文化祭8-3(一ノ瀬麗視点)
今回の話は8-1の麗視点になります。
「麗ちゃん、やっぱり十川さんと伊澤先輩の事気になってるの?」
「別に」
「授業中、貧乏揺すり凄かったけど」
「え、そんなにひどかった?」
「ここ何日かずっとそうだよ。そんなに気になるなら生徒会で会った時に聞けば良かったじゃん。
昼休みにでも本人に聞いたらどうかな?」
「答えてくれないかもしれないじゃん」
「いや、多分何もないだろうし普通に答えてくれると思うよ」
「うーん、じゃあ昼休みに会いに行こうかな」
昼休みになり、ご飯も食べずに教室から出ようとすると葵に話しかけられた。
「行ってくるの?」
「うん、十川先輩にどうなったか聞く。じゃあ行ってくるね」
「え、本人って伊澤先輩じゃなくて十川さんのほうなの?麗ちゃん、ちょっと待って」
歩きながら話していたので葵が何を言ったのか聞こえなかったけどまあいいか。
勢いで2年の教室に来てしまったけど、やっぱりやめておこうかな。急に聞いても迷惑だし、冷静に考えれば教室でこんな話をする訳にはいかない。
「あれ、生徒会の一ノ瀬さんじゃないっすか。優さんを呼びますか?」
「いいえ、今日は伊澤先輩にではなくて十川先輩に用事で」
思い留まって、帰ろうと思ったところで教室から出てきた2年生に話しかけられて、ついつい素直に用事を言ってしまった。
たしかこの人、葵達と同じ寮の人だよね。
「神無さんっすね。今呼ぶからちょっと待っててください」
まずい、心の準備ができてないのに、十川先輩がこちらに来てしまった。
「珍しいね」
「突然、すみません。ちょっと話がありまして」
「いいよ、生徒会室で話そう」
「えっ」
それだけ言うと十川先輩は伊澤先輩の方に歩いていった。
多分、生徒会室の鍵を借りに行ってくれたのだろう。
たしかにこんなところでは聞けないから助かるけど、「何の話し?」とか「突然来て何なの」くらいは言われてもおかしくないと思っていた。やっぱり十川さんは人の考えていることがある程度わかるっていうのは本当なんだな。
十川先輩が鍵を開けてくれたので生徒会室に入る。
「私は優のことが好きだよ」
「えっ?」
「それを聞きに来たんじゃないの?」
いや、たしかに最終的にはそこを確認したかった。でも、まずは日曜日の嘘彼氏として挨拶に行った結果がどうなったのかを聞くつもりだったから急に核心に触れられてどうしようもなく動揺してしまって何も言えなくなってしまった。
「昨日は普通に私の両親に挨拶しただけ。お母さんにはばれたけど他は順調に終わった」
あ、そっちも答えてくれた。
現在進行形で考えていることもこんなに完璧に読めるのか。
話が早くて、助かるけどちょっとずるい気もする。
「嫌だったよね、ごめん」
十川先輩は顔にはあまり出ていないけど僅かに体が震えているし明らかに悲しんでいる。
ヤバい、今思っていることもわかるっていうことは、悲しんでいるって見抜いたこともバレているってことだよね。
「すみません、嫌な訳じゃないんですけど混乱してしまって」
「大丈夫、慣れてるから」
見れば見るほど大丈夫ではないことがわかってしまう。
やっぱり私と十川さんはお互いに余計なところまで、わかってしまうから話すべきではなかったのかも知れない。
「後ろを向いて話しても良いですか」
「うん、ありがとう」
こちらこそ汲み取ってくれてありがとうございます。
失礼なのは承知で頼んで良かった。私が見なければ十川先輩にはわからないし、私も十川先輩の考えていることがわからないからお互いにそっちの方がいいよね。
「じゃあ、ここから本題に入りますね」
「うん」
「私も伊澤先輩のことが好きです。どんな手を使っても手に入れたいくらいには。伊澤先輩はこの高校にいるうちは女の子と付き合うとその人に迷惑が掛かるから付き合えないと言ってました」
「でも、男だと知っている私達からすれば、迷惑だとは思わないですよね。そのリスクも込みでそれでも好きで付き合うわけですし」
「うん、そうだね」
「だから、もし私が告白するならそれを伊澤先輩に伝えます。それを言えばもしかしたら付き合ってくれるかもしれないので。
そこも考えると伊澤先輩がこの学校でだれかと付き合うなら、私か十川先輩しかいないと思います。天野先輩と葵は伊澤先輩のことを恋愛感情で好きだとは思えませんし」
「うん、そうだと思う」
「だから決着をつけませんか?」
「どうやって?」
「一緒の日に告白するとかはどうですか?」
「優に告白して友達じゃなくなるのは嫌。麗は優と仲が悪くなってもいいの?」
「私もそれは嫌ですが、仮に私が告白して伊澤先輩と付き合うことになったとしてもいいんですか?」
「嫌だ…」
振り絞る様な声が聞こえてきて、身体を見る必要もなく色々な感情が混じっていることがわかってしまった。
「なら、告白しましょう」
「わかった。でも恥ずかしいからちょっと時間ほしい」
「意外とそういうところもあるんですね」
「うるさい」
なんか十川先輩はさらっと言うような気がしたからちょっと意外だった。
「私はもう覚悟は決まってますがいつがいいですか」
「一年後とか…」
「先に告白しますよ?」
「待って、冗談」
「じゃあ、次会った時にいつにするか聞きますよ」
「わかった」
結局、昼休み中にはいつ告白するのかは決まらなかった。
何とも言えない気持ちで教室に戻り、スマホを確認すると、天野先輩から全体ライソが来ていた。
え、もう台本ができたの?
台本を全員でみるってことは今日生徒会があるということだ。
次会った時と言ってしまった手前、今日は会いたくなかった。
天野先輩の仕事の早さが今日だけは憎く感じてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます