第18話 心配
「あ、帰って来たーー!!」
俺達がナギの家に着くと、玄関前にはナギの弟妹と金田が待っていた。
俺……というかヤナちゃんの姿に気付いたそのうちの一人が声を上げた。
「何であんたが⁉」
「デジャヴだな」
なんか前にもこんなことがあった気がする。
「本当ね。まぁ良いわ。ヤナちゃんを連れて来てくれてありがとう」
「それはまぁ。それより事情は聞いた。ナギはまだ帰ってないのか?」
その質問で表情が暗くなるのを見るに、まだ帰っていないのだろう。
どこをほっつき歩いてんだアイツは!
「親御さんには?」
「まだ話してない」
「警察は?」
「さすがに気が早いわよ。高校生だったらまだ失踪というには時間が経っていなさすぎる。これじゃ警察は動かない」
「さすがによく知ってるな」
「……どういう意味かしら?」
そういう意味です。しかし、少しむっとした顔をしている今の金田に面と向かって言い返せるほどの胆力は無いので、その一言は心の中に留めた。
だが彼女の言う事は間違っていない。
アイツがこの時間に帰ってないのが普通じゃない、というのは普段のアイツを知っているから言える事であって、普通の高校生ならまだ出歩いていておかしくはない時間だ。これでは警察は動かないし、そもそも取り合ってもらえないだろう。
「もう少し待つしかないって事か」
「そうね。というか少し落ち着きなさい。まだそんなに騒ぐほどの時間でもないわよ」
言われてみればそうだ。だが、そうなるとおかしな点がひとつある。
「……じゃあ何で総出で家の前で待ってたんだ?」
「那岐ももちろんだけど、どちらかというとヤナちゃんを心配してたのよ」
なるほど、理解した。
恐らく那岐のことを心配したヤナちゃんが家を飛び出し、暗くなってきても戻らないので探しに出ようとしていた。そこにタイミング良く俺たちが戻って来た、といった感じだろう。
「那岐に関しては正直あまり心配はしてないわ。ここ最近は帰ってくるのが少しだけ遅いのが常だし、何かを企んでるみたいだし」
「企んでる?何を?」
「さぁ?詳細は私も知らないわ。聞いても教えてくれないし。まぁ那岐の事だし、文化祭関連で何か頼まれたのかもしれないわね」
困っている人を見過ごせない聖人君子たるアイツならそれもあり得る話だ。
それで弟妹たちを心配させていては世話無いが。
「あ、帰って来たー!!」
そんな話しをしていると、弟妹たちの内の誰かがそんな声を上げた。
子どもたちの視線の先では、ナギが肩で息をして立っていた。
「おう、遅かったな」
「はぁはぁ……ただいま、って何でタケっちが⁉」
「デジャヴだな」
もうその反応は正直飽きた。
「そう言われても……いや本当に何で?」
「お前を探してたヤナちゃんを送り届けに来ただけだ」
「……そうだったのか。それはごめん、ありがとう」
たったこれだけの説明で全て理解する辺り、心配をかけている自覚はあるのだろう。
その疲れの隠せていない笑顔は走ったせいか、それとももっと別な何かだろうか。どちらにせよ、何かしらを抱え込んでいるのだろう。
「まぁお疲れさん。俺は帰るけど、あんまし無理はすんなよ」
「無理はしてないよ。今日はちょっとだけ遅くなっちゃったけど」
走って帰って来たのはその罪悪感のためか、それとも単に弟妹たちを心配しての事なのか。
「そうか。それなら良いが、あまり迷惑はかけるなよ?」
自分で言っておきながら何様だよとは思ったが、家を飛び出すくらいに心配している家族がいる。それはまた別の被害や心配を生みかねない。だから言わずにはいられなかった。
そんなタラレバを言い出せばキリが無いが、今日のヤナちゃんは確実に危なかった訳で、結果論で済ませるのは少し危ない気がしたのだ。
「そうね。これから遅くなる日は私かオオカミ君に連絡しなさい」
「そうだな、事前に連絡を……って何で俺?」
「事情を知ってるのはこの三人しかいないじゃない。私だって遅くなることがあるかもしれないし」
「だからって何で俺が暇なこと前提なんだ?」
たしかにバイトが無ければ暇ではあるが。
「そもそもお前らの連絡先、俺は知らないんだが」
「チャットアプリのグループから……あ、そういえばあなたはガラケーだったわね」
ガラケー、と言って伝わるのはたぶん俺らの世代がギリギリだろう。
知らない人の為に説明をすると、現代の主流であるスマートフォンと違って画面は基本的にタッチしても反応しないし、本体は上下で二つに折れる。そしてもちろんアプリは使えない。機能は主に電話とメールと画素数の少ないカメラ。あとはあまり使い勝手のよろしくないインターネット。
これがスマホが普及する前のいわゆる『携帯電話』と呼ばれるものだ。読んで字の如く、携帯する電話機である。
ちなみにガラケーの由来は『ガラパゴス携帯』らしいが、スマートフォンの普及時には『ガラクタ携帯』という誤った由来が広まりもしたらしい。それほどまでに雲泥の性能差がある。
そんな訳で俺はそのアプリが使えない。故に俺は参加できない。仕方が無いとはいえ少し疎外感は感じる。
ただその疎外感にも耐えうるメリットが料金だ。自分のバイト代から払えるリーズナブルな価格。
連絡を取る相手が家族くらいしかいないのであれば、学生である俺が上等な物を持つ必要は無い。
「これで送れたかしら。普段あまりメールは使わないから分からないのだけれど」
「オレも送ったよ」
「お、おう、届いた。登録しておく」
電話帳の登録件数が家族を含め六件となった。その画面を眺めながら、少し感慨にふける。
「これでよし、ね。良い?これからは必ず連絡しなさいね?」
「はい」
「オオカミ君も」
俺もか。
「返事は?」
「……はい」
尊都への定時報告に加えて、報告先が増えた。だが、それでも何故だか嫌な気はしなかった。
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