卒業式編11-2

「卒業生代表 答辞。卒業生代表は天野雪さんです」


僕の送辞が終わり、雪さんの答辞の番になる。


「春の暖かな日差しが体全体に感じられ‥‥」


凛とし、堂々とした佇まいは、卒業生どころか来賓の人達も魅了し、答辞が始まってからは誰も彼女から目を反らす事ができなくなっている。


雪さんは寮で僕と話すときはいつも素の声で話す。それに、最近は学校で会うことも減っていたのでここまで格好良い雪さんを見るのは久しぶりだった。


雪さんの答辞を聞きながら、僕がこの学校に来た最初の日、去年の始業式で話していた頃を思い出す。


あの頃の雪さんは少し恐い印象があり、他人に厳しい人だと思っていた。


でも実は抜けているところがあり、他人に優しく、自分のやることに妥協せずに努力をする人だった。


僕は今壇上で話しているような格好良い雪さんも好きだけど、ちょっと抜けていたり、喜怒哀楽がはっきりしている雪さんの方が好きだ。


だから、答辞では素の声と言葉で話して欲しかったけど予想通り雪さんは答辞で素の声や口調で話すことはなかった。


まあ、教師や保護者がいる前で、素の声で話すことはないと思ってはいたので当然と言えば当然だろう。


神崎さんの方を見ると、僕の送辞の時と同じく少しつまらなそうな顔をしていた。

その後は何事もなく卒業式は終わりをむかえた。


卒業式が終わってからは、卒業生は教室で最後のHR、僕たち生徒会は式の後片付けをすることになっている。


すぐにHRは終わってしまうけど、外で待機している在校生に囲まれてかなり時間がかかると思うので多少ゆっくり片付けをしていても大丈夫だろう。


生徒会と先生が手分けをして、パイプ椅子を集めて、フロアシートを片付ける。


30分ほどで片付けが終了して、残りは献花を花束にするだけになった。

僕の案で雪さんと神崎さんに花束を渡すことにしたので、僕が作るべきだがセンスが無さそうだったので神無に作るのを頼むことにした。


「神無、昨日言った通り、この花とこの花で花束を作ってもらってもいい?」


カーネーションとカスミソウを指差し、お願いすると神無は少し嫌そうな顔をして考えごとをしていた。


「色合いが良くない」


「でもこの組み合わせがいいんだ」


神崎さんには生徒会でかなりお世話になったので、花言葉が『感謝』の花でどうしても作りたかった。


「綺麗になるようにがんばる」


「ありがとう」


神無は一言溜め息をついたが、僕のわがままを聞いてくれて、なんとか予定通りの花で花束を作り始めてくれた。


僕と神無が花束を作っていると、花宮さんが白い葉っぱを片手に持ってきて僕達の方に向かってきた。


「伊澤先輩と十川先輩、できればこの花も入れて欲しいんですけど」


「これは何て言う名前の花なの?」

「白妙菊ですね」


葉っぱにしか見えないけどこれもお花なのか。

花宮さんが持ってきた花は白い雪の結晶のように綺麗で初めて見る花だった。献花で使っている花は全部僕がチェックしているはずだから見落としていたのかな。


「その花も綺麗だけど、できればカーネーションとカスミソウだけにしたかったんだけど」


「感謝ですか?」


あっさりと僕の考えを見抜かれて、ちょっと照れくさくなってしまう。


「うん、花宮さんは花言葉に詳しいんだね。じゃあその花も?」


「白妙菊は感謝ではないですね。でも神崎さんに渡したいんです」


「優、私も賛成」


特に何も言わずに花宮さんの顔をじっと見ていた神無も白妙菊を入れることに賛成した。


「神無も?どういう花言葉なの?」


花だけを見ると雪の結晶に似ているし雪さんの花束に入れた方がいいんじゃないのかな。


「花言葉は『穏やか』と『あなたを支えます』です」


「たしかに朱音さんが怒っているところは見たこと無いし穏やかっていうのは合っているかも」


「「……」」


二人とも顔を見合わせて、同時に深い溜め息をついた。


「十川先輩、よろしくお願いします」

「わかった」


それから暫くの間、神無と花宮さんは僕のことを無視して黙々と花束を作った。

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