偽アルド参上!?【アナザーエデン二次創作】

坂木持丸

1話  導入


 AD1100年――曙光都市しょこうとしエルジオン。


 それは、天空に築かれた壮麗な未来都市だ。


 つるりと流線型に整えられた街並み。

 都市の宙空を彩る、きらびやかな電光広告ホログラムの群れ。

 街路を行き交う人々の中に、当たり前のように混じっているのは、ロボットやアンドロイドの姿……。


 そんな、未来を象徴しているかのような風景の中で。

 時代違いな中世風の格好をした青年――アルドが、首をかしげながら歩いていた。



「うーん……なんか、いつもより視線を感じるような?」



 アルドがきょろきょろと辺りを見回すと、目が合ったエルジオン住民たちがぎょっとしたように離れていく。


「な、なんだか、腫れ物扱いされてる気分だな……オレ、なにかしたか?」


 考えてみても、とくに思い当たる理由はない。

 となると。


「やっぱり、オレの格好が目立つせいか?」


 時代や大陸を超えた冒険をしているアルドにとって、自分の格好が周りから浮いてしまうのはいつものことだ。

 そのため、それ以上は気にすることもなく歩いていたが――。



「ここにもないわ……どこにいったのかしら……?」



「……ん?」


 ふと、道の先でうろうろしている女性を見かけた。

 しきりに地面を眺めては、うーんうーんとうなっている。


(あの人、なにか困ってるのか……?)


 アルドがそれに気づいて足を止める。

 とりあえず、困っている人がいるなら助けないのも寝覚めが悪い。

 これが、アルドという青年の性分だった。


 家族と離れ離れになった幼少期から、血のつながらない他人であるはずの村長や村人たちに助けられてきたアルドにとって、誰かを助けるのはごく当たり前のことで……言ってみれば、これは条件反射みたいなものかもしれない。


「なあ、どうかしたのか?」


「……え?」


 さっそくアルドが声をかけると、女性がふり返り――。




「――ひぇぇっ!? アルドが出た!?」




 アルドの顔を見るなり悲鳴を上げて――逃げだした。


「え…………ええぇっ!?」


 いきなり予想外の反応すぎた。

 なにが起きてるか、全然わからないが……とりあえず、このままじゃ警察EGPDに通報されそうだ。

 アルドは慌てて女性を引き止める。


「い、いや、待ってくれ! なんで逃げるんだ!?」


「だ、だって、その格好……あなたは、あの“アルド”ですよね?」


「まあ、オレはアルドだけど……オレを知ってるのか?」


「ええ、あなたは有名ですから」


「オレが有名?」


「最近、エルジオンで噂になってるじゃないですか。困っている人がいると、“アルド”と名乗る男が高笑いとともに現れ、よりいっそう困らせて去っていくと……」


「いや、まったく身に覚えがないぞ……? 高笑いなんてしたことがないし……」


「だ、だまされませんよ! みんな、あなたが“アルド参上!“って叫んでるのを見てるんですから!」


「アルド参上!?」


 言った覚えはまったくない。というか、“アルドが人生で使わないであろう言葉トップ3”に入りそうなセリフだった。


(な、なるほど。だから、みんなオレを避けてたのか……)


 たしかに、高笑いしながら“アルド参上”なんて叫んでいる男だと思われていたら、誰も近寄りたくはないだろう。

 アルドだって、そんな男を見たらさすがに距離を取る。


(でも、オレを見たってことは、オレと同じ格好をしたやつがいたってことか? “アルド”って名乗ってるなら、ただの人違いってわけでもなさそうだな……)


 となると、残る可能性は1つだけ。


「まさか、エルジオンに俺の偽物が……?」


 ちょうど、そう呟いたときだった――。




「――ふーっははははッ!」




 突然――。

 街の喧騒を上塗りするように、わざとらしい高笑いが響きわたった。


「な、なんだ!?」


「あっ! あそこ!」


 気がつけば、道行く人たちが近くの建物の屋根を見上げていた。

 アルドも、彼らの視線の先を追い――。

 そして、その人影を見つけた。



「聞こえる……聞こえるぞ! 誰かが私を呼んでいる! 私のたすけを求めている!」



 屋根の上にいたのは、1人の青年だ。

 まるで舞台役者のように腕組みのポーズを取り、上衣を風にたなびかせている。


「心優しく! 顔はイケメン! 体はたくましく! 素手で瓦を100枚割り! 事件あるところに颯爽と現れてはパパっと解決! そんな噂に名高き、影のヒーローとは、まさに私のこと!」


 青年はそう言うなり、「とぅ!」と屋根から飛び降りる。

 そして――。




「――――アルド参上!!」




 ちゅどーん! と。

 着地と同時に、彼の背後でカラフルな爆発が上がった。


「「「………………」」」


 周囲が唖然としている中――。

 青年は何事もなかったように、女性のほうへと歩み寄る。


「さて、このアルドに助けを求めたのは、そこのレディーかな?」


「違います」


「ふっ、残念だが……私ぐらいになると、顔を見るだけでわかってしまうのだよ。あなたが助けを求めていることはな。なぜなら、私は――あのアルドなのだから!」


「た、たしかに……たった今、助けを求める理由ができましたが」


「やはりそうか。しかし、このアルドが来たからには、もう大丈夫! 全てをこの手で解決してみせよう! なぜなら、私は――あのアルドなのだから!」


「いや、さっきから聞いてれば……アルドだって?」


 いきなり現れた胡散くさい青年を、アルドは改めて眺める。

 毛並みの悪い黒猫みたいな、くしゃくしゃ髪。

 周囲から浮いた古風な格好に、腰につるされたこれまた古風な大剣。

 その姿は、なんというか……そう。


 ――そこはかとなく、アルドっぽかった。


 正直、最初の高笑いの辺りから、だいたい察しはついていたが……。



「――あんたがオレの偽物か!」



「む……?」


 そこで、偽アルドは初めて、アルドの存在に気づいたらしい。

 アルドのほうを見て――固まった。


「「…………」」


 2人のアルドが、しばらく無言で見つめ合い――。



「――誰だ、君は!?」



「あんたこそ誰だよ!?」


「なんだ、その私の2Pカラーみたいな格好は! 私のマネをするな!」


「あんたのほうが、オレのマネをしてるんだろ!?」


「わ、私は前々からこの格好で活動してるんだ! あとから私と同じことを始めたくせに、盗っ人たけだけしいぞ!」


「な、なんだと! 本物のアルドは、オレなんだぞ!」


「いいや、私こそが真のアルドだ!」


「オレだ!」


「私だ!!」


「オレだ!!」


 アルドとアルドが睨み合う。

 そんな様子を見守っていた女性が、ぽつりと呟いた。


「……ど、どっちが本物かわからない」



「「こっちが本物だ!!」」



 アルド×2の叫びが重なった。


「くっ、せっかく私の人気が出てきた矢先に、予想外のアクシデントだ。ヒーローにアクシデントは付き物とは言うが、しかし……これは、どちらが真のアルドか、皆に知らしめる必要があるようだな」


「……ああ、それには同意するよ」


 さすがに、この偽アルドを放置していたら、まずいことになりそうだし……主に、風評被害とか。

 この偽物をどうにかしないと、今後エルジオンをまともに歩けなくなるだろう。



「――では、“真のアルド”の座をかけて勝負だ! 我が偽物よ!」



「しょ、勝負?」


「ああ。勝ったほうが“真のアルド”を名乗ることができ、負けたほうは、素直に自分がアルドではないと白状する……というので、どうだ?」


「いや、それはいいけど……なんの勝負をするんだ? まさか、決闘……」


「決闘とか、そういう危ないのはよくないと思う!!」


「あ、ああ、そうだな」


「そもそも、なんの勝負かなんて決まっているだろう? 君もこのエルジオンに語られている“アルド”を名乗るのなら、やることは1つ……」


 偽アルドが、ばばーんと告げる。



「――困っている人を助けることができたほうが、真のアルドだ!」



「いや……それ、どうやって勝敗を決めるんだ?」


「ふっ、ちょうど目の前に、困っているレディーがいるではないか」


 いきなり視線を向けられた女性が、ぎょっとしたような顔をする。

 そういえば、いろいろありすぎて忘れかけていたが。

 そもそもアルドがこの女性に声をかけたのは、彼女が困っていたからだった。


「というわけで、このレディーの困り事を解決したほうを、“真のアルド”ということにしよう!」


「あ、ああ……」


「さあ、レディー。あなたが困っていることを教えてくれ」


「今、一番困ってるのは、あなたにからまれてることですが……」


「ふっ、遠慮がちなレディーめ。しかし、私にはわかっているぞ。あなたが本当に困っているのは、そのことではないはずだ。なぜなら、あなたは……」


 偽アルドは、ずびしっ! と女性に指を突きつける。



「――私がうざからみする前から困っていたからな!」



「う……なにも言い返せない」


「というか、うざからみしてる自覚はあったのか……」


「さあ、今度こそ、あなたの困っていることを教えてくれ!」


「お、おい、そんなに無理やり聞かなくても……」


「いえ、でも……人手が増えるのは助かりますし、わかりました」


 女性は少し考えてから、観念したように話を始めた。


「……探し物をしてるんです。夫の仕事用のIDカードなんですが」


「IDカード?」


「はい……夫が家に忘れて仕事に行ってしまったんです。すぐに必要だと連絡があったので、私が届けに行っていたんですが……その途中で猫に盗られてしまって」


「ね、猫が? そんなことあるのか?」


「たぶん、カードがキラキラしてたので気になったんだと思います」


「それは…………ありえるな」


 猫は光るものが嫌いだと思われがちだが、それは大間違いだ。

 アルドはよく知っている。

 猫はキラキラしているものが大好きだということを。


「なるほど! つまり、そのIDカードを探せばいいわけだな! そうだな!」


「え、まあ……」


「では、このアルドが見事に探し出してみせよう! この偽物よりも早く、そして優雅に! 諸君らはすぐに、どちらが真のアルドか思い知ることになるであろう!」


「あっ、おい。話はちゃんと聞いたほうが……」


「こういうのは早い者勝ちなのだよ、我が偽物よ! では、小一時間ほど、さらばだ! ふーっはははは――ッ!」


 偽アルドの高笑いとともに、カラフルな爆発が巻き起こる。

 その煙が晴れるころには、彼の姿もまた煙のように消えていた。

 あとに残されたのは、ぽっかりと穴があいたような沈黙……。


「な、なんだか、いろいろと爆弾みたいなやつだったな」


「……大丈夫でしょうか、あれ」


 女性も余計に心配事が増えたとばかりに眉尻を下げていた。

 それはともかくとして、アルドは女性に向き直る。


「それより、もっとくわしい事情を聞きたいな。IDカードはどこで猫に盗られたんだ?」


「ガンマ区画の中です。ただ、よくシータ区画のほうで見かける猫なので、もしかしたら、そっちに戻っているのかも……」


「シータ区画か」


 そこは、エルジオンの住民が暮らす居住区だ。

 いわゆる住宅街のような場所で、猫が放し飼いにされているのもよく見かける。


「それじゃあ、オレはシータ区画のほうを探してみるよ」


「ありがとうございます! こういうときに手助けしてくれるハンターの方々は、ちょうどみんな廃道ルート99のほうに出払っていたので……」


「それはタイミングが悪かったな」


 女性はそれから、おずおずとアルドの顔をうかがった。


「ちなみに……どちらが、本物のアルドさんなんですか?」


「……オレだよ」


 うーん、とアルドは腕を組む。


(これは、偽物より先にIDカードを見つけて、誤解をといてもらわないとな……)


 なんだか、すでに疲労感を覚えるアルドだったが……。


 そんなこんなで、“真のアルド”の座をかけた勝負が始まったのだった。


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