第244話 ブロセリオア森林1

 様々な所を経由してストンリバー神聖国首都ナイジェールに飛んだセージは、ネイオミ、サイラス、ロードリックたちから報告を受けた。

 塩や魔石など資源の確保と王国への販売、新首都と新街道、神霊亀の扱い、騎士団の訓練の状況、税収の活用、学校の建設などなど多岐にわたる。

 セージはそれをおごそかに聞き采配を振るう、なんてことはなく、それぞれに任せた。

 方針だけ伝えて、あとはよきにはからえ、というやつである。


 完全な丸投げであるが、それも仕方がない。

 話を聞いていて特に問題を感じなかったからだ。

 というより、セージは話を聞いて、なるほどなぁと感心していた。


 綺麗な道があれば流通がよくなって発展するといううろ覚えの知識や学校を建設して教育することは大事だろうというなんとなくの考えでセージが言ったことがある。

 道を作ると簡単に言っても、元々ある道をどうするか、点在する町のどこを通すか、出現する魔物は、材料は、維持管理は、などと考えることは多い。

 学校ならなおさらである。カリキュラムといった内容を決めるという以前に、まず子供を一ヵ所に集めるというだけで難しい。


 セージは内政関係は苦手だ。

 ゲームは基本RPGで内政要素のあるゲームはほとんどしていなかった。

 元研究者なので経営や経済には明るくない上に、理系ということで歴史など社会科系のことも深くは覚えていない。

 そんな状態で的確なアドバイスができるはずもないのである。


 むしろ、セージは仕事を増やしにかかる方だ。

 王宮で起きた事件、ローリーたちの保護、騎士団の勇者化計画、ドワーフたちの受け入れ。

 様々な問題を山積みにしてぶん投げていた。

 ネイオミたちは頭を抱えながら問題に取りかかっている。


 そんなセージが首都に来て何もしなかったわけではない。

 仲間にした魔物が住む町を作ると宣言し、飛行魔導船で国を視察。

 山、森、川、湖、洞窟などできる限り多様な環境が近くにある場所を選んだ。

 そこは当然のことながら人が住む場所ではない。

 数キロ離れた場所に町はあるが、その町でさえ主要な道からは外れている。

 魔物の領域であった。


 そんな場所だが町を作ることはできると考えた。

 セージは『メテオ』と『メイルシュトローム』で辺りを一掃し、教会を建てて塀を作る。

 それができれば安全地帯だ。

 そこを魔物たちの町にしようという計画である。


 そして、町に隣接する形でセージたちの新たな家を建設予定だ。

 そこは新首都や新街道予定地から離れており、結局ネイオミたちを悩ませることになるのだが。

 ただ、ロードリックは恩があり、ネイオミとサイラスは上級職への訓練を始めていたので、文句もない。


 そして、ある程度形ができればセージとルシールは再び魔物集めに旅立った。

 他のメンバーは素材集めをしている。

 その目的は神霊亀戦に向けての準備だ。

 とうとうセージは神霊亀を討伐することに決めた。

 それは邪神戦とストンリバー神聖国のためだ。


 これから邪神との戦いが想定されることから装備の強化も重要となる。

 神霊亀は巨大かつ、有用な甲羅と爪、牙を持ち、さらには甲羅にアダマンタイトを含む様々な鉱物がついていた。

 倒すことで得られる素材は文字通り山のような量だ。


 そして、神霊亀は旧ナイジェール領の中央付近にいる。

 神霊亀の進行方向はわかっているため、その先に何かを作ることは避けるべきだ。

 しかし、神霊亀が進行した跡は道ができているため利用できれば楽である。

 しかも南北にほぼ一直線なのでルートとしてもメリットが大きい。

 これらの理由により討伐準備に向けて動きだしたのである。


 という大きな動きはあるが、セージたちのやることは変わらない。

 セージたちは首都ナイジェールから

東の町ウィスラからさらに東にあるブロセリオア森林に向かって進んでいた。


「よしっ! デビルプラント、ゲットだぜ!」


「セージ、それはまた何かの真似なのか?」


「まぁそんな感じ。さあ、次はルシィさんだよ」


「あぁ、次こそは仲間にしてやる」


 セージとルシールは気楽に話しながら木々の間の道を歩く。

 ブロセリオア森林の手前の森で出てくる魔物はレベル40程度。

 通常攻撃だけでもすぐに倒せる程度の魔物しか出てこない。


 そんな気楽な場所なので、ルシールとセージは交互に倒すことに決めて運の良さを競っていた。

 ただ遊んでいるわけではなく、ステータスにはない運のパラメーターが隠されていないかを確認する意図もある。


 それに、ゲームだと仲間になるかの判定は最後に倒した魔物になるのだが、現実だと明確に戦闘シーンが分かれているわけではない。

 その辺りも含めて検証を続けていた。

 一撃で倒されたデビルプラントが起き上がってルシールを見ている。


「おっ! 仲間になるのか!」


「今回は引き分けだね。名前は?」


「セージは何にしたんだ?」


「僕はスミレンにしたよ」


「スミレン?」


 ルシールは小首を傾げる。

 それは由来がわからなかったからだ。

 大量の魔物を仲間にするので、忘れにくく、呼びやすい名前がいい。

 なので、基本の名付けは魔物の名前から取ることが多かった。

 そんなルシールにセージは説明する。


「ここでは見ないんだけど、この魔物に似たスミレって植物があったんだよ」


「こんな植物が生えているのか」


「いや、大きさとかは全然違うよ? 花の部分の色と形が似てるくらいだからね。それで、ルシールさんのデビルプラントの名前は?」


「うーん。じゃあ私は、デビプンにするか」


「デビプン……?」


「略しただけだが、可愛い名前だろう?」


「可愛い……? うん、まぁ、そう言われてみれば、可愛いかも……?」


 そんなたわいない話しをしながらセージとルシールは探索を続ける。

 魔物の出現する深緑の森で遠足のような雰囲気だ。


「それにしても調教師のランクは上がり易いな。もうランク70だぞ」


「そうだね。最初は仲間になる確率が高いし、仲間になる魔物の種類も多いし、思ったより楽だったよ」


「セージは仲間になる魔物を知っているしな」


「まぁね。でも、それより裏技を見つけたのが大きいけど」


 調教師のランクは魔物を二体仲間にすると1上がるように設定されている。

 それはすぐにわかった。

 そして、仲間になる魔物は全部で百三十体程度であり、イベントで仲間になる魔物を除き、一体につき四体まで仲間になる。


 そこでセージは効率的なランク上げを考えた。

 例外はあるが、基本的に魔物は強くなればなるほど仲間になる確率が下がっていく。

 さらに、一体目、二体目、三体目と数が増えるごとに確率が下がる。

 例えば、スライムの一体目は二分の一だが、二体目になると八分の一、三体目は三十二分の一、四体目は六十四分の一にまでなるのだ。

 ただ、強い魔物であれば確率千二十四分の一なんて魔物もいるので、スライムは仲間になりやすい魔物だとも言える。


 どの魔物を何体仲間にしていけば効率良くランクを上げられるか考えたとき、セージはふと思った。

 ルシールが仲間にしたスライムを仲間にすればどうなるのかと。

 仲間になる確率を上げるため個人で魔物集めをしている、つまり二人で二体仲間にできれば、四体仲間がいることになる。

 そして、ルシールが仲間から外して、セージがその魔物に対してパーティー申請を出すと仲間になり、ランクが上がったのである。


 ただ、最初の一体は自分で仲間にしなければならない、という制限もある。

 セージが二体仲間にして、ルシールが0体の時、セージがルシールに二体渡してもランクが上がらなかったのだ。

 しかも、仲間になる確率が下がるというバグが起こる。

 つまり、二人が二体ずつ仲間にしてから渡し合いをするのが最も効率がよかった。


「それは本当にな。調教師が四人いればさらに楽なんだが」


「だよね。でも調教師になるのは結構時間がかかるし、なるべく急いで仲間にしたい魔物がいるし。それに、たまには二人でっていうのもいいしね」


「……まあ、いつも自由騎士団と行動しているからな。こうやってセージと二人旅をするのは久しぶりか。思ったより早く終わりそうなのが残念なくらいだ」


「でもまだしばらくは二人だよ。強い魔物なら仲間になる確率が下がるから結構倒さないと――あっ! あれ!」


 特技『ホークアイ』によって遠くに見えたのはドラゴンが飛ぶ姿。

 セージが仲間にしようと考えていた、目的の魔物ドラゴネットである。

 ルシールもセージが見る方向に視線を向けて頷く。


「ドラゴネットで間違いない。ブロセリオア森林に着く前に見つけたな」


「急がないと! 他の者に先をこされたら困るし!」


 セージとルシールは『ステルス』を使ってドラゴネットの所へ走り出すのであった。

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