後輩6-10

生徒会のドアの前で話していると目立ってしまうので、とりあえず花宮さんにも生徒会室の中に入ってもらうことにする。


「葵、そもそもなんでここにいたの?」


「ごめん、麗ちゃんが生徒会室の前にいたから声かけようと思って。でも先輩と二人で中に入ったから気になっちゃって」


僕と一ノ瀬さんって盗み聞きされること多いな。東雲さんにもキスの時に見られていたし。これからは気をつけなければいけないな。いや今更気を付けたところでもうすでに手遅れなんだけど。


「葵、聞いた内容は誰にも言わないでほしいんだけど」


「うーん、でも男の人と生活するってちょっと…私の場合は麗ちゃんと違って寮も一緒な訳だし」


至極全うなことを言われた気がする。

自分で言うのもおかしいが女子寮に男がいるのって普通に嫌だよな。


「あと、モデルの話って土曜日にSNSであげていた弥月君のことですよね。まさか先輩だったなんて」


花宮さんは、一ノ瀬さんのSNSもチェックしているのか。まあ友達のSNSを見ることは普通か。


そんなことを僕が思っていると一ノ瀬さんが任せてくださいと言わんばかりの表情でこちらを見ている。


「葵、もし先輩が男だってばれたら先輩は退学になるわ。当然それだけじゃなくて伊澤先生も学校を辞めさせられると思うの。親族だし知らないっていうのは流石に無理があると思わない?」


「たしかに…伊澤先輩はどうなってもいいけど先生が学校を辞めるとかは本当に困る。先生が学校と寮長を辞めたら私も多分学校辞める」


なんで花宮さんはそんなに姉さんのことが好きなんだろう。

しばらく無言が続いたが花宮は決心したように話し出した。


「仕方がないので秘密にしておきます。でもあなたのためじゃなくて伊澤先生のためですからね」


「うん、ありがとう。本当に助かるよ」


「そういえば、麗ちゃんはなんで男だってわかったの?私なんて寮で一緒に生活しているのに全く気づかなかったんだけど」


一ノ瀬さんが歩き方を見てわかったと説明すると花宮さんは同情するような顔でこちらを見た。


「流石にそれでバレるのは伊澤先輩が可愛そうですね。伊澤先輩、私達以外に男だって知ってる人はどのくらいいるんですか?」


「うーん、理事長と姉さん、担任の岡先生、それ以外だと雪さんにもばれていますね」


「やっぱり、天野さんにもばれていたんですね」


「一ノ瀬さん、なんで知ってるの?」


「体育館で天野先輩に会ったときに気づいている感じがしたので」


「あと、十川先輩も知ってますよね?」


「え、そうなの?」


花宮さんが驚いて一ノ瀬さんに聞いているが僕の方が100倍は驚いている。


「神無にはばれていないはずなんだけど」


「いえ、天野先輩の方はあまり自信はありませんでしたけど十川先輩は絶対に気づいているはずです。

先輩が知らないことにびっくりしました」


僕が驚きと焦りで固まっていると、花宮さんが話し出した。


「ま、まあ十川先輩のことは後から伊澤先輩が確認すれば済む話です。そういえば私も生徒会に入りますからね」


「え、なんで?」


「なんでって、あなたの秘密がばれないように助けてあげるためですが」


「ありがとう。花宮さんはやっぱり優しいね」


「だから、あなたのためじゃないんですってば」


花宮さんはばれてしまったが秘密にしてくれるみたいだし、姉さんには本当に感謝するしかないな。


「伊澤先輩あと一人はどうするんですか?」



「うん、どうしようかな」



「どうしようじゃないですよ」



やっぱり花宮さんは僕にだけあたりが強い。



「私も麗ちゃんも友達が少ないので自分でなんとかしてくださいよ」


「うん、とりあえず頑張るよ」


教室に戻り、残りの昼休みの時間を全て使って生徒会への勧誘をしたが結局、成果はなかった。

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