第36話 クエストのオトモ

 本屋でヤナに出会った後、カイルたちのパーティーの拠点に行き、そのまま入り浸っていた。

 泊まる予定だった宿は引き払ってしまっているので、実質住んでいるとも言える。


カイルたちが歓迎してくれたというのもあるが、ヤナがどうしても本の内容が知りたい、議論したいと熱烈なアピールをしたからだ。

セージにとっても、ヤナとの議論は楽しいし、ステータスの糧になる。さらに蔵書は読めるし、カイルたちから戦いや特技のアドバイスがもらえるのでメリットが大きかった。


 それに、元々ラングドン領にはしばらく帰らないつもりでいたため好都合だった。

 帰らないのは王都からラングドン領まで馬車で一週間以上かかるからだ。合格発表は一ヶ月後なのでラングドン領まで帰るのは可能だが、すぐに王都に戻らないといけない。

 一応飛行魔導船を使えば二日で着くのだが、金額は高いし運航頻度も少ない。

 当主から王都で情報収集をしてこいとの話を貰い、ありがたく観光させてもらうことにしたのだ。

 

 午前中はヤナと議論をしたり、エルフ語や古代言語の本を読み聞かせたりする。午後からはヤナがギルドに行ったりするため、蔵書を読ませてもらうという生活を続けた。

 そして、一週間後カイルたちのパーティーと一緒にクエストを受けることになった。


 これはヤナとセージの訓練も含めたものでもある。

 魔法は読むだけで使えるようになるわけではないからだ。繰り返しの訓練によって必要なとき確実に発動できるようにしなければならない。戦いの中で不発なんてことになれば魔法使いに対する信頼が無くなってしまう。


 発動するかどうかは試してみないとわからないのだが、王都の住宅街で特級魔法を放つわけにはいかない。

 そこで、王都の近くで受けられるクエストを選び、それの達成を目指すと同時に訓練をしようと提案されたのだ。


「今回はギガトレントの討伐だ。条件は、討伐二十体以上、七日以内だ。俺たちのランクなら難しくないクエストだが、油断せずに行こう」


 カイルが冒険者ギルドで受注してきた内容を言う。ギガトレントとは木の魔物のことで、移動は遅いが枝による攻撃は早くてリーチも長い。動物系とは動きが全くことなるので慣れないと厳しい相手だ。

 ただ、カイル達の練習とセージのランク上げにはちょうど良いくらいの魔物である。


 カイルのパーティーは七年前と変わらず、カイル、ヤナ、ミュリエル、マルコム、ジェイクの五人だった。

 ちなみに、セージも十二歳になったので一緒に付いて行って冒険者ギルドに登録した。

 荒くれ者に絡まれたりするのかと思っていたのだが、カイルが付いていてくれたため、何事もなく登録できた。


(ちょっと拍子抜けだな。見た目は子供だし、絡まれたり受付の人に止められたりするのかと思って少し期待していたのに)


 ギルドの受付の人は普通の男性だったが、丁寧に対応してくれた。12歳で登録する少年はそれなりにいるため珍しいことではないのだ。

 登録するとギルドのカードが支給されて、それをを持っていると、倒した魔物の数が記録される。その記録によって討伐数がわかるため、ギルドでクエストの完了等の判断をすることができる。

 金が支払われるのは、魔物を倒す、クエストを完了させる、素材を持ち帰るの三種類だ。


(ゲームで魔物を倒したら金が手に入るのが不思議だったけど、こういう仕組みだったのか。魔物を倒した分だけギルドから支払われると。まぁ魔物を倒したら逃げるし、追い掛けて狩ってもギガトレントなんて持ち帰るのは無理だし、倒すだけで金が支払われるシステムじゃないと成り立たないよな)


 ちなみに、魔物が現れる場所を放置すると、どんどん勢力を拡大して町が襲われることがある。魔物を倒せば一定期間出現しなくなるので、それを防ぐことが可能だ。

 なので、ギルドは討伐数をきっちり把握してデータを蓄積し、町が襲われる事態にならないように日々管理している。

 この世界では非常に重要な組織であった。


「ギガトレント二十体なんて余裕じゃん。そんなの一日で終わっちゃうよ。それ安いんじゃない? もうちょっといいのを選ぼうよー、バーンと稼げるやつをさぁ」


 カイルの選んだクエストにミュリエルが不満げな声を出す。


「ミュリ、今回は魔法の訓練も兼ねているんだ。実際に戦闘で使ってみないと高ランクの敵相手に戦術として組み込めない。それにセージもいる」


「それはわかるけどさぁ。ギガトレントなんてそんなに必要ないじゃん。中級の杖とかの素材くらい? ビッグホーンなら肉が食べれるのになぁ。マルコムもそう思うでしょ?」


 背の低い男、マルコムが話を振られる。


「ビッグホーンってラングドン領とベルルーク領の境にいるやつでしょ? 訓練でそこまで遠くに行くのもな。ギガトレントのクエストは南西の森だから近くていいね」


「えー、マルコム肉好きじゃん」


「ミュリ、不満ばかり言ってないで行くぞ」


 カイルの言葉に「はいはい」とミュリエルが言って移動し始めた。

 ジェイクは何も言わなかったのだが、異論があるときは自分から言うタイプだ。


 マルコムは意見を言うが判断はしないし、ヤナは魔法以外にあまり興味を示さない。

 ミュリエルは金と遊び優先で最も冒険者らしい。

 カイルはしっかりもので慎重派だが、意見は取り入れ判断するリーダーらしさがあった。


(カイルがリーダーっていうのは納得、というか他の選択肢がないよな)


 そんなことを考えながらカイルと打ち合わせをしながら歩く。


「支援もできないし経験値も入らないが、本当にパーティーを組まなくていいんだな? 三人ずつでバランスをとることはできるぞ」


「はい。むしろ、僕が倒す分の経験値を分けずに申し訳ないのですが早くランクを上げたいんです」


 この世界は五人一組でパーティーを組むことができる。

 今回は六人なので前衛後衛バランス良く別けようとカイルが提案した。

 パーティーのメリットとしては回復や能力向上などの魔法が遠距離で可能になることだ。

 パーティーのメンバーでなければその人に触れる必要がある。しかし、戦闘中に前衛を回復しに行けと言われて回復役が行くなんてことは無理である。

 つまり、パーティーでなければ戦闘中に支援を受けられなくなるのだ。


 しかし、セージは下級職全てをマスターしており、自分でなんでもこなすことができる。

 それより自分で倒さずに経験値だけもらうとランク上げの妨げになるため、パーティーにいれないで欲しいと言ったのだ。


「俺たちは上限まで上げているから気にするな。余裕があれば止めをセージに譲れるように配慮しよう」


「ありがとうございます」


 話をしながらしばらく歩いてもギガトレントは現れず、静かな森を進んでいた。


「おかしいな。この辺りにギガトレントが棲息していたはずなんだが」


「そうだね。誰かが狩ったにしても静かすぎるかな? 生息地が変わった?」


 カイルとマルコムが真剣に話しているが、ミュリエルは戦闘準備に飽きて気が抜けている。


「セージってランク重視派なんだね。あたしは面倒臭くて嫌だったけどなぁ。聖騎士になるために仕方なく聖職者になったけどさ、すっごく力は下がるし呪文は覚えなきゃいけないしー」


「でも、回復魔法は必ず役に立ちますよね。自分ですぐに回復できたら安心感がありますから」


「その通りだ。ミュリもセージを見習え」


 頷きながら話に加わるカイルに、ミュリエルは不満そうな顔を向ける。


「カイルも嫌そうにしてたくせに」


「おい、俺は回復魔法も訓練していただろ。まぁ、攻撃力が下がって戸惑いはしたがな」


「ほらほらー。セージは聖騎士だけど魔法使いタイプだよね? 鍛えたりするの嫌とか思わなかったの?」


「ランク上げのために前衛の動きも大事だと思ってましたから」


「ええー。ランクランクっていうけどレベル上げたくならないの? 結局レベルが上がったら魔物を速攻で倒したりとかできるしさー」


「レベルは上げたいですが、ランクを優先させているだけですね」


 セージもレベルを上げたくないわけではない。魔物との戦いは生死がかかっている。より安全に倒すためにはレベルを上げたい。

 ランクを上げるのが困難になるからレベルを急に上げないだけだ。

 ちなみに、セージはゲームではボスに勝つか負けるかギリギリの勝負をしたいために低レベルで挑んだりもしていたタイプだ。

 もちろんそんなことをしていたら命がいくつ有っても足りないので、この世界では低レベルクリアを目指すつもりはなかったが。


「ふーん。珍しいよねー。あっ、あと魔法って……」


「そろそろおしゃべりはお終いかな?」


「なに? もう出て来た?」


「うん。かなり多いみたいだね。急にこれは不自然かな。戦闘準備は大丈夫?」


 辺りを警戒していたマルコムが緩やかに言った。

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