第43話 とても理不尽な理由

★★★(アイア)



 15才になって。

 私は成人した。

 成人したので、自慢の長い黒髪の一部を、一族伝統の毛染めで赤く染めて。

 スタートの街で冒険者をやってる叔父を訪ねた。


「アイア、大きくなったでござるな」


 そう言って、故郷の近況を聞いてくる叔父様。

 私はそれに答えてから、本題を切り出した。


「叔父様。私、冒険者になりたいです」


 叔父のガンダ・ムジードは父の弟で。

 冒険者としては名が売れていた。

 なのに、住んでる場所は貧乏長屋。


 贅沢に興味がないらしい。


「アイア……本気でござるか?」


 訪ねていきなりそんなことを切り出したので、本気を疑われた。


「本気です」


「アイアよ。私は修行の一環で冒険者稼業をしているわけだが、本来冒険者というものは、他に行く当てが無い人間が、一発逆転を狙って選ぶ場合が多い職業なのだぞ?」


 ……叔父様はちょっと言い辛そうにそう言った。

 職業差別につながるから、って意識があるんだろうか?

 メシア様も聖典で人間に「職業に貴賤は無いのだぞ」という一節あったしね。

 確か、人間が増えてきたから、国を作らせるために役割という概念を与えようと「お前は王になれ」「お前は農夫になれ」「お前は狩人になれ」そう、最初の任命を行ったら、メシア様に人間が反発。

 どうして一人だけ特別扱いするのか、と。全員王にしろと言い出して、そこでメシア様が諭すんだ。


「全員が王になったら国が立ち行かなくなる。全ての職業は素晴らしいものだ」


 だから、農夫や狩人に任じられたものは、誇りをもってその任にあたれと。

 その話は、そこで人間が納得して終わるんだけど。


 叔父様は「若いお前がいきなり冒険者を志すのは、捨て鉢すぎやしないか?」って言いたいんだろうね。

 でも、それって聖典の内容に反しちゃうから……。


 叔父様の心遣いは嬉しい。でも、私は本気で、捨て鉢にもなってない。

 この国は平和だし、もう400年くらい他国との戦争も起きてない。

 だから軍隊に入っても、ほとんど実戦を経験しないで訓練だけして終わる人生を送る可能性が高いと思うんだ。

 でも冒険者なら、モンスターや、盗賊相手に本当の戦いに身を投じることが出来る。

 最強の戦士を目指すには、冒険者を選ぶしかない。

 そう思うから。


「分かって言ってます。どうすれば冒険者になれるかを教えてくださいますか?」


「……分かった」


 私の目を見て、私の本気を分かってくれたのか。

 叔父様は冒険者になる方法を教えてくれた。




 叔父様の口利きで、冒険者の店に紹介してもらえた。

 最初は「私と一緒に仕事をするか?」って言ってもらえたけど、それだと甘やかされて戦士の修行にならないと思ったから、断った。

 叔父様の心遣いは嬉しいんだけどね。


 だから、いきなり赤の他人のパーティに加わることにしたんだ。


「アイア。パーティ参加希望の貼り紙を出しておけば、スカウトしてもらえる。ただし、相手の意図をよく見るのだぞ?」


 ……さっき、店のおじさんにも何か言ってたような気がするから、気にしてやってくれって言ってたのかな?

 最初に叔父様も言ってたけど、タチの悪い人が来る場合もあるから、相手の本性をよく見るようにしておけと。

 そういうことなんだろうね。


「はい。分かりました。気をつけます」


 ……もっとも。

 私は異能で人間の規格外の身体能力あるから。

 飲食物にだけ気をつけておけば、私をハメて売り飛ばすとか無理だから大丈夫だけど。


 でも叔父様の顔を潰すわけにはいかないから、忠告は素直に受け取っておくことにした。


『パーティ参加希望です。前衛やれます。女です。武器は両手斧。鎧は革鎧を身に着けています』


 名前と一緒に、自分を売り込むことを書いた紙を掲示板に貼り付けた。

 これでいいらしい。


 そして2時間ほど、テーブルで水を飲んでいたら。


「キミがパーティ参加希望者? 初心者なのかい?」


 ……見た感じ精悍な男性冒険者に声を掛けられた。

 青い、立派な金属鎧を身に着けた男性で、武器は両手剣。背中に背負ってた。

 私と同じ前衛なんだろう。


「はい。加えていただけるんでしょうか?」


 ……まだ完全に信用するわけにはいかないとは思うけど。

 とりあえずは大丈夫そう。


 そう思った私は、彼の誘いに乗ることにした。


 彼の名前は、サト・モヨモトというらしい。

 引き入れてもらったときに教えてもらえた。




「アイア・ムジードです。よろしくお願いします」


「あ、女の子。しかもでっかい」


「こちらこそよろしくー」


 男性のパーティの他のメンバーは全員女性で。

 弓使いが2人。荷物持ちが1人。

 私を入れて、総勢5名のパーティ。


 名前は、順番に「タマノ」「コーシ」「コシカケ」


 ……そのときの私の印象は。


 男性リーダーのサトさんは自信に満ち溢れていたし、特に嫌な感じはしなかったんだけど。

 その女たちは……なんだか……上手く言えないけど、嫌な気がした。

 ……それが何なのか、後で知ることになったんだけどね。




 初仕事は、ノライヌ駆除。

 冒険者としてはセオリーだ。


 ノライヌが棲み付いているという洞窟に乗り込んで、皆殺しにした。

 私の異能が存分に発揮されて、無双状態だった。

 すべて斧で一刀両断で、私がほとんど倒した。


 私が討ち漏らしたノライヌを、サトさんと他メンバーが仕留める。


 そういう形になってしまった。


 上々の結果じゃない?

 私はそう思った。


 私、やれてる!


 戦士としてやれている!




 その後も。


 街道に出てくる人食い虎を仕留めてくれという依頼では。

 後ろから襲ってきた虎を、振り向きざまに斧で首を刎ねて仕留めたり。


 山で人を襲って殺した熊を退治してくれという依頼では。

 巣穴を見つけて松明を投げ込み、怒って飛び出してきた熊を斧で頭から真っ二つにして仕留めた。


 そしたら、あるとき。


「出てってくれないかな?」


 パーティメンバーの女たちに囲まれて、いきなりそう言われたんだ。


「へ?」


 理解できなかったから、間抜けな声を出してしまった。

 だって、私はパーティの足を引っ張るようなこと、ひとつもした覚えが無かったから。

 むしろ、私の働きで片付いた仕事の方が多いでしょ?

 そう、自負していた。


「どうしてですか?」


「あなたのせいで、リーダーが自信無くして「俺、冒険者やめようかな」って言ってるんだよね」


 3人の女たちが私を睨みつけてくる。


 えっと……?


「彼、見た感じ頼れるし、信用あるのよ」


「彼についていけば、私たちでも上流階級と接触を持てると踏んでるから、私たち彼の仲間やってんの」


「いずれは、金持ちの依頼人に見初められて嫁に収まるのが夢なんだから、邪魔しないでくれる?」


 ……彼女たちの話を総合すると、こうだった。


 仕事を引っ張ってきやすいサトさんが、私の活躍で前衛戦士としての自信を無くし、冒険者の廃業を口にするようになった。

 彼についていってサポート的立ち位置で働くだけで、彼の仕事のおこぼれに与ることを期待していた自分たちとしてはそれは困る。

 だから原因になってるお前がこのパーティを出ていけ。


 ……そういうことらしい。


「アンタ、自分は強いって思ってるかもしれないけど、女ってだけで実力は大したことないって思われることは肝に銘じるべきだから」


「アンタにリーダーの代わりは務まらないわ。絶対にね」


「だから邪魔なのよ。居なくなってくれる? ……どうしてもパーティに残りたいなら、リーダーの愛人でもやってくれるかしら? ……自分の女だったらリーダーも多少自分より前衛として優秀でも耐えられるかもしれないじゃーん?」


 ……言葉の嵐。

 それを受けるたび、彼女たちの本質が見えて来た。


 ああ、こいつら、男にぶら下がって生きることに何の恥も躊躇いも無いんだぁ……。

 自分で努力して夢を掴むんじゃ無くて、最初からどの男に寄生しようか、なるべく吸い取るものが大きい男が良いなと。

 そんなことを最優先に考えてるんだぁ……。


 まるで、ダニか蛭だよね……。


 そっか。

 結婚を望む女とか、男に選ばれることを最優先にしてる女の本質って、こんななのか……。


 なんて醜くてみっともないんだろう……。

 吐き気がする。人であることを放棄した寄生虫……!


 だから。


「分かりました。今までお世話になりました」


 ……こっちから願い下げ。

 そう思ったから、何の躊躇いも無かった。


 ……ちなみに、私がそのとき出て行ったパーティ。

 まだ同じ仕事をしてるそうだ。

 いつか出来ると良いね。上流階級との接触。

 まぁ、無理なんじゃないかと思うけどさ!


 

 ……それから。


 私はひとりになり、仕事をした。

 冒険者の仕事のイロハはすでに学んでいたから、何も問題ない。


 パーティで請けるような討伐依頼を1人で請け、報酬を独り占めした。

 そして女の子だけのパーティがある場合は、参加させてもらったりもした。


 ……でも、男性とは組まなかった。


 別に男を敵視してるわけじゃないけど。

 私が活躍すると、どうにも関係が悪化するような気がしたから。


 後で嫌な思いをする可能性高いのに、わざわざ組むほど、私は仕事に困ったりはしていなかったから。


 そこらへんは、女の子のパーティでも一緒で。

 パーティに男の影が出てくると、私はサヨナラをした。


 男の話をされるのは、気分が悪い。

 自分を否定されるみたいで。


 ……さっき、男を敵視しているわけじゃないとは言ったけど。

 この社会が男のために作られていることだけは、正直不満だ。


 この国だって、建国したのは女王なのに、4代目からはずーっと王様は男。

 5代目からは王妃って存在自体居なくなって、女性王族は姫を除いて居なくなった。

 王室では、妃とは「子供を産んでくれる家臣。王族ではない」って扱いなんだ。

 女が、低く見られてる。

 どうして誰も文句を言わないんだろう。悔しい。


 あいつらが言った「女だから実力は大したことは無いと思われる」って事。

 社会がこうなんだから、多分言ってることだけは真実なんだ。

 事実は違うと思うけど。言ってることはだけは真実。


 だから私は人生で男を求めないことにした。

 故郷の父母は悲しむかもしれないけど、弟がいるでしょ。

 私と10才トシが離れた、弟のマガツヒドットコが。


 孫に関しては弟に期待して。私は産まないから。

 男の付属品で終わる人生なんて、まっぴらごめんだから!



 無理矢理パーティの仕事を1人で請ける。

 女の子パーティに入ったときに、鬼神のような働きをする。


 それを繰り返し、お金を貯めて装備をグレードアップし、私の強さについて無理矢理認めさせた。


 今じゃ、ヒヒイロカネの装備で全身を固めた「白兵戦無双の女戦鬼」って言ってくれる人も居る。


 そんなときだった。


 店のマスターに「アイアさん、ちょうどよかった。アンタに頼みたい仕事がある」「それで、組んで仕事をして欲しい人が居る」そう、続けられた。


「でも私、彼氏持ちの女の子や、男性と組むの嫌ですよ? ……後で嫌な思いをするに決まってますから」


 私がマスターにそう告げると「大丈夫だ。その辺は完全にクリアしてる人だから」と言われ。


 紹介された。


 全身を黒い衣装で固めた長い黒髪の女性。巻き毛気味の長髪はとても艶やかで美しく。

 スタイルは女性の理想像。黒いシャツとズボン、その上から着ている黒いコートが良く似合っていた。


「はじめまして。アイアさん」


 にっこり笑って、会釈してくれた。

 ものすごい美人。思わず見惚れてしまった。


 ……私の憧れる理想の女性である、オータムさんに出会ったのは、このときだった。

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