第10話 エキシビションマッチ 開戦
まず現れたのは、見知った赤いツンツン頭の男アバター。要するにヴォルフだ。宣言通り四位に食い込んできたわけである。俺と目が合うと一瞬だけ笑みを浮かべた。
次に現れたのは三位の金髪碧眼イケメン騎士だ。アメリカの選手らしく、名をケビンという。カメラの方に笑顔を振りまきながら何度か手を振っているところを見るに、かなりメディア慣れしているようだ。
続けて二位のカン・ジエ。こちらは赤くて長いポニーテールが特徴の女性で、中国代表。
《阿修羅》とかいう派手なユニークスキルを使う。
六本の剣はVRでなければ出来ない芸当だ。まず、仮想の腕を四本生やす時点で現実では無理。
最後に、一位の男アバターが悠然と出現した。緑色の短い髪で痩身という、そこまで強そうには見えない外見だが、ここはゲーム内なのでアバターの体格とステータスは別のものとして認識しなければならない。
「あれがヴィクターか」
「せやね。流石プロゲーマー大国、韓国やで。ちゃんとVRゲームでも実績出してはるなぁ」
現れた選手たちと握手を交わす。敢えて何かを話すことはない。言葉で語るより、戦った方が遥かに早くて分かりやすいからだ。この場にいる全員が、そう考えているのだろう。
「さあ選手の皆さん、準備を始めて下さい」
司会の合図によって、戦闘の準備を始める。選手たちがウィンドウを操作して、武器を出現させる。
特に異質だったのは、一位のヴィクターが出した武器の量だ。かなりの量が揃っている。
昔チート扱いされそうになった時、これらの武器を使いこなすための《変幻自在》という固有のスキルを持っていると公言したらしい。
決勝で六本の剣に勝てたのも、極力間合いに入らずに戦う戦法を取れたことが大きいだろう。
《ダブルウエポン》との明確な違いは、武器を二種類同時に使うことができないことだ。
単に二つの武器を握って振ることは誰でもできるが、二つともスキルを発動させて使えるのはヘイズにだけ許された特権である。
その点、ヴィクターは一度に一つだけしか装備できないものの、どのカテゴリーの装備であっても全ての武器スキルを使用できる。
普通はそれぞれの武器を使い込んで熟練値を上げ、一つずつスキルを習得していかなければならないが、何らかの隠し条件を達成して《変幻自在》のスキルを得られたのだろう。
武器を選択する際にヴィクターのアバターの周囲に武器が浮かぶ仕様になっているのも、そのスキルの特権性を可視化させている。
俺たちも応えるように装備を出す。
腰に出現した大小の刀を見て、ランマルがシニカルな笑みを浮かべる。
「一応用意してあげるなんて優しいやん。ま、腰飾りのまま終わればええけど」
「腰飾りとか言うな。一応《ヤバB》印の大業物だぞ。《ヤバB》がキレる」
「確かに、あの娘には良くしてもらっていたから怒らせとうないねぇ……。そう言えば、プレイヤーメイドの装備は普通に引き継げているんよなぁ。ウチの防具も大体《ヤバB》ちゃんが作ったやつやし」
俺たちが昔話をしていると、相手の方から歓声が上がった。
「Awesome! ジャパニーズサムライソード! 他の日本人選手が全然使わなかったから、サムライはもう日本に居ないものだと思っていたよ!」
テンション高く叫んでいたのは、アメリカ人のケビンだ。いや、リアル日本にはもう侍とか居ないんだけど、変な妄想を助長させてしまったようで申し訳ない。
というかそっちにはジャパニーズニンジャがいるでしょ。そっちにも感動してあげて。
それに、この腰についている刀は相当なことがないと抜かないことにしているため、申し訳なさが加速する。
コメント欄でもそのことについて言及されていた。
〈あのミラが腰に刀? 居合いでもするつもりか? ミラの居合いとか何年ぶりだよ〉
〈居合いを見せるのか? 俺以外のやつに……〉
〈どうせ本命は長い刀だぞ。《富士山》とか言う名前だったっけ?〉
〈でもそれは出ないと思うぜ。《WHO》から引き継がれた装備の一部にはロックが掛かっているらしいからな。《ダブルウエポン》が持っていた武器も見慣れたやつじゃなかっただろ? 噂じゃ、ボスドロップ級の強いやつは全部ロックされているらしいぜ〉
〈じゃあ何でロックされたまま残っているんだ? 運営AIが邪魔なデータだと判断したら削除するはずだぜ?〉
確かに、どうして削除されずに残っているのかは気になるところだが、そろそろ試合が始まるのでコメント欄から目を離す。
「あの技を使ったら、来年から大会ルールに禁則事項が増えるんだろうなぁ……」
「でも、それがあるから敢えて二対三じゃなくて二対四の試合を引き受けたんやで。確実に仕留めてや」
「誰を?」
と言いながら、ランマルの答えが来るより先に体をケビンの方へ向ける。
「分かっとるやん。大会では三位でも、ケビンの《魔法剣》とかいうスキルは厄介や。アレも固有スキルやろなぁ。《WHO》に魔法が無かったから、魔法使う奴の相手は面倒やさかい。幸い、奴さんもミラと戦いたそうにしているし、それが最適解やろ」
逆に言えば、残りの三人はそれほどの脅威ではない、とランマルも判断したわけだ。
俺たちは普通に観戦していたので、相手の試合をちゃんと見ている。逆に、ヴォルフ以外の相手は、俺たちの事を名前ぐらいしか知らない。この差は大きい。
「それでは、世界大会エキシビションマッチのカウントダウンを行います。構えて!」
カウントダウンが進行する中で、ランマルとケビンが西洋風の片手剣を構え、カン・ジエが二振りの柳葉刀を構える。
単純に武器を構えるだけのプレイヤーたちとは対照的に、ヴォルフは全身の装備を変更して黒ずくめの忍者装束を身に纏った。
そして、ヴィクターが数ある武器の中からハルバードを選び取り、俺は居合いの構えに見えるように刀の柄に手を掛けた。
「試合開始!」
カウントダウンがゼロになった瞬間、真っ先にケビンの方に走り出す。
相手はニヤリと笑って、剣に炎魔法を纏わせ、居合い系の技に対するカウンターの構えを取った。残り数歩で相手の間合いに入る、という所で、腰の刀から手を放し、走りながら滑らかにウィンドウを操作する。
熟練の動きで、自分が持っている中で最も長い刀を出現させた。
しかし、ただ単に呼び出したわけではない。
刀の出現箇所を調整することによって、相手に刀が刺さった状態で出現させる。
相手の剣よりも、俺が使っている大太刀の方が長い。故に、相手の攻撃が届かない場所から、恐るべき火力の先制攻撃を行うことが出来るわけである。
俺が呼び出した大太刀は、人型エネミーの弱点の一つである首を的確に捉えていたため、ケビンの体力が急速に減っていく。
「このまま、終わるわけにはああぁぁっ!」
ケビンが最後のあがきとして剣を振るった。剣に纏わりついていた炎魔法が飛んでくるが、軌道をみて綺麗に躱す。
一拍遅れて、体力がゼロになったケビンのアバターが光の粒子に変わっていく。
「三位のケビン選手を秒殺! これが……これが《WHO》最強クラスプレイヤーの実力か!?」
初見殺しに特化したこの技は、もう残りの三人には通じないだろう。
しかし、相手を一人減らせただけでも十分に俺たちの力をアピール出来たはず。
そもそも、こういう技は誰でも出来るし、存在自体は有名である。動画サイトでも見た。
ただ、このスピードでウィンドウ操作が出来るように訓練するような暇人なんて滅多にいないため、誰も実戦では使わなかっただけだ。
あまりに威力が高いので、来年からは禁止されるのではないだろうか。
挨拶代わりのような技で世界三位のプレイヤーが散り、エキシビションマッチは真の始まりを告げた。
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