花見

帳 華乃

 

 桜の木の下には死体が埋まってる。これは昭和にある日本人作家が書いた短編の一節だ。殺人はおそらくこの日も地球上で起きる。だが、日常と捉えるには非日常的すぎる言葉だ。


 三月二十一日。この日付ともなれば、「桜」の文字が新聞で見受けられる。ニュース番組では満開日予想が盛んになる。無意識のうちに春を認識してしまう。

 二十四時間冷暖房完備のこの部屋からでは、桜を見られない。カーテンを開けても、僅かにしか開かない窓を開けてみても、変わらない事実だ。


 ……外れないよう造られている網戸に、桜の写真や絵を貼り付けたなら、花見に興じられるだろうか。そんな光景を目にしたら吹き出すだろうけれど。それに、そうしてまで花見をしたいわけでもない。元来、花に関心が強いわけでもないのだ。ただ、幻想に身を浸していたいだけだ。


 この曇り空の下花見をしている粋な者は、町内に幾人か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花見 帳 華乃 @hana-memo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

可能性の話

★3 SF 完結済 1話