第73話「晒し首」
「えっ!?…お、お役人様!?大丈夫ですか!?しっかりしてくださいお役人様!?」
倒れた役人達に対し、農民風の男が駆け寄って声をかけた。
「おいおい、おっさんよ?そいつらはあんたを殺そうとしたんだぜ。そんな奴らに気遣いなんて要らねえだろ」
「……旅のお方、助けに入ってくださったのは感謝します。ですが、私達は立場に
「いや、そりゃあまあそうだがよ。でもこいつらは…」
「ソラ殿、ここはこの方の好きにさせてあげましょう。…では、改めて私達は去ります。その二人は暫くすれば意識を取り戻すのでその前にあなたも去ってください」
「はい、お武家様。この土地のお役人様が全てこの方々みたいなお人ばかりではありませんが、この土地のお役人様の多くは
「ご忠告感謝します。あなたも気をつけてください」
「あ、おい!ジン、置いてくな!じゃあなおっさん、優しいのは良いことだが大概にしておけよ?…くそ、待てっての!」
(私達が
こうして、水戸入り早々に慶一郎と喜助は一人の男を助けた。この一件から半日も経過しないうちに慶一郎達はこの男と再会する。
男は慶一郎達が水戸の現状を知るために町を見て回っていた数刻、その僅か数刻の間に死体となっていた。
「おいジン。こりゃあ…!?」
「…ええ、あの方です」
男の亡骸は人通りの多い往来に晒されていた。頭と胴が完全に両断されたその亡骸は、 竹槍の先に突き刺した頭を天へ
亡骸を囲う柵などは一切なく、晒し首と云うにはあまりにも粗雑な晒し首であった。
「ちっ!なんでこんな事に!このおっさんが何かしたってのかよ!なあジン、お前にはこのおっさんが晒し首にされる様な悪人に見えたか!?」
「…少なくとも私にはこの方が悪人には見えませんでした」
「そうだろう!くそ!
憤りにも似た感情を露にする喜助の肩を慶一郎が掴んでいた。
「…落ち着いてください。彼らの
「………」
「………」
「…わかったよ。奴らを探すのはその後だ」
慶一郎と数秒間無言で目を合わせた後で喜助がそう云った。
喜助は言葉で諭されたのではなく、慶一郎の眼差しから
それから慶一郎達は晒し首にされている男の亡骸へ近付くと竹槍から頭を外し、男の頭と胴を並べてそっと手を合わせた。その後で男の亡骸に布を掛けるとその場を去った。
それは、見知らぬ土地であるが故に儘ならない状況での精一杯の弔いだった。
余所者である慶一郎達のその行為を行き交う人々は見て見ぬふりをしていた。
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