第131話「猛攻」
先に攻めたのは象山であり、一度始まった象山の攻撃は十や二十の連撃に
「ふおっ!」
「………」
「でやっ!」
「………」
「ごあっ!」
「………」
(
象山が放つ突きからの横薙ぎ、その横薙ぎを返した逆横薙ぎからの突き。それらの
「むえいっ!」
「……む!」
「ふはっ!やっと声を漏らしたか!まだまだいくぞ!」
慶一郎は象山の放った業に思わず声を漏らした。それは、象山が槍の扱いに長けている事の証となる一撃だった。
逆横薙ぎの直後に再び放った突きと横薙ぎ、その連撃に象山は二つの変化をつけた。
一つ目は突いた瞬間の横薙ぎであった。
その横薙ぎはそれ迄の連撃とは異なり、突きを放った後に横薙ぎへ繋げるのではなく、突きそのものに横薙ぎを加える形での複合技であり、槍術よりは薙刀術に近い動きである。
そして二つ目、この二つ目が慶一郎に声を漏らさせた。
その技術とは、持ち手の変化である。
浅い一撃や気迫の無い一撃は有効打と
故に実戦では多少浅い一撃であっても有効打なのである。
そして、実戦では武器の柄を握る持ち手の位置に変化をつけて
象山は突きを放った際に慶一郎からは遠い位置にある左手を離し、同時に近い位置にある右手の持ち手を変える事で横薙ぎの有効範囲を大幅に延長した。
しかし、慶一郎はそれを
それから尚も続く象山の怒濤の連撃に対して慶一郎は後退しつつ左右に動き、放たれる攻撃を
「なんなんだこれは…俺は白昼夢でも視ているのか!?それとも奴はマジムンなのか!?あの鋭い
マジムンとは、琉球語で
「落ち着け
「しかし!あれではまるで攻撃が
「…確かに妙ではあるな。
「……
「ああ、負けるだろうな。あの小僧…いや、ジンとやらはまだ一度も
「だが!奴の前に立つのは闘士の中の闘士、烈士と呼ばれた
「フフ…その生涯無敗の烈士も俺との
「なに!?それは一体…」
「まあ、黙って視ていろ。間もなく
既に二十歩程離れた位置まで遠ざかっている慶一郎と象山の
「……もう攻撃は終わりか?」
それ迄一切休むことなく放たれ続けていた象山の連撃が止み、一丈程の間を空けて慶一郎と象山の二人は向かい合った。
一丈…一歩を二尺とした場合、僅か五歩という近距離である。
「ふはっ!まだまだじゃ!ジンよ、ワシらのいるこの場の足下を視るがいい」
「視なくともわかる。さっきまでの土剥き出しの地とは少々趣が違うな」
「左様。足を取られるほどではないが、向こうと比べて荒れている。向こうが人の歩く為の道ならば
「それがどうかしたか?」
「ヌシは琉球闘士の戦法を知っておるな?でなければワシが連撃の途中で何度か放った足払いを避ける事は出来ぬ」
「会話になってないが…まあいいだろう。琉球闘士と云われても俺はわからぬ。だが、似た様な業を使う者とは何度か
武器を持つ者は武器に依存する…
刀を持てば刀で、槍を持てば槍で、銃や弓を持てば銃や弓で、人は武器を手にした時点で武器こそが唯一無二の攻撃手段だと錯覚するものである。
慶一郎が
「ヌシは他の武士とは異なるか。体捌きからして只者ではないと感じていたが…ならば仕方がない」
象山のその言葉の直後、木が粉砕する鈍い音が辺りに響いた。
「何の真似だ?」
「今からヌシの云う琉球闘士の妙技とやらを見せてやろう。それも真の闘士にのみ伝わる絶技をな…」
象山は手にしていた木槍を膝で折ると一丈半の木槍の柄を二尺程短くした。
そして、右手に一丈三尺程になった木槍、左手には折った二尺余の柄の破片を持ち、その二本の武器を持って慶一郎を見据えた。
「………」
「よい眼、そしてよい
「良いも悪いもない。
(
それは確かに慶一郎と三人の琉球闘士との間で取り決めた約束だった。何れが勝っても三人と三本、計九本の立合を行う。怪我をしていても意識を失おうとも是非もなく叩き起こして戦う。
慶一郎の身にある一つの事態が起きなければそれは必ず遂行される約束…
「ジンよ、すまぬが死んでもらう!!」
「!!!」
(この
象山が懸念する儀間と慶一郎が立合うという事態、それを避けるには慶一郎の死が必要だった。
殺す事への謝罪の言葉と共に象山渾身の業が慶一郎に向けて放たれた。
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