第108話「茶々」
通名として
茶々は
また、
更には、西軍が短期間での大敗を喫するに至る謀反の連鎖、そのきっかけとなった世紀の謀反人、
我が子を権力維持の道具として扱う毒婦と云われ、黒い噂が絶えない一方で、
その真相を知る事、それは秀頼との会談と同様、慶一郎にとっては重要な事である。
(私が死んだ筈とはどういう事だ?…いや、それよりも何故、
この日、茶々は翌日の七月二日が自身の誕生日である事を思い出し、一年間無事に生き長らえた事を先祖に報告する為に大坂城を出て
その帰りに茶々の乗った
そこで茶々はある男を見つけた。
それは、秀頼の義弟である立花慶一郎だった。
「きいいー!!なぜ
(
徳川の
茶々の口から放たれる聞き慣れぬ言葉と忘れもしない音を纏わぬ
「
「なにっ!?あ…いや、そうじゃな。ここはそなたに従うとする」
傍にいた男にそう云うと、茶々は輿の中へと戻った。茶々が輿に乗ったのを確認した男は慶一郎の方を向き、睨み付けながら口を開いた。
「おい貴様ら!!我々は場所を変える!!貴様らも付いて参れ!!」
「ああん?偉そうにしやがって。そっちのお偉いさんもさっきの父娘に見せた態度とは随分
恫喝する様に云い放った男に対し、喜助は態度と言動で反抗の意を示しながら男と慶一郎との間に割って入り、男を睨み返した。
「
「なんだと…!?
「
慶一郎は喜助の言葉を遮って耳打ちした。
「あん?
「ですから、そこの輿に乗っている女性は私達が大坂に来る
「なにいっ!?あの豹変ババアが
「貴様!
「即刻そこに
慶一郎が耳打ちしたその事実に驚いた喜助は思わず大声になり、茶々を名指しして豹変ババアと云い放った。その喜助の言葉に対し、それ迄は常に茶々の傍にいた男一人に慶一郎達との応対を任せていた周囲の者達が男女問わず喜助に敵対心を剥き出しにし、
ある者は「田舎者処刑せよ」と…
ある者は「無礼者に生きる価値はない」と…
ある者は「即刻死罪だ」と…
云い回しに差違はあれど、茶々の警備をしている男も世話をしている女も、その内容は往々にして罵りと共に喜助に
だが、喜助はそれに聞く耳を持たず、傍にいた慶一郎が口を開いた事で怒号にも似たその一方的な命令は収まった。
慶一郎はただ一つの言葉を云い放っただけだった。
その言葉は…
「これ以上あなた方が私の友に敵対心を向け続けるのであれば、私はあなた方の口を塞ぐ
口を塞ぐ…
慶一郎が云ったその言葉の意味をそこにいた全ての者が理解した。
目の前にいるのは立花慶一郎なのである。その者達が仕えている茶々が名指しした以上、それは紛れもない事実である。その事実がその場にいた全ての者を沈黙させた。
大坂に流れている立慶一郎の噂は官民問わず浸透し、茶々の傍に仕える者達にとっても立花慶一郎という存在には警戒せざるを得なかった。
慶一郎が発言してから暫くの間、沈黙が辺りを包んだ。その沈黙を破ったのもまた慶一郎であった。
「それでは、行きましょうか」
その言葉を合図にして茶々の傍仕えの者達は動き出し、慶一郎と喜助は茶々の乗る輿の後へ続いた。そうして行き着いた先は大坂城が望める小高い丘の上だった。
その丘は、この日より二日後となる七月三日の夕刻に
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