第10話

兵助は考察に入った。

この静まりかえった町は間違いなく意図的に作られた町だ。人の意思なく生まれる街など一つもない。

意図とは・・・、必要に迫られて生まれると言う事だ。

商人の為の町、旅人の為の町、仕事を求めて集まる者がいて物が必要で集まる人々がいる。中尺町の入り口付近には人影があったものの、踏み込んでみれば寒風が吹きつける路地には人っ子一人見当たらない。

何故だ? この町が必要に迫れてできたのならば、この町が生まれた理由は・・・


この火事たたかいの為か!?

この町は戦いの舞台という訳か・・・


兵助が完全に戦闘態勢に入った時だった。


「やあ、若さん。こんな所で何してはるんです?」


朝の挨拶の様に気軽な言葉には身の毛が弥立つような気色悪さがあり、思わず大刀に手をかけた。


「若さん、私です。トシですやん」


トシは見た事もない着物姿で立っていた。しかも不敵な笑顔を向けている。

怪しく光沢をたたえた着物は、あの美しい着物の集団のモノと似ているが、漆黒の黒をたたえていて月夜に輝く事な無い。むしろ深い沼に落ちて行くような不気味な暗さがある。兵助は刀から手を放す事は無かった。


「トシさんこそ、何をしてるんです?」

「仕事ですわ」

「こんな時間に仕事ですか?」

「わては呉服屋以外にも忙しいんですわ」

「初耳ですね。トシさん」

「せやなぁ・・・、私は呉服屋以外にも利執りしゅうの仕事もやめてへんのです」

「寺での暮らしは飽きたと言ってませんでしたか?」

「利執の仕事は坊主と違います」

「では、火つけか!?」


兵助は前かがみになり大刀を腹の前に寄せ、即座に抜刀でる体制になった。


「ちゃいますよ」


ひらりと後ろに飛び退いたその動きは完璧に兵助の一刀の間合いを計算していた。


「私の仕事は情報の収集と伝達ですねん。

今夜、渡す筈の情報を取りに来る物が現れんかったさかい探しとったんですわ」


「情報屋は十二番の札を持っているのか?」


「若さん、妙な事・・・知ってはるんですなぁ。そないな事言われたらユキさんとこに帰らせてあげられませんなぁ」


懐に手を入れて何かしら、武器を手にした様子にも兵助は動じず抜刀を待った。


「利執の名を口にした時には帰す気などなかっただろ?」


「抜かないって事は、知りたい事があるっちゅー事ですわな?だからってお話し出来る事はないんです」


話す事は無いと言いながら利執が懐から手を出さないでいたのは兵助に興味を持ったからだった。そして、どうやって殺してやろうかを考えていた。


「九番の札は火つけ担当なのか!?」


兵助の方は利執からどれほどの情報を得られるかを考えていた。自分の持っている情報は、先刻の戦いで打ち取った忍び装束の札番号と利執の部屋で見た札番号だけだった。


「あぁ!? 九番だとぉぉおお!!?」


利執の顔から不敵な笑みが消えた。







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