第11話 下見

 



「はい、採取は2、3日中だと思います。

なので、今日、昼過ぎから1つ目の採取の下見に行ってもいいですか?」


「はい、私はいつでも大丈夫です。

でも、どうして採取の下見なんですか?」


彼は不思議そうに尋ねた。


「採取にはタイミングが重要なんです。

でも、依頼が今の時期でよかったです。代替物では効果が落ちてしまうので。

セージ様は、“薬神様の福音”をお待ちですね」


解呪薬を作るには、今の時期は最小限の材料で最大の効果が望める最高にいいタイミングなのだ。

このように貴重な薬材の採取時期に最適なタイミングに巡り合わせることを、私達、魔女薬師は、薬神様からの福音(良い知らせ)=良くなることが約束されたと解釈されているので、とても嬉しいことなのだ。



昼食を手早く済ませて下見へと出発する。


『セージも来るのか?』


「はい、もちろんです。

護衛もありますし、私の薬の材料ですから」


『そうか……

では、採取の時の護衛はセージに任せる事にしよう。

今の時期、我は……あそこは苦手でな』


「ごめんね、ハク。

辛いのに付き合ってもらって…」


『マリー、気にするなといつも言っているだろう。

我は、自分の意思で行くのだ。

今回はセージもいるし、いつもより離れた所にいる』


そう話すハクは、いつもより足取りが軽いように見え、少し胸の痛みが軽くなる。


「そうね。ハクがそう言うのなら、セージさんにお任せして大丈夫ね。

いつもより離れた風上に居てちょうだいね」


私達の会話を聞いていた彼は、強いハクが、苦手という場所なので気になってたのだろう。

「コレから下見に行く所は、どんなところなのですか?」と、尋ねられた。


「これから行くところは、精霊樹の所です。

普段は、ハクが行っても問題ないのですが、今は花の時期でして、その花の匂いはこの森の魔素を調節する役割・浄化作用があるのです。

魔獣であるハクは匂いを嗅ぐと力が半減してしまい、いつものように動けません。

それでも、密採者への威嚇をする分には十分ので、心苦しいのですがいつも護衛や見廻りをしてもらっているのです」


「そうなのですね…

では、採取の際の護衛はもちろんですが、他の日の見廻りもお手伝いさせてください。

ハク、今日いろいろ教えてもらってもいいですか?」


『もちろんだ、セージ。

でも、いいのか?手伝ってもらえるのなら助かるが…

お前は《依頼者》で、マリーの護衛も頼まれているのだからマリーの側に……』


「私は、ハクの今までのポジションを奪うつもりはありません。

今回のように、ハクが困っているところを私が補えればいいと思っています。

それに側にいるなら、会ったばかりの私よりハクの方がマリーさんも安心でしょう」


『…ああ、そうだな。

では、着いたら説明しよう』






精霊樹をよく確認できる少し開けた場所へ着く。


ハクとセージさんは、見廻りと護衛の話を地図を見ながら確認している。


その間に私も〔遠見〕で精霊樹を確認する。


精霊樹は、基本的に成長が遅く、この森の精霊樹はまだ若木である。

しかし、それでも樹齢は1,000年に近いらしい。

背丈は、周りの木よりも少し低いが、幹の太さと苔生し感で貫禄は十分だ。


(ここ2・3日の暖かさで大分蕾が膨らんできてるな。今日も天気が良いし…)


「ハク、セージさん、明日の早朝に採取するのが最適のようです。

護衛よろしくお願いします」


「了解です。

では、家に帰ってから更にハクと護衛の話を詰めておきます」


『承知した。見廻りも強化しておこう。

少しセージを借りる。

マリーはここに。一応〔地理把握〕と〔探索〕を展開しておいてくれ。

大丈夫だとは思うがな』


そう言うと、ハクとセージさんはあっと言う間に見えなくなった。


言われた通りにスキルを展開し、腰掛けられそうな岩を見つけて彼らを待つ。

ここは、ほぼ森全体を見渡せる場所なので〔探索〕しやすい。


ぼんやりと眺めていると後ろからそよ風と共に可愛い声がする。


【マリー、明日花を摘むの?】


振り向くと、顔馴染みの風の妖精さん達。


「ええ、明日がいいタイミングかなって。

もし、良ければアナタ達にもお手伝いしてもらえないかしら?

今回は、いつもよりいいものを作りたいの。どう?」


ダメ元で聞いてみる。

妖精や精霊はとても気まぐれ。

でも、対価を支払えば一度約束したことは必ず守ってくれるのだけど。


【みんな手伝ってもいいよ。だって。】


「本当?凄く助かるわ、ありがとう!

お礼は何がいいかしら?」


【それは、やっぱりマリーの〔魔雨〕がいいわ!】


即答だった。

〔魔雨〕とは、私の魔力を含んだ水を雨のように降らせることで、この森の魔女薬師としての仕事の一つだ。

〔魔雨〕を降らせることにより、森の魔素と魔力が融合して薬材の高効能や独自の効能をもたせることができる要因の一つだけれども、妖精や精霊にとっては特別なデザートのようなものらしい。


「わかったわ。

魔力たっぷりで降らせるから、よろしくお願いします」


ええ、わかったわ!といいながら、何処かへ飛んでいった。

それを見送っていると、ハクとセージさんが話しながら帰ってきているのが見えた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る