~学園対抗試合編~

第125話 進級試験

 王都についたセージはシルヴィアたちと合流して第三学園に戻った。

 様々なことが起こり、バラバラに行動していたが、今は学外訓練中である。本当はパーティー五人で行動しなければならなかった。

 一人で学園に戻るわけにはいかないため、王都内の宿屋で合流したのだ。


 今回学園に戻って来たのは単位認定試験と進級試験、選抜試験を行うためである。

 単位認定試験は講義のテストのことである。合格すれば単位がもらえて、一定の単位数にならないと進級や卒業ができない。特にセージの場合は卒業までの期間が短いため一回ごとに取らなければならない単位数が多い。

 ただ、セージにとって筆記試験は事前に少し復習して合格できるものだ。数学や魔物学など講義に出ずに試験だけ受けて合格するものもある。

 そもそも時間的に受けることができない量の講義を選んで、一気に単位を稼いでいるからこそ進級することができるのだが。


 講義のテストは座学だけでなく実技もある。実技の単位認定試験では剣の型を見たり、教官と手合わせしたり、パーティーを組んで戦ったりする。

 基本となる戦いの動きができているか、連携がとれるかなど、実技の授業内容によって判断される。

 パーティー戦の経験も増え、ルシールに剣を教えてもらい、さらにレベル65になったセージにとって、実技の単位も問題なかった。


 セージ Age 13 種族:人 職業:賢者

 Lv. 65

 HP 4087/4087

 MP 9999/9999

 STR 475

 DEX 740

 VIT 386

 AGI 530

 INT 999

 MND 999


 戦闘・支援職

 下級職 中級職 上級職 マスター

 戦士 魔法士 武闘士 狩人 聖職者 盗賊 祈祷士 旅人 商人 聖騎士 魔導士 暗殺者 探検家 勇者 精霊士 忍者 探究者


 特級職

 賢者 ランク14


 生産職一覧

 下級職 中級職 マスター

 木工師 鍛冶師 薬師 細工師 服飾師 調理師 農業師 錬金術師 魔道具師 技工師 賭博師


 上級職

 創造師 ランク2


(とうとう賢者か。ステータス補正もかなり良い、というか物理攻撃でも勇者と同等だし。結局使える魔法はわかってないけど。いや、使える魔法は想像できるんだけど呪文がなぁ。まっこれは第一学園の図書館に期待するとして、惜しいのはINTとMNDが高過ぎて補正値が計算できないことか。良い補正値なんだろうけどわからないからなぁ。今度ルシィさんに賢者になってって頼んでおこうかな。カンストはしないだろうし、職業はほとんどマスターしてたし。あっ暗殺者がまだだったかな? レベル70になってから中級職に戻るのはちょっとキツいか。頼めば頑張ってくれるんだろうけど、どこかに良いランク上げ場所ないかなぁ)


 セージが考え事をしているのは進級試験の実技試験場所である。

 セージは筆記試験を早く終わらせて先に来ていた。時間が余って出てきているのは周りにもいる。ただ、セージと異なり、回答を諦めた者たちであった。


 ちなみにセージが一人で考え事をしているのは知り合いがいないからである。

 セージはいつも一級生の中に混ざっていたが、一級生たちは通常の単位認定試験を受けて単位を取るだけだ。当然、進級試験の場所には二級生しかいない。


 セージが準備運動をしながら考え事をしているうちに、人が次々に集まってきて整列していく。

 その中にセージも慌てて混ざって並んだ。

 今回試験を受けているのは全員で二十人と少ない。

 基本的に夏季の進級試験は人数が少ないのである。これは騎士団の制度が関係している。


 冬季の卒業試験の時には騎士団の視察が入り、これが騎士団入団の第一関門となるのだが、夏季にはない。

 制度上は通年採用でも、第一、第二学園が基本的に三月卒業のため、学園関係の者は四月の入団がほとんどである。

 夏季は魔物討伐シーズンであることや、四月にまとめて指導した方がやりやすいことなども関係している。

 ほとんどの学園生は騎士団を目指すため、冬季が卒業試験のメインであった。

 これは卒業試験ではなく進級試験だが、卒業試験に合わせて、進級試験も夏季の方が圧倒的に少なくなっている。


「セージ、今日こそは負けないからな! お前が遊んでいる間に俺は訓練を重ね、さらにレベルを50まで上げた!」


 整列したセージに絡んできたのはラッセルだ。ラッセルは最後まで試験を受けていたので遅く、たまたま隣同士になったのである。


(うわっ、この絡み懐かしい。むしろ安心するなぁ)


 単位認定の実技は一級生と混ざって受けていたため、二級生とは会っていなかった。

 久しぶりのラッセルに何となく安心感を抱きながら、セージはわざとらしく驚いて言った。


「へー、すごいですねー」


「おい、わかってるか? 俺とお前は同レベル、体格は俺が上、実技試験で魔法は無しだぞ」


(あっ、そういえば上級職って言ってなかったなぁ。一級生には言ったけど。周りには言わないようにお願いはしたけど、絶対誰か話すと思ってたのに。意外と伝わらないもんだなぁ)


 セージがレベル50を超えていることを二級生たちは知らない。一級生たちは騎士の心構えとして話してはいなかった。

 ラッセルは当然セージが同じレベルだと思っている。同レベルであれば体格で勝っている分、物理攻撃系のステータスは高く、接近戦では有利になる。

 しかしセージは、だから何?というようなきょとんとした表情をするだけだ。


「まぁ元々俺の方が剣技は上だしな。これでお前に負けることはない」


 ラッセルはニヤリとして横を見るが、セージは横目でちらりと見て視線をそらした。


「いつか魔法でも勝ってみせるからな。おい、黙ってないで何とかっ……!」


 ゴンッと鈍い音が鳴り、ラッセルは「かぅぁ」と奇妙な声を漏らしながら口をおさえる。

 殴られてもHPに守られるが、その衝撃で舌を噛んでいた。

 ラッセルの横には教官が立っている。


「なぜ整列中に話し始めるんだ。黙ってられんのか。よく周りを見ろ」


 すぐに復活したラッセルは「申し訳ありません!」と敬礼をする。

 教官は返事の良いラッセルに呆れた目を向けてから前に立ち、よく響く声で宣言する。


「進級試験を開始する!」


 学園生は一斉に敬礼をして進級試験が始まった。

 進級試験は個人戦だ。ざっくりとレベルで分けられ、そこからさらに五~十人のグループに分けられる。そのグループ内で総当たり戦だ。

 グループ内で順位はつけられるが、上位は進級できる、下位は進級できない、というわけではない。

 教官が戦いの内容を見て進級の合否が判断される。


 そして、今回はレベル50になっていないものがちょうど半分の十人だったので、十人ずつに別れて試合を行うことになった。


「セージ、やるぞ」


 ラッセルが真っ先にセージのところに来て言う。


(さすがラッセル。まっすぐだなぁ)


 セージは感心しながら「いいですよ」と答える。


 周りの者はまだ決まっていないので、初戦はセージ対ラッセルになった。

 別のグループでもこんなにすぐには決まらない。それぞれ戦略を考えるからだ。

 この戦いは連戦になるので、戦いごとに疲労が溜まっていく。それに一緒に訓練しているため、相手の実力はだいたいわかっている。


 勝ち負けが直接的に進級に関わるわけではないとわかってはいるが、当然勝った方が進級できる可能性は高い。

 負けを見越して敵わない相手と戦って、勝てる相手に注力するか、負け越している相手が疲れるまで様子を見るか、それぞれの思惑が渦巻いているのだ。


 そんな思惑を無視してラッセルはセージに挑んだ。それを一本気な性格ととらえるか愚か者と見るかは人によるだろう。

 早速ラッセルとセージは試合の開始位置に立って向かい合う。その間は五メートルもない。すぐに攻撃が届く距離である。


 グループの教官が審判役となって「始め!」と合図が出された。

 その瞬間にラッセルはセージに斬りかかる。


「メガスラッシュ!」


 真正面から速攻を仕掛け、戦士系が最も使う特技を放つ。シンプルだからこそ、その対応は限られる。

 セージはあえて正面から受け止めて反撃した。


「メガスラッシュ」


 ラッセルは盾を構えながら二撃目を放つ。


「メガスラッシュ……!」


 ラッセルはセージの攻撃を受けた瞬間、セージのステータスが自分より高いことに気づいた。

 剣を振りながら驚きに目を見開く。

 ラッセルは打ち合えば勝てると思っていたのだ。


(なるほど、こんな感じか。相手が聖騎士なら何とかなるけど、勇者だと厳しいだろな。さて、負けるわけにはいかないし、しっかり戦わないと)


 セージはそんなことを思いながら気合いをいれるのであった。

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