男の”腕輪”が、壊れる音がする……。



「…………」


「ワシの組織の四天王”フォンリンフォシャン”。その1人と試合しあってもらうぞ」




 ーーーーーー



 事前の調査で、このマフィア組織チー”のことは調べられるだけ調べている。

 ピン爺さんが組織のボスで、四天王と呼ばれる”風林火山”の四人の幹部が存在する。

 四天王が誰かは分からなかったが、名乗られたことで二人は分かった。



 その内の一人、シャン・チュイとの試合が執り行われる。



「”腕輪”、外さなくてイイネ? 【仙術】は禁じてないネ」


「使おうとしたら、勝手に壊れるんだろう? なら、使


「そういうことは、ワタシに得物を使わせてから言って欲しいネ。素手は、本来のワタシでは無いアルネ」


 無口だったのは、訛りが強いのが恥ずかしかったのかもしれない。

 俺の安っぽい挑発にも冷静に対処するさまは、さすがは四天王といったところか。

 金やメンツをクリアしても、俺の力を示さねば組織が納得しないのだから、試合うのは仕方ない。



 あくまでも試合なので、殺し合いにならぬように選択する【武道】は、【柔道】!



 ヤクザ、マフィアの問題が”金”と”メンツ”と”暴力”で解決するのは、どの世界でも変わらない。




「ほっほっほ。では……開始!!」


 武術や武道が発達していない世界の住人とはいえ、突進タックルといった体格差、身体能力任せの原始的な攻撃法に大きな違いは無い。

【仙術】によって、巨体では考えられない速度で突っ込んで来ようと、捌き方に変わりはない。



「ちょコまかと! ハしっこいネ!!!」


 相手の肩や掴みかかる腕を起点に、捌く自分の腕を闘牛士のマントに見立て、横に避け続ける。

 捉えきれぬ俺に業を煮やして、足を止め、力任せのな拳を突き出してくる。


「甘い!!!」


 柔道着ではなく、俺にとって馴染みの薄い中国の民族衣装を着ているチュイに使える【柔道】の技は少ない。


「ヅッハァ!!?」


 服を掴まずに繰り出せる【一本背負い】で背中を、しこたま叩きつけられたチュイが衝撃で動けなくなる。



「”受け身”の概念が無ければ。当然、そうなるよな」


 習いたての頃を思い出しながら、動きの止まったチュイの左眼に”銃口”を押し当てる。


「”玩具”でも、ゼロ距離この距離で撃たれれば痛いだろう?」


「痛い、どころでは無いネ!?? 参った! 失明は嫌ヨ!!?」


 死ぬんじゃなくて、で済むと思われているほうに衝撃を受ける。

 強化された状態が凄いのか、”銃”が弱いのか分からなくなってくる。



「これが噂に聞く【武道】か。”腕輪”も壊れていない。チュイ、完敗だな」


「得物が有るなら、せめて【仙術】を使わせられタと思うけどネ。素手は苦手ヨ」


「無手とはいえ、四天王が敗れたのなら若い者達も納得しよう。このチー・ピンの名にかけて。そのジィェンとやらを”自由”にすることをしようぞ」


 ”約束”とピン爺さんが宣言した時に、何処からともなく玄武シェァンウーの媒介、手のひらサイズの”甲羅”が現れ、俺へと吸収される。



「フフーン! 慈悲深き尊い玄武様の精霊ジンリンの、偉く賢いボクが説明してあげましょう、タイチさん」


 媒介が現れたことに、リウの介抱とガンちゃんをなだめていたシンが解説する。


「例えば”リンゴが食べたい”という”願い”が有ったとします。それが叶うのは、どの時点でしょうか? 買う代金を手にした時? 買ったり取って来たりして、手にした時? 実際に口にした時? 判断は人それぞれです。リーさんにとって、ピンさんの宣言は”願い”が叶ったと判断するに値する程のことなのだと思います。だから、成就したとして”媒介”が届いたのでしょう」


 ”母の病を治したい”青年が、薬草の場所を知った時でも、実際に飲ませて治った時でもなく、薬草を手にした時に”媒介”を放出したのは、このためか。




 奇妙な≪指名依頼≫から始まった一連の”問題願い”が、解決する。






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