第116話 なんだあれは

★★★(フリーダ)



 言うに事欠いて「オマエみたいな腐った革命家」だと?

 力を持った優れた存在が、世界を好きにして何が悪い?


 僕はそのために生まれてきたんだ。

 そういう存在なんだよ。


 ……この、神の助力も無ければ、精霊との交信も不可能な退化した世界から来た野蛮人が!


 存分に後悔させてから殺してやるよ!


 僕は天舞の術で空中に浮かび上がると、変身を開始した。


 ……最初は……そうだな。


 その素晴らしい身体能力が欲しくて、わざわざこの街に来てまで、コピーした女戦士。

 そういえば、あのときにトミが徳美から改名したんだったかな。


 ……お前の存在に気づいて。


「……アイアさん」


 クミは、僕の姿を見て、怒りの表情を浮かべた。


 どうも、悔しいらしい。


 ……意味不明だ。

 笑える……!


 全身を金属鎧で固め、巨大戦斧を肩に担いだ女戦士。

 アイア・ムジードの姿に変身する。


 そして僕は、天舞の術の力で高速で突っ込み、横薙ぎの斬撃を繰り出した。


 クミは身を低くして横っ飛びに跳び、その斬撃を寸前で回避する。


 くるり、と受け身を取り、すぐに向き直ってくる。


「よく避けたねぇ?」


 そんな僕の言葉に。


「……アイアさんはそんな笑い方しない! アイアさんまで汚そうっていうのね!」


 なんかまた、怒ってるな。

 どうでもいいけど。

 いや、ちょっと愉しいかも?


 まぁ、勝手に言ってなよ。


 道具をどう使おうが、使い手の勝手だろ。


 さて……気をつけないとな。

 こいつは、即死攻撃があるから、心の動きだけはしっかり見ておかないと。


 逆に言えば、心の初動さえ見落とさなければ、こいつは敵ではない。


 僕は再度変身した。


 異能使いでは無いけれど。

 その才能に魅力を感じ、ストックに入れた。

 戦闘訓練を積んだ奴隷メイド。


 白髪赤目のボブカット。エプロンドレス。

 弓の名手のセイリアの姿に変身する。


 弓矢を携えた姿に変身したので、僕は矢を背中の矢筒から引き抜きながら、矢を速射する。


 10を超える矢が打ち込まれるも、クミは目の前に氷の壁……氷結防壁を出現させ、それを防いだ。


 ……そう来るだろうね!


 僕は地を蹴って、突っ込んだ。


 アイアに再変身をしながら。


 空中で変身をすぐさま完了させ、戦斧を氷結防壁に叩きつけた。


 一撃で、粉々になる。


 クミは焦った表情を浮かべるも、杖を構え直し、打ち込んできた。


 そこで、僕は感じ取った。


 ……凍結攻撃が来る!


 当たれば即死。

 回避できる距離ではない。


 ……だけど。


 僕は冷静に、クミの姿に変身し、その攻撃を同じ杖で受け止めた。


 ……同じ自分であれば、キミらの即死攻撃は効果を示さないんだよね?

 キミの記憶から教えてもらったよ?


「即死攻撃はするだけ無駄だよ? 感じ取った瞬間キミの姿になるからね?」


 ニヤニヤ笑いながらそう言ってあげると、クミは絶望的な表情をした。


 そこに、心理的空白を感じ


「サイファーよ」


 自分の分の杖を手放し、クミの持つ杖を握り込みながら。


 手のひらを向けて、波動の奇跡の呪文を口にした。


 意識的に、少し遅く。


 すると、案の定。


 クミは、至近距離で波動の奇跡を受けることを恐れ、杖を放棄し斜め後ろに跳んで逃げた。


 ……はい。狙い通り。


 杖を捨てながら、僕は言う。


「あとは仕込み武器のナイフがあるんだっけ?」


 丸腰にしてから、絶望的な気分で切り刻んで殺してやる。

 そう思ったから、やったのだ。


 杖までは、成功。


 さて、どうするかな?


 あれは……操鉄の術を使用して使うのが前提だったっけ。


 じゃあ、奪ってもあまり意味無いか……って。

 今さっき奪った杖もそういえば、操鉄の術に反応する作りになってるんだったな。


 ……意味無かったのか。


 んー、じゃあ。


 そろそろ、やってしまうか。


 もうちょっと、甚振りたかったけど。


 ……最後は……やっぱりこれだろ……


 僕は最後の変身を行った。


 黒髪の絶世の美女。

 二つ名は「黒衣の魔女」


 ……この女の、異能の師匠……!


「……オータムさん……」


「最後はこの姿が一番だよね」


 この女、オータムが倒されたと知った時、泣いていた。

 そのオータムの姿で、この女をブチ殺す。


 なんとも愉快じゃないか。


 ……ああ、そうそう。


 だったら、これも伝えておいた方がいいかも。


 僕の姿を悔しそうに見つめているクミに対し、僕は教えてやった。


「……この女が、どうやって僕にやられたか、教えてあげようか?」


 あれは、傑作だったよね。

 まさかあんなに簡単にカタに嵌るとは思って無かったし。


 ……クミは答えない。

 まぁ、返事はどうでもいいか。


 僕が言いたいんだし。


「ほら、トミの声ってキミと同じでしょ?」


 勝手に説明を開始した。


 僕の説明が進むに従って、顔色が変わるのが面白かったな。


「トミとオータムの姿を使い分けて、キミが僕に騙されて殺されようとしている設定の芝居を打ったんだよね」


 大地潜行の術で、引きこもって出てこないからさぁ。


 そう、後に続ける。


「するとだ。ハッキリ言ってバレバレの芝居なのに、飛び出て来たよ」


 お笑いだよね。

 万一、本当にキミが騙されていたら、キミが死んでしまうから。


 芝居の可能性を考慮できなかったんだろうね。


 そう続けたら、ぶるぶる震えてた。

 ホント、面白い。


「それぐらい、キミは大切に想われていたんだ」


 そう、しみじみと語り掛けるように言ってあげた。


 すると……


「……オマエが、人間の絆を語るな……」


 クミは、そう、絞り出すように言葉を吐きながら、僕を真っ直ぐに睨み据えて来た。


 面白くてしょうがない。


「僕は事実を言ったまでだよ」


 悔しいだろうね。

 キミたちの絆を利用して、キミの師匠を効率よく倒したんだ。


 それなのに、やられた側のキミたちは、僕をどうすることもできない。


 こんな面白い事、他にある?


 ……超越者の醍醐味だよ。


「……オマエはそうやって、全ての他人を利用するだけ。誰の事も、本当は大切じゃ無いくせに……」


「そうだね。でも、それで何か問題ある?」


 別に寂しくも無いし、悲しいとも思ってない。

 僕が本当に大切なのは僕だけだから。


 この、歴史上ただひとり。


 サイファー神官の究極位階に達し、『創造神降臨の奇跡』を使用したこの僕こそ、僕にとって本当に価値があるものだ。


 ……そういえば、メシアの究極位階でも同じ魔法があるんだってね?

 もっとも、そっちは「術者本人の命」がその代償らしいけど。


 意味が分からないよ。

 魔法を使って、自分が死んでどうするのさ?

 馬鹿すぎる。


 その点、サイファーの『創造神降臨の奇跡』は違うよ?

 代償は、他人の命で良いんだから。


 ……まあ、僕の代わりだからだいぶ質と量は要求されるけどね。

 僕の場合は、高位神官を3人ばかり、生贄に捧げたかな。


 それで上手く行ったときは、本当に嬉しかったなぁ。


 これで魔神に転生できる。やったぜ! ってね。


 ……これを教えてあげたら、眼光鋭くクミはこう返してきた。


「オマエの思い通りにはさせない!」


 ……吹き出しそうになる。

 笑うしか無いでしょ。


 どうやって?


 絶対に僕には勝てないのに。


 できもしないことを、口にするもんじゃ無いよ?


 ……さて。


「そろそろ、死のうか?」


 僕はそう、切り出した。


 杖はさっき取り上げた。

 まぁ、操鉄の術を使えば取り戻せるけど、そんな時間を与える気は無いし。


 ……師匠の技「操髪斬」で寸刻みにしてあげるから。


 その対処法はまあ、こっちも色々思いつくけど、その対処法の対処法もあるからね。


 時間の問題。


 何せ、僕はキミの頭の中を覗けるんだから。


 僕は、その長い髪の一本に、魔力を流して硬度を鉄以上に高め……


 己が手足の如く、操作した。


 おお……こりゃいいや。


 使い勝手がいいのがやってみてよく分かる。

 自由自在に動かせる。伸ばすことすら可能。

 今度からの普段使いはこの姿だな。


 さて……


 試し斬りだ!


 僕はそのまま、彼女の足を狙って斬撃を繰り出し……


 プツン。


 ……え?


 一瞬、何が起こったのかが分からなかった。


 僕の強化された操髪斬の髪の毛が、いきなり切断されたんだ。


 ……何に?


 それは……


 彼女が、クミが、僕を鋭く見据えながら、両腕を広げて、腰を落とした姿勢で立っていた。

 いつでも飛び出せる姿勢。


 僕の目は、広げた彼女の両腕の先……両手に釘付けになった。


 その手が……輝いている!

 あれで切断したのか……?


 眩い光を放っていた。


 なんだあれは、なんだあれは……?


 クミの異能は「冷却する力」「血を操る力」

 魔法は「雷の精霊魔法」


 そのどれもが、あんなことを可能にする可能性が無かった。


 一体どういうことだ……?


 僕は、クミの頭の中を覗いた。

 答えが目の前にあるのに、考えるのは無意味。


 隙が出来るだけだ。


 それに直感だが、これの確認を怠ると命に係わる気がする……!


 そして……


 僕は、血が凍る感覚を味わった。


 もはや、忘れてしまったこの感覚を……!

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