第12話:シロルーム遊び合戦ポンぽこ

 軽く話しただけで決まった今まであまり絡んだことのない四人でのコラボ。


 僕と猫ノ瀬先輩、貴虎先輩、あとはフウちゃん。


 普段だと絶対に考えられないメンバーでのコラボはどう転ぶのか全く予想がつかなかった。


 そんな相手だから配信内容を決めるチャットにも緊張しながら入っていた。



――うぅ……、本当は逃げたいんだけど……。



 しかし、後輩のフウちゃんがいる中で流石に逃げるという選択肢を選ぶわけにもいかず、不安に思いながらチャットに参加する。

 ただ、僕の心配はすぐさま杞憂に終わっていた。


 いや、それは新たな心配事の幕開けでもあったのだが――。




タマキン:[うにゃーーーー!! コラボは絶対に二十四時間耐久バトルがいいのにゃ!!]


幸運トラ:[おっ、いいな。一切寝ずに血で血を洗う対決をするんだな。これぞ合戦だ!]


ユキ犬姫:[い、色々とおかしいですよ!?]


ポンぽこ:[そ、その……、それより、ふうの名前がおかしくなってるんですけど……]




 暴走する先輩二人とそれを宥める後輩二人。

 普通、この逆なんじゃないのかと思いながら、反論をしていく。




タマキン:[にゃにゃ、そこはほらっ、配信中以外は語尾付けないからにゃ。個性がなくなると思って代わりに付けておいたのにゃ! 褒めてほしいのにゃ!]


幸運トラ:[確かにこれならわかりやすくて良いな! 俺がユキ犬姫を救ってやる!]


ユキ犬姫:[わわっ、僕の方もいつの間にか変わってる!? それに僕は救われる側なのですか!? おかしいですよね!? 普通、僕は救う側のはずですよ!?]


タマキン:[んにゃ?? 何がおかしいのかにゃ?]


ユキ犬姫:[えーっ、お、おかしいですよ!?]


ポンぽこ:[ユキ先輩はその……、可愛いですから、さらわれちゃう気持ちがわかります]


ユキ犬姫:[ふ、フウちゃんまで……]




 味方が誰もいなくなり、思わずその場で手をついて俯く。




幸運トラ:[魔王タマキンにさらわれたユキ犬姫を救うため、勇者タイガとペットの狸が魔王に挑む! 耐久のタイトルはこれでいいんじゃないか!?]


タマキン:[採用にゃ!!]


ユキ犬姫:[か、勝手に決めないでくださいよ!? 配信内容と全く関係ないですよね!?]


ポンぽこ:[え、えと……、タグは♯シロルーム遊び合戦ポンぽこですよね!?]


タマキン:[【《♯シロルーム遊び合戦ポンぽこ》タマキンにさらわれたユキ犬姫を救うため、勇者タイガとペットの狸が魔王に挑む!《猫犬vs虎狸》】で決定なのにゃ!]


ユキ犬姫:[えー……、い、嫌ですよ。それだと本当に僕、お姫様役になっちゃいますよ……]


幸運トラ:[えっ? ダメなのか? もうカタッターに予告したぞ?]


ポンぽこ:[ふぇ!?]


ユキ犬姫:[えっ!?]




 僕とフウは驚きの声を上げ、そして、慌てて貴虎先輩のカタッターを見に行った。




 貴虎タイガ@シロルーム二期生  @taiga_kitora 3分前

明日のコラボ配信、タイトルが決まったぞ!

【《♯シロルーム遊び合戦ポンぽこ》タマキンにさらわれたユキ犬姫を救うため、勇者タイガとペットの狸が魔王に挑む!《猫虎vs犬狸》】

魔王タマキンを倒すためにみんなの力を俺に分けてくれ!!


 @16  ↺1,571  ♡2,475




 既にかなり拡散された後だった。

 ほとんど時間が経ってないのに……。


 思わず僕はガックリと手を地面についていた。




タマキン:[なはははっ、もう覚悟を決めるしかないのにゃ。悪役令嬢ユキ犬姫の誕生にゃ]


ユキ犬姫:[ぼ、僕、悪役でも令嬢でもないですよ……]


ポンぽこ:[ユキ先輩はまだ人なだけマシですよ……。ふうはペット扱い……ですから]


幸運トラ:[友達はボール! 喰らえ、今必殺の狸ボール!!]


ポンぽこ:[えっと、ふうも魔王様側に付いて良いですか?]


幸運トラ:[くっ、最愛のペットにも裏切られて、逆境からのスタートか! 萌えてきたーー!!]


ユキ犬姫:[誤字ってますよ。それだと変な意味になっちゃいます。それに今日は色んな遊びをするんですよね? トランプとか色々な遊びが入ったゲームで。三対一だと勝負にならないですよ!?]


タマキン:[んにゃ。確かに勝負する種目次第だと、三対一でも厳しいのにゃ]


ユキ犬姫:[えぇぇぇぇ!?!? そんなに貴虎先輩って強いのですか?]


タマキン:[世の中、強い強くないの尺度で測れない、頭のおかしいトラがいるのにゃ。実際に戦ってみたらわかるのにゃ]




 僕的には猫ノ瀬先輩の方が謀略に秀でているので強いと思ったのだけど、意外な力の差があるようだった。




幸運トラ:[今日こそは勝ーーーーつ!!]


ポンぽこ:[って、いつも負けてるんじゃないですか!?]


タマキン:[にゃはははっ、相手の出方がわかるならそれに合わせて戦うだけなのにゃ]


ユキ犬姫:[黒い……。黒すぎますよ、猫ノ瀬先輩]


タマキン:[にゃっはっはー、魔王タマキンは伊達ではないのにゃ!]


ポンぽこ:[うぅぅ……、ど、どっちについても恐ろしいです……。――あれっ?? えっと、貴虎先輩?]


幸運トラ:[どうかしたのか? 一騎打ちなら喜んで乗るぞ!]


ポンぽこ:[ち、違いますよ!? そ、その……、これだとふうとユキ先輩が猫ノ瀬先輩と貴虎先輩に挑む形になってますよ!?]


ユキ犬姫:[えっ?? あっ、本当だ……]


タマキン:[にゃははっ、もう告知してしまったから仕方ないのにゃ。勇者と魔王が手を組んで姫とペットを討伐するのにゃ]


幸運トラ:[タマキとペアか。何も考えなくてもいいから楽だな!]


ポンぽこ:[こ、これって勝ち目があるのですか……?]


ユキ犬姫:[あ、あははっ……、そ、その、善戦したと言われるように頑張ろう……]


ポンぽこ:[……ですよね。精一杯頑張らせてもらいます]


タマキン:[にゃははっ、かかってくるといいのにゃ。蹂躙してやるのにゃ!]




 こうして、どう見ても負け戦にしか思えないメンバー分けで勝負をすることになってしまった。


 ただ、今のままなら惨敗することが目に見えていた。

 だからこそ僕は個人チャットでフウちゃんに連絡を入れていた。




ユキ犬姫:[こ、このあとって時間あるかな?]


ポンぽこ:[このあとは……はい、大丈夫です。空いてますね]


ユキ犬姫:[それなら一緒に練習しない? せ、せめて善戦できるように……]


ポンぽこ:[それもそうですね。わかりました。枠の準備もしておきますね]


ユキ犬姫:[えとえと、配信枠まではとらなくても――]


ポンぽこ:[いえ、きっとみんなも見たいはずですからね]




 四期生の中ではまともなフウちゃん。

 でも、やはり根っからの配信者のようでみんなが見たいなら配信を考える様だった。




ユキ犬姫:[そ、それもそうだね。うん、わかったよ。それじゃあ一緒に配信をしようか]


ポンぽこ:[はいっ! よろしくおねがいします!]




 こうして、突然に僕とフウちゃんのコラボ配信が決まっていた。

 予告もないゲリラ配信なのでそこまで人は来ないだろうし、下手なプレイ動画を配信してしまっても何とかなるだろう。




◇◇◇

『《♯シロルーム遊び合戦ポンぽこ前夜祭》練習会ポコ《狸川フウ/雪城ユキ/シロルーム》』

1.2万人が待機中 20XX/07/24 20:00に公開予定

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 白のワンピースを着た狸少女のフウ。

 ユキ犬姫バージョンのユキくんぼく



 二人並んで仲良く大部分に映し出されたゲーム画面を見る形で表示される。


 いつも通り段ボールに入れられていて、いざという時には隠れることができる。

 何かあったら全力で隠れよう。

 一応ちゃんと動けるか確かめておくことにする。




フウ :『み、みなさん、こんぽこー! ふうは狸川フウぽこー! 今日もたくさん見に来てくれてありがとー、ポコー!!』


ユキ :『こそこそ……』


フウ :『今日は明日するコラボ配信の特訓をしていくポコ! あと、今日はユキ先輩に来てもらいました。わざと声を出して存在感をアピールしているユキ先輩、どうぞポコ』


ユキ :『べ、別にアピールはしてないよ!? ちゃんと隠れられるか試してただけでその――』


フウ :『いきなり隠れないでくださいポコ! うぅぅ……、ユキ先輩にはこれがあるんだった。忘れてたポコ……』




 フウが必死に僕を段ボールから引きずり出そうとしてくる。

 もちろんそんなことで簡単に出て行くほど僕は甘くない。


 散々みんなに鍛えられた僕は簡単には段ボール警備員の仕事を辞めることはない。




ユキ :『わふ……、久々にぬくぬく環境なの……』


フウ :『でーてーきーてーくーだーさーいー!!』


ユキ :『大丈夫。顔は出すよ』




 段ボールから顔だけ出して話をする。

 すると、フウちゃんは呆れ顔を見せてくる。




フウ :『仕方ないポコね。とりあえずこれで進めていくポコ。それより、ユキ先輩。そろそろ挨拶をお願いするポコ』


ユキ :『そ、そうだったね。みなさん、こんわふー。シロルーム三期生の雪城ユキです。明日、魔王にさらわれちゃうらしいので、そうならないように鍛えたいと思います。あのメンバーならさらわれるのは僕じゃなくてフウちゃんだと思うんだけど……』


フウ :『そ、そんなことないポコ。ユキ先輩はとっても可愛いから当然なの。それに今もユキ犬姫様ポコなの』


ユキ :『そんなことないよね? 子狸さんたちはどう思う? かわいいフウちゃん、お持ち帰りしたいよね?』




 実際に面としてあったことはないけど、今までの配信の様子から、とっても可愛らしい子を想像することができた。

 だからこそ、リスナーのみんなに確認をしてみる。




【コメント】

:フウちゃんはかわいいよね

魔界エミリ🔧:フウは私が連れて帰るわよ

:エミリン草

:ユキくんは姫様イメージがすっかり付いちゃったもんね

:フウちゃんは姫様って言うより妹だよね




フウ :『ほらっ、みんなもこう言ってるポコよ』


ユキ :『うぐっ……、ま、まぁ、決まったものは仕方ないもんね。僕も覚悟を決めて返り討ちにするよ。そして、先輩たちを姫扱いしてみせるよ!』


フウ :『その意気ポコ!』




【コメント】

:明日の相手って誰だっけ?

:猫と虎だろ?

:勝ち目ないじゃんw

:善戦できると良いねw

魔界エミリ🔧:フウなら勝てるわよ。私がペアを組もうか?

天瀬ルル🔧:ユキ先輩とはぼくがペアを組むよ

:ルルちゃんwww

:三つ巴の戦いにwww



フウ :『明日はユキ先輩とのペアだからね。この役目は他の誰にも渡さないポコ』


ユキ :『あっ、えっと……、その……、うん。ありがと……』


フウ :『ち、違うポコよ!? そ、その、ふうは別にルルちゃんみたいにユキ先輩のことが好きだから、とかそういう意味で言ったわけじゃないポコ!!』




 フウが顔を真っ赤にして慌てて否定し始める。

 すると、当然ながら反応してくる人たちは出てくる。




【コメント】

天瀬ルル🔧:ぼくの敵はココママだと思ったけど、フウちゃんだった!?

魔界エミリ🔧:四期生……。絆……。やっぱりユキ先輩は敵……。

:約二名ほど闇落ちしかかってるんだけど……

:ユキくんは魔性の犬w

羊沢ユイ:うみゅー、ユキくんはユイのものなの。誰にも渡さないの!

:またややこしい羊が

美空アカネ:そうだぞ。ユキくんもフウちゃんも私のものだ!

:また増えた!?




ユキ :『ちょっと、ここはフウちゃんの枠だからね!? 僕のところみたいなテンションで来ないで……』


フウ :『あ、あははっ……、ルルちゃんとエミリちゃんにはあとできつく言っておきますね……、ポコ。』




 フウちゃんは乾いた笑みを浮かべながら言ってくる。

 ただ、その目だけは笑っていなくて、僕にはどこか恐怖すら感じられた。




ユキ :『お、お手柔らかにね……』


フウ :『ユキ先輩に、じゃないポコよ!?』


ユキ :『そ、それじゃあ取りあえずゲームをしようか? 今日は特訓だから順番に色んなゲームをしていこっか?』


フウ :『えっと……、まずは大富豪からポコね』


ユキ :『ルールはシロルームでいつもしている基本的なもので良いよね?』


フウ :『明日もそれでするポコね。わかったポコ』




 早速僕たちは大富豪を始めていた。

 ルールは八切りあり、革命あり、ジョーカー上がりなし……等々で、人数は四人。

 勝負は五回で、最終順位が勝敗となる。


 みんな平民の最初は配られるカード運が大きく勝敗を作用すると言っても過言ではなかった。

 そして、今回僕に配られたカードはいくつかのペアはあるものの飛び抜けて強いわけでもなく、平凡な手札だった。

 その辺りは僕らしい。


 でも、大富豪は運だけで勝敗が付くゲームでもない。

 カードを出すタイミング等、戦略性も問われるゲームだった。




ユキ :『フウちゃんはカード、どうだった? 僕はイマイチだったよ』


フウ :『ふうもそこまでよくないポコ。下手をすると最下位になるかもしれないポコ』


ユキ :『最初は運が大きく絡むもんね』


フウ :『そうポコね。運が大きく――。えっ? 運!?』


ユキ :『どうしたの、フウちゃん?』




 驚きの表情を浮かべるフウちゃん。

 何か問題でもあったのだろうか?




【コメント】

:運www

:幸運トラに勝てるはずがないw

:いや、カードで負けてても戦略で勝てばいいだろう?

:相手はタマキンとのペアだぞ?

羊沢ユイ:ユイが手を貸そうか?

:勝ち目ないねw

天瀬ルル🔧:ぼ、ぼくも力を貸すよ?

姉川イツキ🔧:お姉さんはフウを抱きしめて癒やしてあげるわ

魔界エミリ🔧:四期生全員が手を貸すなら私も貸さないわけにはいかないわね

美空アカネ🔧:はははっ、シロルームの裏ボスたるこのアカネ様が手を貸してやろう!

:暴走特急www




フウ :『み、みんな……、ありがとう……ぽこ』


ユキ :『えっと……、裏で結託して挑むのかな? いいのかな、それで……』




 僕は苦笑を浮かべながら成り行きを見守っていた。

 そして、大富豪の結果はCPU相手に僕が三位、フウちゃんが四位という最高の結果を叩きだし、僕は諦めにも似た表情でみんなの力を借りることを決めるのだった。

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