第4章 ギャングとカルテル ④

「――《色メガネフォーアイズ》、お前は間違えている」


「……できれば後学の為に正してくれると助かるな」


「いいだろう。第一に俺らを手引きした連中と利害関係が一致している。他はともかくこの件に関しちゃ裏切りはねえ。それをしたらてめえの首を絞めるだけだからな。第二に《モンティ家》の本拠地で連中とやり合ってどうにかなるか――全然なると思ってるぜ。まあ俺たちだけじゃ難しいのは確かかもな――だがこれは《モンティ家》と《グローツラング》の抗争じゃねえ。《グローツラング》と《ロス・ファブリカ》――どっちが先に《モンティ家》を落とすかってレースだ。《モンティ家》は同時に《グローツラング》と《ロス・ファブリカ》を相手にしなきゃならねえのさ」


 ヴィンセントはグラスを置き、凄む。


「この状況で退くか? 退いたら《ロス・ファブリカ》に《モンティ家》を食わせるチャンスを与えることになっちまう。絶対に退けねえ」


「……このロス・ファブリカに行って同じ話をするつもりだ」


「だったらどうだってんだ? 連中が退いたら俺たちはじっくりと代替わりしたばかりで結束が弱い《モンティ家》を攻め落とすだけさ」


「……あんたらがどっちも退かないで《モンティ家》を落としたとする。当然モンティ家がそうしてきたように海路を独占するだろ? レースに負けた方は勝者を好きにのさばらせないように北区の海路を押さえなきゃならなくなる。北区や他の敵対組織全てを相手取ってな」


「そうかもな」


「それは口で言うほど簡単なことじゃない。ゲヘナシティは内乱状態になる――そうなれば軍だって介入してくる。そうなれば敵も味方もない――米軍と戦争だ」


「それがどうした? わかってないみたいだから言ってやる――たとえお前が言うとおり軍が介入してくるような事態になっても、組織でもないお前に『退け』と言われて退いてたんじゃ面子が立たねえんだよ」


「……海路を押さえたって、内乱状態になれば軍は海からだって攻めてくるぞ」


「何度も言わすな」


「……仮に、だ。先に《ロス・ファブリカ》が手を引いたらあんたたちも手を引くか?」


「有り得ねえな。言ったろ? じっくり《モンティ家》を攻め落とすさ」


「その脇腹を《ロス・ファブリカ》につつかれるとは思わないのか?」


「その時は《ロス・ファブリカ》も《モンティ家》に脇腹を晒してるよな。そうなったらパワーゲームだ、なるようにしかならねえ」


 そう言い切るヴィンセントに尋ねる。


「……聞いてもいいか?」


「答えられることならな」


「……あんたはもう名声を手に入れたろ? 悪名だけど――金だって困ってないはずだ。その上軍とコトを構える未来を覚悟してまで海路を押さえたい――組織をでかくしたい理由ってなんだ? この界隈じゃ立派な成功者だ――このあたりにしとこうと思わないのか?」


「バカ言うなよ。東海岸の一つの街――その地区の一つでトップに立っただけだぜ?」


「この街でビックボスと呼ばれるようになるのは、他の街の何倍も難しい」


「確かにな――だがその程度だ。お前ら、ベガスは?」


 尋ねられ――俺とマックスはそろって首を横に振る。


「一度行って見てこいよ――あの街のホテルのオーナーは俺の何倍も稼いでる。ゲヘナシティの西区のキングで終わるつもりはねよ。この街全てを手中に収めて――いずれ合衆国の全ての洲にウチの支部を作ってやる。そうすりゃ俺がこの国のギャング・キングだ」


「意外と俗っぽいんだな」


「お前がマイノリティなんだよ、《色メガネフォーアイズ》」


「……どうあっても退けないか?」


「お前らのクライアントに伝えろ――《グローツラング》は《モンティ家》を潰すまで退かないってな」


「……そうかよ」


 ヴィンセントの言葉を聞いて、俺はマックスと示し合わせて立ち上がる。


「待てよ二人とも――なあおい、《モンティ家》からいくらもらってる? 俺につけよ、お前らなら幹部待遇で迎えてやる」


 俺はそんな風に言うヴィンセントに踵を返しながら、


「残念だよ、ヴィンセント――俺はこの街に軍が介入してくるような事態を避けたい。その為に《グローツラング》と敵対することになっても」


「……お前たちに敬意を表して無事に帰してやる。だが東区で会うようなことになったら殺すぞ。必ずだ――いいな」


「ああ、あんたの気が変わることを祈ってるよ」


 俺はヴィンセントにそう告げて、マックスとともにヴィンセントに背を向けた。



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