第134話 アルヴィンは観察する
グレンガルム王国第四王子にして王都第一学園魔法科一級生主席、アルヴィン・レイ・グレンガルム。
アルヴィンは観客席から第二学園対第三学園の戦いを観察していた。
そして、焦っていた。
(どうして僕の年にこんなのが当たるの……)
目の前では第二学園の三番手、炎帝の弟子アリシア率いるパーティー『第二学園一番剣』が第三学園の二番手、ハドリー率いるパーティー『ハゴミアラ』と戦っていた。
すでにハドリーたちは魔法攻撃を抜けて近接戦闘が始まっている。前衛は魔法『ウィンドバースト』を織り混ぜて二人を足止めしていたが、一人は後衛に抜けていた。
(適当な名前の癖に強いし)
パーティー名の『ハゴミアラ』を聞いたときはクエスチョンマークが浮かんだが、その後に「ハドリー、ゴードン、ミック……」と名前の紹介がありメンバーの名前を並べただけであることがわかった。
騎士団の者なども見に来ているため、そこまで適当なパーティー名は珍しい。
ただ、適当な名前でも強いことに変わりはない。
例年であれば第二学園の三番手が第三学園と戦うことなどなく、ひどい年は二番手すら見ることがないくらいだ。
今年は逆に第三学園が有利な状況である。
「魔法で足止めするのは難しそうね。良く訓練されてるみたい」
「あの装備、ブルースの装備と似ているな。だとしたら、魔法の威力を軽減する装備だ」
「第三学園があの装備を持っているのか? 全員が?」
「魔法への耐久力を考えたら妥当ね。私の特級魔法なら大きくHPを削れるでしょうけど。ただ、あの剣の攻撃力を考えると、私のアイスウォールでも止められないかもね」
「それだと近接戦で二人相手は厳しいな。後衛に回るかもしれん」
「そこは止めなさいよ。あの前衛も頑張ってるでしょ」
「あれが通用するのは一発目だけだろ。後衛は前衛のサポートに付くべきじゃないか? ほら、あいつ、炎帝の弟子。近接戦闘でもなかなか良い動きしてるじゃないか」
「あれくらいなら私でもできるわ」
アルヴィンは堂々と座りながら、第一学園の選抜メンバーが話し合っているところを静かに聞く。
四番目とはいえ王子である。気安く会話するわけにはいかないし、相手に気を使わせてしまうので、皆の話に入ることはほとんどない。
今年の第三学園は装備が良く、ステータスも高い。第二学園を押す展開になっている。
ただ、第一学園は装備と魔法に関して、第二学園より上である。剣の技術としては一歩及ばないところはあるが、十分戦えるレベルだ。
第三学園相手でも負けるとは思っていない。
(この強さなら勝てるだろうけど、第三に苦戦したとなったら絶対いろいろと言われるだろうなぁ。嫌だなぁ)
アルヴィンは第四王子。兄が三人、姉が四人、妹一人、王の八番目の子供である。
アルヴィンは十五歳で成人したばかりだが、第一王子は二十五歳。すでに次期王として公表されており子供もいる。
第二王子は一歳下で騎士団の大隊長級、第三王子も剣術に秀でているが、文官になっており文武両道である。ちなみに姉たちも魔法騎士団や研究者など各方面で活躍している。
そして、アルヴィンはそんな兄、姉と比較されながら成長してきた。
剣術、魔法、勉強どれをとっても敵わない。
唯一、モノづくりが好きで生産職のランクだけは勝っていたが、王子が生産職につくことはない。
生産職になりたいとも言い出せず、こっそりとモノづくりに励んでいる。
元々控えめな性格で童顔ということもあり、王宮では可愛がられているが、舐められているとも言える。
その事に関して、専属の教師から小言を言われたり、姉から怒られたりしていた。
逆にその程度で済んでいるのは、第四王子の役割が無いからである。
第四王子が王になることはまず無いことだ。むしろ王の座を狙って国が荒れるような事が無いよう、あえて緩く育てられていた。
王子としての品や能力は身に付けさせられたが、第一王子たちと比べると自由な部分は多い。
それを幸とみるか不幸とみるかはその者次第だが、アルヴィンとしてはもっと放置されても良いと考えている。
第一学園には生産科がないため、興味があった魔法科に進んだ。
王子としては学園で情けない姿を見せるわけにはいかないのだが、今までも魔法にはしっかり取り組んでおり、第一王女程ではないが優秀だった。
そして、王子としてやらされてきた訓練と詰め込まれた知識もある。
何とか無事、魔法科のトップにはなれた。王子として当然のことだと受け止められてはいたが。
トップでいることが最低限というプレッシャーの中で嫌になっていたが、それでも何とかここまでやってきている。
そして、一級生になった今、残すところは学園対抗試合と卒業試験だけだ。
今年の第二学園は炎帝の弟子など注意する相手はいるが、総合的には前年より劣る評価である。学園対抗試合も無事乗り越えられそうだと思っていた。
しかし、そんな状況で急な第三学園の躍進である。今年の第三学園は強いとは聞いていたが、第二学園を圧倒するほどだとは誰も思っていなかった。
心の中では頭を抱えたいところだが、王子という肩書きを持っている手前、そんなことをするわけにはいかない。
(第三学園の三番手が弱いなんてことないかなぁ。せめて二番手と同じくらいの強さであってほしいけど)
第二学園は辛くも『ハゴミアラ』に勝ち、次の戦いに挑もうとしていた。
ただ、受けたダメージは大きく、メンバーは魔法使い一人が倒されており、敗北は見えている。
一番手より弱い相手が出てくるならまだ勝機はあるが、通常は順に強くなっていくため、可能性が低いことはわかっていた。
そして、次のパーティーがぞろぞろと現れ、アナウンスが始まる。
(うーん。なんだか普通のパーティーに見えるなぁ)
第三学園の三番手パーティー『幻想冒険団』は、普通の構成、前衛三人に後衛二人に見えた。
アルヴィンは闘技場の中央辺りに座っており、良くは見えなかったが、女性が一人と頭一つ背が低い者が一人いる様子であった。
特技『ホークアイ』を使って見ている付き人からも同様の報告がされており、アナウンスに女性名が混ざっていたことからも判断できる。
第三学園は前衛五人のパーティーが一番多く、後衛がいることさえ珍しい。
(第三学園の魔法科って今まで見たことないんだけど。珍しいな)
内心首を傾げるアルヴィンだったが、選抜メンバーも不思議そうにしている。
「第三の魔法科ってどうなんだ? 俺は情報を持ってないんだが」
「私も聞いたことないけど」
「第三に魔法科はないよ」
「えっ? じゃああの子は騎士科ってこと?」
「騎士科しかないからそうなんじゃない? 第三にも魔法が使える者が入ったって聞いたけど、さっきのパーティーにもいたし、あの子がどうかはわからないね」
「あなたよく知ってるわね」
アルヴィンは周りの話を聞いて内心で頷く。
(へぇー、騎士科の魔法使いか。魔法の威力が足りなかったら助かるんだけどなぁ。というか、第三学園はどうしてこんな名前つけるんだろ?)
騎士を目指す者がいるので『○○騎士団』などの名前をつけるパーティーはあるが、あえて『幻想冒険団』とつける意味がわからなかった。
アルヴィンがそんなことを考えているうちに銅鑼が鳴り響き、試合開始となる。
(えっ? 魔法戦?)
弧を描くように並んだ『幻想冒険団』は魔法が使える距離まで進むと、『第二学園一番剣』と共に一斉に魔法を発動する。
『第二学園一番剣』は近づかれないように『ウィンドブラスト』、その中でも炎帝の弟子は特級火魔法『インフェルノ』を発動していた。
対して『幻想冒険団』は『フレイム』で炎の海を作り出し、さらに炎帝の弟子に対して『インフェルノ』が発動されていた。
(まさか特級魔法まで使えるなんて……えっ?)
特級魔法を受けた炎帝の弟子が膝をつき、ぐらりと倒れる。
(特級魔法でも一発は耐えられるHPが残っていたはずなのに、一撃? 誰が放った魔法?)
前衛の騎士は一人倒れたものの二人は耐えた。しかし、その二人のHPはほとんど残っていないだろう。
『第二学園一番剣』も『幻想冒険団』も動かなかった。
お互いに魔法を発動する姿勢を保つ。
『第二学園一番剣』はもう勝てないと誰もが確信する中、最後まで戦う姿を見せていた。
静寂が包む中で魔法が発動する。
「えっ!?」
アルヴィンは思わず声をもらした。
『第二学園一番剣』が最後の魔法を発動しようと呪文を唱えている最中に『フレイム』が放たれていたのである。
(さっきは全員が発動してなかった?)
魔法を発動してから次に発動するまでの早さは異常である。
王国魔法騎士団でさえ、その早さには勝てないだろう。つまり元々発動していなかった者がいたと考えた。
そして、効果範囲はmagnus級を超えているため、二人が発動したと考えられる。
(でも、そんなことをする理由が無いし、初撃が三人しか発動していないなんて到底思えない。どういうこと?)
そして、炎が消えた後には『第二学園一番剣』の二人が倒れていた。
誰もが混乱し、騒然とする中で『幻想冒険団』が勝利するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます