後輩6-13
学校が終わり、神無と二人で寮へ帰ろうと下駄箱の方に向かう途中で、同じく帰ろうとしている一ノ瀬さんと花宮さんに会った。
「伊澤先輩と十川先輩、一緒に帰ってもいいですか?」
「うん、一緒に帰ろうか」
「はい。じゃあ麗ちゃんまた明日ね」
一緒に帰ろうと誘ってくれた花宮さんとは対称的に一ノ瀬さんは何かを考えているような顔をしていた。
「葵、ちょっと待って。私も寮まで一緒に帰る。十川先輩と伊澤先輩もいいですよね?」
「麗ちゃん?いつもは校門から車で帰ってるよね?」
「たまにはいいじゃない。今日は寮から車を呼ぶから」
いつもと一ノ瀬さんの様子が違うのか、花宮さんはかなり困惑している。
「僕はいいよ」
「私も」
神無と僕が頷き4人で帰ることになった。
いきなり4人で帰ることになったけど共通の話もないし、若干気まずい空気が流れてしまっている。
そんな事を考えていると一ノ瀬さんが僕のことをじっと見る。神無に僕の事を男だと知っているか聞けってことかな。なるほど、そのためについてきたのか。
僕も今すぐ聞きたいが聞き方が難しい。もし気づいていなかった場合は間違いなくこいつは何を言ってるんだと思われるよね。それとなくぼかして聞いてみようかな。
「神無、僕の秘密知ってる?」
「どれのこと?」
「えっ、どれって何個もあるの?」
「うん」
まさかすぎる回答に逃げ出したくなるが勇気を振り絞って聞くことにする。
「知っているやつで一番大きいのを言って」
「雪と麗に男ってバレてること?あと葵にも今日バレたんだね」
男と知っているとかのレベルじゃなくて他の人にバレていることもバレていた。
後ろで花宮さんが驚き、一ノ瀬さんがやっぱりという顔で見ている。
「いつから男だって知っていたの」
「初めて会ったときから」
「な、なんで?」
「目を見ればわかる」
最早、仕草とかですらないのか。
そんなことでばれるならもう女装とか化粧をする意味もなくなるんだけど。
だが、バレた原因なんて今はどうでもいい。
知っているなら何で今まで誰にもバラさなかったのかの方が気になる。
「なんで知っていたのに誰にもばらさないでくれていたの?」
「おもしろいから」
そういえば、最初に寮で会ったときにもおもしろいって言われたことがあったな。
そうなると、本当に神無は最初から気づいていたのか。
「ばらさないでくれてありがとう、でも心臓に悪いから僕には教えて欲しかったよ」
「気づいてると思ってた」
一ノ瀬さんもそうだけど僕のことを買いかぶり過ぎている気がする。
「やっぱり伊澤先輩はちょっと可愛そうですね。目とか歩く仕草でバレるなんてどうしようもないです。」
「ありがとう。僕もそう思いたいよ」
珍しく花宮さんが僕に優しい言葉をかけてくれた。
「ちなみに、天野さんにはどうやってばれたんですか?」
「裸を見られた」
「馬鹿じゃないですか」
花宮さんに急に梯子を外されてしまった。たしかにそっちはまるで同情できないよね。僕もかなり不用心だったと思う。
それから、少し話していたらミスコンの話題になった。
「麗ちゃんは結局ミスコンの賞品はまだ決めてないの?」
「うん。私としてはいらないんだけどね。まあ生徒会に入ったから天野先輩と同じで生徒会に寄付しようかな」
「十川先輩は伊澤先輩に何をお願いしたんですか?」
そういえば、ミスコンの賞品はチョコ一年分を貰っていたけど僕へのお願いの内容は結局聞いてなかったな。
「まだ言ってなかった。優、私の彼氏になって」
「「「えっ」」」
花宮さんは顔を真っ赤にして興味津々でこちらを見て、一ノ瀬さんは僕のことを睨み付け、僕はどうして良いかわからずにただただ困惑した。
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