第2話

 歓声を遮るかのように、豪快に、王の扉は開かれた。

 360度ぐるりと、観客の視線に囲まれている。逃げることは出来ない。中央には炎の輪。百獣の王のルーナは、ゆっくりと、ステージに入ってきた。全ての観客を焦らすように。

 一緒にステージに入ったエリーゼの合図で、ルーナが動きを止めた。ルーナが次の合図を待つ。観客も固唾を飲んで見守っている。

 深呼吸。大丈夫、いける。

 エリーゼは覚悟を決めた。

 エリーゼは叫び、持っていたスティックを振り下ろした。その瞬間、ルーナが走る。そして、獲物に襲いかかるように、炎の輪に飛び込んだ。その姿はの夜空を流れる星のように、優雅で、力強く、壮大で、完全なまでに美しかった。

 ルーナは炎に一切触れることなく、たてがみを揺らしながら着地。その瞬間、会場は割れんばかりの歓声が起こった。

 エリーゼは観客に向かって、両手を広げる。今までの緊張感が一気に解かれた。手足の震えが、未だに止まらない。ただこの快感の為に、今日も、ルーナと私は舞台に立っているのだ、と実感する。エリーゼは笑顔で、無意識にスーツを着た時計をつけている男性を探していた。

 ドーパミンは溢れ、尚も気持ちは昂っている。成功した興奮で、今にも叫び出してしまいそうだ。今日が生涯最高の日だと思えてくる。それと同時に、こんな最高な状態で終える事が出来たなら、とエリーゼは舞台に立つ度に切に思う。

 今日こそ、今日こそは。熱気溢れる歓声の中、エリーゼは溢れんばかりの笑みを浮かべ、ルーナを見つめた。

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