第160話「柳生の修羅」
「クハハハハ!こい!もっとこい!もっともっともっと掛かってこい!
「おのれ!その言葉聞き捨てならん!」
「我らの一刀流の極意を受けてみよ!」
「馬鹿かテメエら…」
「ごがっ!」
「ぎえっ!」
「この馬鹿共が!正式な
まるで敵を求める様に大声を出して自らの居場所を知らせる男が見渡せる視界の外、白煙に阻まれた先の地面には三十人
しかし、
そこに転がる男達の多くは武蔵の思惑によって集まった武芸者や付近に棲む
三十人余の者達を次々に退け、打突による衝撃で文字通り自らの視界から消し去った男の手には袋撓があった。
実戦用の武器を手にした三十人余の者達を稽古用の武具で
視界すら儘ならぬ状態の上に予想外の軍勢が加わる乱戦となったこの場で
兵庫助の本性…それは
しかし、その本性の片隅にある一面こそが秘めた本性であり、それは正に修羅であった。
武による
「これは
「っ!?いつの間に!」
「慌てるな。俺は味方だ。一応な」
兵庫助は背後から声を掛けられた事でその者が接近していた事に気がついた。
僅か数歩という至近距離まで音も気配もなく接近したその者は
「お前は確か…」
「
「偉そうにいいやがる。まるで但馬のクソ野郎だな。
「ほう。お前の眼には俺は雲か?それとも泥か?」
「但馬のクソ野郎が泥だよ。奴は一番偉え侍に剣を教えてるだけで一番強え侍になった気でいやがる腐った泥だ!
「………」
歪んでいる…
目の前にいる兵庫助という男が権力や名声に興味がある様には思えないが、それらを得ている者に対する感情が歪んでしまっていると儀間は感じた。
但馬のクソ野郎、即ち
そして、兵庫助を試す様に口を開いた。
「
「なに?」
「言動から察してお前は
「………」
兵庫助は何も云わなかった。否、儀間の言葉が的を射ていたが故に何も云えなかった。
「……やはりな。お前は歪んでいる」
「なにが云いてえんだ?」
「その本性剥き出しの今の
「ちっ!偉そうに!こい
「かかってこい、か。望みとあれば…」
そう云うと儀間は柔軟運動をする様に前屈をして地面に触れた後で拳を握り、その身に闘気を纏った。
「お前、素手で俺とやるってのか?」
「ああ。お前も真剣じゃないのは俺と変わらんだろう。だがな小僧。俺のこの
「なめるな!ゴタゴタ云わずにさっさとこい!」
兵庫助は
「やれやれ、餓鬼を
「砂っ!!?」
「
「なめるなあああ!!」
「む!」
一瞬の出来事だったが、二人は互いに武を示した。
儀間は前屈をした際に密かに手にしていた砂を放ちながら打撃を喰らわすべく兵庫助へと突進し、兵庫助は放たれた砂を顔面に喰らいながらも瞼を閉じることをせずに迫り来る儀間を迎え打つ一撃を放った。
兵庫助の
砂を放つことでこの立合の機先を制したのは儀間であったが、立合の結果を左右する攻撃を繰り出したのは兵庫助のみであった。
「くそ…眼が
「退きも避けもせずに反撃、か。面白い」
「へっ!偉そうに…そんな事より追撃がねえみてえだがどうした?俺の剣に臆したか?」
「まあそう慌てるな。お前の眼には暫し休息が必要な筈だ。
「……気に入らねえな、その上からの物云いと態度は」
「ほう、ならばどうする?」
「ふはっ!」
「む!」
兵庫助と儀間、二人の
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