第12話 ※有翼民の入浴作法③

レアンは僕の顔を舐める。頬から顎、そして額と満遍なく、少しザラザラとした舌は、ペロン、ペロンと汚れを絡みとるように動く。

彼女の舐めた後は、唾液特有の嫌な匂いはせず、蜂蜜のような甘い残り香りを有した。

これが、みき酒の力なのか、有翼民の特徴なのか、ハッキリとしないまま、耳には舌が入り込み、生暖かい息遣いと共に、僕の思考を停止させる。

顔が終わると、首から鎖骨と、下へ下へと作業が進んで行く。

彼女は、僕を基点に回りながら、猫がグルーミングするように、舐め上げて行く。

たまに、チラチラとこちらの様子を伺う、瑠璃色の瞳は、とてもチャーミングで吸い込まれそうな程に、透き通っていた。

彼女の両翼は僕を包み込み、小柄な体は、時に密着し、内羽根を通して熱が伝わる。

彼女は僕のタオルをめくり、顔を近づける。

「そこは。ちょっと、きたらいですほ。」

松毬ちちりんを咥えたまま、僕は後ろにたじろぐ。

「先生は家族です。汚くなんかありませんよ。それより、私の事、嫌いですか。」

上目遣いの彼女に、僕は言い返せず、横に首をブンブンと振る。そんな僕を確認すると、彼女は両翼で力強く抱擁した。

「良かったぁ。嫌われてるかと思っちゃいました。最初ですものね。大丈夫です。ゆっくりと膝で立って下さい。」

僕はゆっくりと言われるがままに膝で立ち上がり、身も心も彼女に預けようと誓い、目を閉じた。

チロチロと彼女の舌が、僕の身体を刺激する。僕は恥ずかしさと、こそばゆさに身悶える。

ピチャピチャと淫靡いんびな音が、蒸気の濃い湯に響く。

彼女を抱きたい、唇を重ねたいと、何度も頭をよぎるも、儚く残る理性心と、脳裏に残る一生懸命に洗ってくれる彼女の横顔が、自制心を高めてくれていた。

それでも身体は正直で、男性特有の性欲の象徴はイキリ立つ。彼女の息が、かかる度、彼女の舌が触れる度、大きく、元気に反ってゆく。

そんな淫らな象徴を、彼女は舌で舐めまわし、小さな口に咥えると、筋に沿って舌を這わせた。

何度も舌でしごかれ、僕は声にもならない音を漏らしながら、白濁とした欲望をぶち撒けた。

彼女は一瞬も臆する事なく、コクリと飲み込むと、吸い付くように余韻をも、舌で絡めとっていった。

象徴は、また元気を取り戻すものの、僕の頭にある煩悩は消え去り、何処かスッキリと雲が晴れたように、煮えたぎっていた欲望は消失していた。

彼女が髪をかき上げながら、僕に尽くす光景に、心を打たれていた。

これが"愛"と言う感情かはわからないものの、目の前の彼女を大切にしたいという、抱いた気持ちは、嘘偽りの無いものだった。

「じゃ、交代ね。」

何もなかったかのように、ペタリと座り込む。


晴天の空を泳ぐようにしていた太陽は、いつの間にか西に沈みかけ、燃えるような色で今日を終えようとしていた。

僕は後ろから彼女を抱き包み、松毬で丁寧に髪を解かしていった。

彼女の肩にかかる栗色の髪は、針葉樹の果実に整えられるたびに、艶めき、潤いを僕に見せつける。

蜂蜜のような甘い香りの誘惑に負けず、僕は、ひたすらに、彼女を綺麗にする事だけを考えた。

口移しで松毬を彼女の口に預け、顔を綺麗に磨いていく。

自分の唾液からも、不思議と嫌な匂いはせず、みき酒の力に心底、驚いた。

耳の後ろ、うなじ、鼻先、唇。

丹念に磨かれた彼女は、夕陽に照らされ、幼く見えていた顔つきは、何処か大人めいていて、僕の心をドキリとさせた。

首筋から鎖骨、翼の先まで。羽根の生え際から汚れを落とすように、舌を奥底に伸ばし、丁寧に這わせた。

膨らみのある胸部には、内羽根に隠されるように突起が付いており、舌を這わせると痛がるようにピクンと身体を跳ね上げる。

僕は舌の裏側で優しく優しく擦ると、強ばった両翼から力が抜け、甘い吐息を漏らす。

その後も、丁寧に優しく、腹部や背中を磨き上げていく。

しばらく磨くと、彼女は、おもむろに膝で立つ。

僕は彼女にしてもらったように、膝から大腿部にかけて舐め上げると、恥部へと舌を進める。

薄黄色の内羽根をかき分けるように進め、裂け目に行きあたると、僕は更に顔を、彼女の恥部へ近づけ、舌を奥へ奥へと進める。

甘い蜜を啜りながら、舌の裏側を上手に使い、優しく優しくと豆を刺激する。

彼女が甘い吐息を漏らし、口に咥えた松毬を落とす。

岩盤から滴る雫のぽちゃんという音が異様に響た。すると、彼女は蜜を溢れさせ、足をガクガクさせながら、ペタリと座り込む。

「先生、ありがとね。とっても気持ちよかった。」

朱色に染まった、ふやけた笑顔が、そこにあった。

「じゃあ、先生。後は風祭かざまつりまで待ちましょう。」

そう言われ、僕達は湯船に腰を落ち着けた。


レアンが言うに、風祭りは水に乗り移った風の女神"サウナ"を解き放ち、再び風に戻すという意味があるという。


夕刻の時間は過ぎ、太陽は沈みゆく。夜の闇が直ぐそこまで来ていた。

何処からともなく、わぁーっと歓喜に似た叫びが聞こえてくると、水飛沫みずしぶきと共に、湯船の水面が大きく揺らいだ。

「先生、立って。」

僕はレアンに促され、立ち上がりると、水面の水を彼女と一緒になって、大きく蹴り上げた。

蜂蜜のような甘い香りの湯気が、ブワッと立ち上ると、夕闇の空から現れた風が、湯気を持ち去っていく。

湯気が辺りに散らばり、湯気の隙間から視界が開けてくる。

視界の先には、これでもかと水面を蹴り上げる、有翼民の多くの若者がいた。

「おぉ、先生。こんな所にいたか。なかなか戻ってこないから心配したぞ。」

「先生、お風呂はどうでした。」

アレス達と合流する。

「いや〜、何というか。スッキリしました。」

「でしょ〜、先生。また一緒に入ろうね。」

彼女の熱い眼差しに、照れながらも返事をする。

「さぁ、早めに帰るぞ。」

僕達はレアンの安静のため、歩いて家を目指す。

しばらくすると、群れを成した有翼民が、連なり飛ぶでいく。

有翼の民達は、僕の遥か高く、雑談をしながらも、抜群の連携を持って、大空に大きな鳥を描くように、まとまり飛んでいく。

もしかすると、この阿吽あうんの呼吸は、お風呂の賜物たまものでは無いのかと、僕は思った。









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