第10話 朝食と診察
「んー…よく寝たー。
昨日は、いろんなことあり過ぎて疲れてたかなぁ。
さぁ、朝ごはんを作ろう!」
ベッドから起き上がり、部屋の窓を開ける。
森の重厚で青々しい香りを纏った風が私のプラチナブロンドの髪を通り抜け、天井に吊るされている薬草達と踊る。
黒のロングワンピースにコルセットベルトをつけ、先々代おばあさまの形見のオニキスのペンを櫛代わりに髪をまとめるとキッチンへ向かう。
この形見のペンを簪代わりに使う時は、自分を奮い立たせたい時、お守りの代わりとしていつも使っている。
今日は、純和食の朝食にする。
この世界にも米に似た穀物があり、昔に転生した元日本人が苦労の末に作ったのであろう醤油や味噌をはじめとする調味料はかなり高価ではあるが購入することができる。
元日本人として、先人の方々には本当に感謝だ。
(きっと、耐えられなかったんだろうなぁ。この世界の単純な味付けは……
わかる!わかるよ!!その気持ち!)
米に似た穀物のメイを研ぎ、水を吸わせる間に味噌汁の出汁用に乾燥させた小魚を昨日の晩から水に戻していた。沸騰させない様に気をつけながら出汁をとる。
メイを火にかけている間に野菜たっぷりの味噌汁、玉子焼きと焼き魚、お浸しと作っていく。
火を止めて蒸らしていたメイは、蓋を開けると炊き立てのいい匂いが広がる。粒を潰さないよう切るようにふんわりと数回混ぜる。
(よし。美味しそうに炊けてる)
ドアの閉まる音がしたかと思うと、階段を足早に降りてくる。
「おはようございます、マリーさん。
何だか懐かしい匂いがしてます!」
名前に‟様”をつけるのは堅苦しいので‟さん”つけでお願いしたのを忘れていなかったようだ。よかった。
「おはようございます、セージさん。
よく眠れましたか?」
「はい、マリーさんに入れてもらったお茶のおかげでよく眠れました。ありがとうございました」
「それは良かったです。
今日の朝ごはんは和食にしてみました」
「やっぱり和食ですか?!
それは楽しみです!」
「今からご飯をよそいますのでテーブルで待っていてください。
あ、ご飯の後に診察をしたいのですが、いいですか?」
朝ごはんが楽しみで緩んでいた彼の顔は、一気に顔が引き締まり、はいと頷いた。
「どうぞ」
片付けを終えて彼にお茶を渡す。
「ありがとうございます。
朝ごはん、本当に…本当に美味しかったです。
お出汁の効いたあのお味噌汁は最高でした。あれを浴びるほど飲めるなら、俺死んでもいいです!!」
お茶を飲みながら話す彼は満面の笑みだ。
「喜んでいただけてよかったです…が、そんな簡単なことで死んでもいいなんて言ってはダメですよ?
沢山飲みたいのでしたら、次からはおかわりできるように多めに作りますから」
苦笑いしながらも和食談議は尽きないが、そろそろ診察をしないと…
「セージさん、今日の診察をさせてもらってもいいですか?」
「あ、そうですね。はい、お願いします」
私が両手を差し出すと、少し緊張気味に手をその上に乗せる。
私からセージさんに魔力を流しながら、〔診眼〕で診察する。魔力を流すことでより親和度が高くなり診察しやすくなるのだ。
昨日診た時と変わらないようだが、植物の根のような呪いの先端の呪い文字が少しだけ薄く掠れていた。
(これは、昨日のお茶と朝食の影響…かしらね?)
はっきりそうだとは言えないが、その可能性はある。呪いのストレスもここに来て少しは和らいでいるはずだし。
「今のところは、大丈夫。
進行は見られませんよ」
「そうですか。よかった。
昨日より少し体が軽い様な気がします。
気のせいかもしれませんが…」
「いいえ、それは気のせいではないでしょう。呪いの先端が、少しだけですが薄く掠れているように診えました。いい傾向ですね」
診察している私もホッとする。
悪化はしてないと顔色などから察することはできるけど、やっぱり診るまではドキドキするものなのだ。
体調を診たついでに、作る薬についても話しておかなければ……
「昨日話した、体の浄化と呪いの切り離しを促す薬ですが、直ぐにでも調薬に入りたいのですが、材料を2つ切らしているのです。
1つは、採取時期が限られているモノで、もう1つは、ある方にお願いしないと手に入らないモノなのです。
1つ目のモノは、幸い2、3日中には用意出来ます。2つ目は、1つ目が用意出来てから取りに行かなければなりません。
直ぐに薬をご用意出来ず申し訳ありません…」
「事情はわかりました。
マリーさん、謝らないでください。
私は、大丈夫です。今は、進行も見られないのでしょう。まだ猶予はありますよ。
1つ目は、2、3日中に採取しに行かれるのですか?」
私に気負わせないようにだろう柔和な笑顔で質問をする。
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