第81話 ゴミクズ平等国建国
★★★(グレートゴミヤ)
俺の気分は高揚していた。
あの苦しいサドガ島の日々。
やっと抜け出せたんだな。
それを噛みしめる。
一緒に島を出ないか?
それをクズオさんに持ち掛けられたとき。
最初は何を夢のようなことを? そう思った。
でも、このクズオさんの突然の豪勢な夕食。
クズオさんはそこに何かからくりがあるという。
だとすると、夢の話では無いのかもしれない。
「どういう風にですか?」
そう、聞き返した。
そこからの話は興奮した。
クズオさんは、突然平等の神タイラーの加護を得たらしく。
数々の神の奇跡の行使が可能になったらしい。
まだ1日に5回くらいが限度らしいが、慣れればもっと行くかもしれない、とのこと。
……すげえ。
俺は興奮した。
俺は、混沌神官のオヤジがヘマをしたせいでここにぶち込まれることになった。
そんな俺に、救いの手を差し伸べてくれたのがまた、混沌神官……。
運命を感じたよ。
「どうやるんです?」
「呪言の奇跡の行使さ」
俺の勢い込んだ問いに、声を抑えろ、と注意しつつも、クズオさんは話してくれたよ。
看守の相当数をすでに言いなりにしているらしく。
後は、脱出後の生活設計だけだ、と。
このサドガ島の一番近くに、観光で有名なムッシュムラ村がある。
まずはそこを目指して、そしてそこを制圧しよう。
そう、話してくれた。
そのための戦力として、まず魔神の召喚をはじめた。
言いなりの看守を駆使して、生贄を拉致。
そいつを捧げものとして、魔神を召喚する。
まだクズオさんの実力が発展途上だからか。
呼び出されるのは下位の魔神……レッサーデーモンばかりだった。
「レッサーデーモンしか引っ掛からんな」
クズオさんはため息交じりにそう漏らす。
俺としてはそれで十分じゃ無いか? って思ったけど。
「方法は無いんですか?」
「より上質の生贄を捧げれば、グレーターデーモンを呼べるかもしれん」
社交辞令のつもりだったのに。
具体的な対応策が返って来た。
俺はそこで思ったね。
ここで俺がひと頑張りすれば、クズオさんは俺の事をもっと重く扱ってくれるかもしれないと。
より上質の生贄……クズオさんによると、子供か、女が良いらしい。
特に女は、妊娠中だとなお生贄としての価値が上がると。
……俺は思った。
よし。ブタメスとクサレマを捧げてやろう、と。
あいつら、サドガ島に送られてすぐに、看守たちに媚を売って向こう側に回りやがった。
許せない。
思い知らせてやる。
俺は労働の時間にわざをヘマをやり、ブタメスとクサレマの制裁から逃げ出すフリをして、あいつらを誘導した。
言いなり看守が待ち構えている人気の無い場所に。
そこで、言いなり看守たちに突然羽交い絞めにされたとき。
あいつらのポカンとした顔が最高に笑えた。
「ちょっと、どうしてよ!?」
「何で私たちを捕まえるのよ!? そいつが囚人でしょ!?」
オイオイ、いつまで強者のつもりだ?
今はお前らが、狩られる番なの。
それを、笑いながら教えてやった。
こいつら、俺の言いなりだから。
これからお前ら、魔神召喚の奇跡の捧げものに使うから。
「そんな!?」
「許して! 謝るから!」
知るかよ。
今まで好き勝手やってきたんだ。
これから、その分の借りを返してもらうだけだ。
そう、言ってやった。
心地よかった。
泣き声が、歌声に聞こえた。
やつらへの憎悪が、悦びへと変わっていく。
「おなかに赤ちゃんが居るの!」
クサレマがそんなことをほざいたが、当然無視。
それが事実かどうかは分からなかったが、どうでも良かったし。
むしろ、それならそれで、なお都合がいいしな。
……確かめる気も、必要も無かった。
でもま、この後ふたりを捧げたときにグレーターデーモンのグレーターオウガを呼べたから、本当だった可能性高いかもな。
泣き叫ぶクサレマとブタメスの身体が、クズオさんの呪文に反応し、細切れになって地面に描かれた魔法陣に吸い込まれていく。
そして、2本角の上級魔神……グレーターオウガの召喚をこの目で確認したとき。
俺は、声を聞いた気がした。
『お前は、奪われている。取られたものは、取り返せ。人は等しくあるべきなのだ』
『お前は正しい。お前はもっと得ていいのだ。遠慮するな。持つものを憎め。そして取り返せ』
『我は平等を愛する神。我が名はタイラー。お前は我が使徒。加護をくれてやろう』
……おお。
俺……タイラー様の加護を得たのか?
魔法が……使える気がするぞ?
治癒と……暗闇と……あと、波動か?
すげえ……俺、魔法使いになっちゃったよ!
俺はタイラー様に認めて貰えた……!
俺は、神様に認めて貰えたんだ!
兵力が整って来たので、言いなり看守に命じて、船を用意させた。
その船に乗って、サドガ島を脱出。
やっと、この地獄の島から抜け出せた。
島抜けするときに、邪魔になった人間を面倒だから何人か殺したが、死体を積んでいく気は無かったので、海に出たとき海に捨てた。
鯱が集まってきて、喰い始める。
無駄にならなくて良かったな。
そして海を船で渡っているとき
「なぁ」
海を見つめながら、クズオさんが言ってくる。
俺は
「何ですか? ハイパークズオさん?」
と返した。
……俺たちは、改名していた。
サドガ島を出るとき、これまでの自分とを決別するために。
俺はグレートゴミヤ。
クズオさんは、ハイパークズオと改名したのだ。
ふたりとも、揃ってタイラー様の神官に覚醒した。
これは運命に違いない。
決別以外にも、改名は自然な流れだった。
「村についたら、国を興さないか?」
そんなことを、ハイパークズオさんは口にした。
俺はそんなことを考えてもみなかったので
「国……国ですか?」
聞き返した。
すると、ハイパークズオさんはこう言ったんだ。
「……俺たちのような、奪われてきたものが、人が平等に暮らせる国を興すんだよ……俺たちが、このゴール王国を興したベルフェみたいな、建国者になるんだ……どうだ? やってみないか?」
建国者……ベルフェのような……?
言葉が大きすぎたので、俺の頭に広がるまで時間が掛かったが……
おお……それは……スゲェ。
身体が震えてくる。
興奮で。
俺たちが建国する。
すげえ。
成り上がりだ。
成り上がりの最高峰じゃないか……!
俺たちが、俺たちの国の歴史の最初のページに名前を残すのか……!
凄すぎる!
めじゃないぜ!
オータムやムジードみたいに、冒険者で名を上げることなんかより、ずっとすげえ!
比較にならねえ!!
「……やりましょう……! 俺たちの理想の国を作りましょう!」
上ずった声で、俺は応えた。
その俺の返答に、ハイパークズオさんは満足そうに笑った。
そして。
「……ゴミクズ平等国……キミら、正気で言ってるのか……?」
俺たちが建国宣言をした広場に駆けつけて来たタレ目のおっさんが、俺たちを怯えた目で見ながらなんか言っている。
「何か文句があるのか?」
そう、強めに言ってやった。
こういう奴は、きつく言ってやらなきゃな。
「そんなこと上手く行くわけないだろ……?」
ゴール王国相手にたった2人で勝つつもりか?
そう言いたいのか?
「いくさ。力を蓄えて、いずれこの国にとって代わってやる」
ガハハ、と笑いながら言い放った。
「このデーモンたちを見てみろ。悪魔の軍隊だ」
レッサーオウガの集団を手で示しながら。
1本角の下級魔神……レッサーオウガたちは、整然と並んでいた。
数は10を超えている。
それだけでもすごいのに、それよりもさらに強い2本角……上級魔神のグレーターオウガがさらに2体。
どうだ? すげえだろ!?
「人間なんて比較にならん強さだ。これからもっと数を増やして、いつかゴール王国を滅ぼせるだけの数を確保してやんよ」
「だから出来る。絶対に」
ハイパークズオさんの合いの手。
ナイスです!
「分かったら黙って俺らに従え。ちなみに拒否は許さない。指導者に逆らうなんてありえんからな。平等を指導してくれる俺ら指導者に」
ハイパークズオさんは、若い女を抱き寄せながらそう続ける。
まぁ、サドガ島じゃあ、女を自由にできる場なんか無かったからなぁ。
溜まってるんですね?
女は、ハイパークズオさんの相手が出来るというのに、泣き叫んでる。
うっとおしいなあ。
「うるせえ! ビービー泣いてるとぶっ殺すぞ!?」
そう一喝してやると、泣き止んだ。
わかりゃいいんだよ。
「平等、平等って、どこが平等だ!? 泣き叫ぶ女の人権は無視するのか!? それのどこが平等だ!?」
するとだ。
タレ目が、なんかうっとおしいことを言ってきやがった。
ガタガタ震えながら。
……黙れよ。
ビビリのクソが。
でも俺は、優しいので分かるように噛み砕いて言ってやったよ。
「……ハイハイ。俺らはな、ずっと虐げられてきたの。だから、このくらい取り返すのは当たり前なの」
馬鹿だからわかんないか?
「本来得られるはずだったものを、取り戻すのは不平等の是正であって、何も問題は無い」
「俺らがそれは平等のためだと判断したなら、それは平等のために必要な事なの」
俺とハイパークズオさんのツープラトンで言い返してやった。
でも、この馬鹿はそれでも黙らなかった。
「その理屈はメチャクチャだ!」
……滅茶苦茶なのはお前の頭だ。
いい加減、腹が立ってきた。
そもそもさ……
「……お前、何なの?」
イラつきながら、聞き返す。
するとタレ目は、はっきりとこう言ってきやがった。
声は少し震えていたがね。
「この村の
……ああそう。
村長……。
この村の責任者なのね。
さぞ、今まで偉そうに振舞って来たんだろうなぁ……
ああ、だんだん殺したくなってきたわ。
今までのツケをさ、払わせてやった方が良いんじゃない?
平等思想的に?
「ハイパークズオさん、こいつ殺した方が良くないですか?」
俺は提案する。
すると、ハイパークズオさんは、笑いながら同意してくれた。
「ああ、見せしめに丁度いいかもしれんしな」
やれ、と続ける。
許可が出た。
「……だとさ。レッサーオウガたち……ああ、そこのお前とお前。あのオッサンを八つ裂きにしろ」
俺は、傍に控えていたレッサーオウガのうち、2体に直接命令を飛ばした。
その2体は「ワカリマシタ」と返答し、動き出す。
おっさんに向かって。
おっさん、ガタガタ震えながらも、動かない。
……ビビッて腰を抜かしたのかな?
笑える。
せいぜい、いい悲鳴を聞かせてくれよ?
こみ上げてくる笑い。
楽しい。
私は立派に生きてます、ってツラをしてる連中に腹が立つから、ぶっ壊してやりたい。
お前らはちょっとだけ運が良かっただけなのに、何を偉そうなツラをしているのか。
それをさ、その命で思い知らせてやる!
お前らの築いたものに、何の意味も無かったんだってな!
「……め……メシア様は見ている。お前らの非道な行いを……!」
俺は笑ってしまった。
これから殺されようとしている村長のおっさんが、そんなたわ言をほざいたからだ。
腹を抱えてひとしきり笑った後、言ってやった
「ハイハイ妄言乙。諦めてさっさと……」
死ね、と続けようとした。
そのときだった。
どこからともなく、鎖のようなものが伸びて来た。
赤い金属棒を途中に挟んだ、鉄の鎖。
それが、おっさんに爪を伸ばそうとしていたレッサーオウガ2体に接触し……
次の瞬間、その2体が氷漬けになる。
「!?」
俺らは、絶句した。
村長のおっさんも、動けなくなっていた。
……何が……起こった?
その答えは、すぐにやってきた。
「……そこまでよ。それ以上は、あなたたちの好きにはさせないから」
上から、声。
見上げる。
そこには……
丸い眼鏡を掛け、緑色のスカート、上着の上に革鎧を身に着けた女が宙に浮いていた。
髪は首のあたりで切り揃えたショートカット。
知的な印象を受ける顔立ちで、今の表情はとても厳しい。
右手には、赤い金属の棒を持っていて、それが、先ほどの鎖の正体だった。
……俺はこの女を知っている。
というより……
恨み骨髄の相手だった。
忘れもしない!
この女のせいで、この女のせいで……
俺は、一度破滅したんだ!
「お前ぇぇぇぇぇっ!!」
俺は叫んでいた。
ここで会ったがなんとやらだ!
絶対にぶっ殺してやる!
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