第9話:つよつよしゅーてぃんぐぱーとつー ♯音犬/協力対戦。敵の敵は味方?? ♯カグユイ

 ゲームをやり始めて数分後。


 オンプはあっさり倒されて、必死に抵抗した僕もすぐに倒されてしまった。



――本当に一瞬で……。




『あ、あの、オンプ先輩……? えっと、つよつよ……は?』


オンプ:『うぅぅ……。こんなはずじゃないの……』




 オンプは涙目になりながら、ぎゅっと自分のスカートを握りしめていた。



――よほど負けたのが悔しいのかな?




『だ、大丈夫です。ちょ、調子が悪いときってありますよね……いたっ』


オンプ:『うぅぅ……、敬語はダメなの……』




 涙目になりながらも、いつの間にかそばに置いていたハリセンで叩いてくる。




『えぇぇ……、今も継続で……なの!?』


オンプ:『も、もちろんなの……』


『わ、わかり……。わかったよ。気をつける。でも、その……つよつよは??』


オンプ:『うぅぅ……、たまたま……。たまたまなの。本当はもっとつよつよなところを見せるの』


『だ、だよね……。うん、びっくりしちゃったよ』


オンプ:『つ、次は大丈夫なの。うん……』




【コメント】

:いつもの光景

:つよつよw

:少し涙声w

真心ココネ:ユキくん、オンプ先輩。頑張って……




 それから数回挑戦していくと段々やり方が分かってきて、僕もすぐには死ななくなってくる。

 ただ、一方のオンプは……最初と変わらずに速攻で死に続けた。



 これは協力して相手と戦うシューティングゲーム。

 最終的に二対一になったら勝てないので、結果的に僕たちは負け続けていた。




オンプ:『うぅぅ……。私、何度もやったことがあるのに……』


『その……、げ、元気を出して……。まだ始まったところだから。ほらっ、一緒に一勝を目指そうよ……』


オンプ:『ゆ、ユキくん……あ、ありがとうなの……』




 オンプが涙目になりながら僕の方をじっと見てくる。


 すぐ近くにオンプの顔がある。


 僕が頬を染めて、思わず顔を背けてしまう。

 すると、オンプも同じように顔を背けていた。



 ただ、その動きはアバターにも反映される。

 アバターも照れた表情でお互い顔を背け立ていた。




【コメント】

:照れてるw

:初々しいなw

天瀬ルル:ゆ、ユキ先輩……。ぼくのことは遊びだったのですか!?

:↑草




『えっと、ルルとはまだあそび配信はしたことない……かな? ほらっ、雑談オフだけだし、一緒に泊まったくらい?』


オンプ:『ふえぇぇぇっ!?!? と、泊まったの!?』


『えっ? 別に何もおかしいことではないで……よね?』


オンプ:『えっ!?!? だ、だって……えっ!?』




 オンプは何度も僕の姿を見てくる。


 別にルルとは同じ性別だし、それにオフ自体は他の人ともしている。今更驚かれるようなことでもないと思うけど……。




【コメント】

天瀬ルル:うぅぅ……、一緒にお風呂にも入ったのに

:そういえばそんなことを言ってたな

:ヒメノン驚きすぎw

真心ココネ:お、お風呂!? そうだった、忘れてました……




オンプ:『お、お、お風呂!?!? あのあの……、さ、さすがにそれはそのその……』


『えっと、そうで……だよね。うん、僕も恥ずかしいんだけどね……』


オンプ:『恥ずかしいとか恥ずかしくないとかじゃなくて……。えっと、あれあれっ?? わ、私が変なの?』


『あ、あははっ……、ぼ、僕も変だと思いま……思うよ?』




【コメント】

:オフだと別におかしいことないんじゃないか?

:ヒメノンはお嬢様だからな

:そうか、ヒメノンならおかしくないか




『そ、それよりも次のゲームに行きましょう。今度は勝てますよ』


オンプ:『そ、そうなの……。あっ……』




 オンプが思い出したようにいつの間にか側に置かれていたはりせんで叩いてくる。




『痛っ……』


オンプ:『ほらっ、敬語はなし……なの』


『う、うん、ごめん……。あれっ、今度の対戦相手……』


オンプ:『えっと、[ユイ羊]さんと[ポン姫]さんなの』


『……ど、どこかで聞いたことないかな??』




 心当たりがありすぎる名前。

 一人ならともかくそれが二人なのだから、おそらく間違いないはず……。




オンプ:『も、もしかして知り合いさんなの?』


『多分だけど、ユイとカグラさんじゃないかな?』


オンプ:『えっと、ユイちゃんさんとカグラちゃんさん!? 三期生の?』


『その名前には無理に[さん]を付けなくていいんじゃないかな? 僕の時にも思ったけど……』


オンプ:『この方が話しやすいの。で、でも、ユイちゃんさんはゲーム上手いし、カグラちゃんさんも上手かったから大変なの』


『えっと、カグラさんはどうかな……?』




 僕は苦笑を浮かべながらジッと対戦相手のことを見ていた。




◇◆◇

『《♯カグユイ》協力プレイでシューティングゲームをするわよ《神宮寺カグラ/羊沢ユイ/シロルーム三期生》』

1.5万人が視聴中 ライブ配信中

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カグラ:『みんな、こんばんは。今日も神宮寺カグラが来てあげたわよ』


ユイ :『うみゅ、それじゃあ、もう帰っても良いの』


カグラ:『帰らないわよ!? なんで速攻私が帰ることになってるのよ!?』


ユイ :『うみゅ、それじゃあゆいが帰るの。乙うみゅーなの』


カグラ:『って、なんでいつもいつも帰ろうとするのよ! ほらっ、頑張ってよ。せっかく初めてのコラボなんだからね』


ユイ :『うみゅー、全体コラボとか良くしててあんまり初めてって感じがしないの』


カグラ:『まぁ、それはそうよね。私も同じ気持ちよ。それで今日はどんなゲームをするのかしら?』


ユイ :『うにゅ、言ってたとおり協力して相手を倒すシューティングなの。バンバン倒すの』




 ユイは楽しそうに笑みを浮かべていた。




カグラ:『私にできるのかしら? 初めてやるのよ?』


ユイ :『うみゅー、ユイに任せておくの』




 両手を挙げて自信たっぷりに答えるユイ。

 その挙動に一抹の不安を感じずにはいられないカグラだった。




カグラ:『あれっ、相手って?』


ユイ :『えっと、 [ユキ犬姫]と[音姫]なの。どこかで聞いたことがあるの』


カグラ:『そういえば今日、ユキとオンプ先輩がコラボをしてたわね。ゲーム配信だったかしら?』


ユイ :『ふふふっ、ユキくんをコテンパンに倒してみせるの』


カグラ:『黒いわよ、ユイ。それよりもユキの敵になるのは料理対決以来ね。前は引き分けだったけど、今回は勝たせてもらうわよ』


ユイ :『うみゅ、やる気十分なの。コテンパンにするの。うみゅ、それならユキくんに通話をするの。きっと楽しいの』


カグラ:『大丈夫かしら? 向こうも配信中よね?』


ユイ :『ダメなら通話に出ないの』


カグラ:『それもそうね。試すだけなら良いかしら……』




◇◆◇




ピコピコピコ……。




『あれっ、通話? ユイからだ』


オンプ:『ユキくんのお家芸の通知鳴らしなの』


『お、お家芸ってわけじゃないで……よ。それよりも――』


オンプ:『出て大丈夫なのです……、なの。きっと、対戦のことなの』


『わかりまし……、わかったよ』




 オンプがはりせんを持って構えていたので、慌てて訂正して通話ボタンを押す。




『どうしたの??』


ユイ :『うみゅ、声が聞きたかっただけなの』


『へっ!? それだけ!?』


ユイ :『うみゅ、それだけなの』


カグラ:『ち、違うでしょ!? ちょっとまだ切らな――』




 カグラがまだ何か言いたそうだったが、ユイはそのまま通話を切ってしまった。




『えっと……、何だったんだろう?』


オンプ:『いつものことなの。ユキくんの配信を見てるとそんな感じなの』


『えっ!? ほ、本当に??』


オンプ:『そうなの。今までの配信を見返してみるとよくわかるの。私も全ては見られてないけど……』




 オンプが申し訳なさそうな表情を見せる。

 ただ、それは仕方ないことだ。


 全員を追うなんて一日が四十八時間あっても無理なことだった。

 僕自身も最近は同期の皆は配信を見てるけど、他の人は切り抜き動画を見ることの方が多かった。


 そんなことを考えていると再び通知音が鳴る。

 今度の相手は――カグラだった。




『えっと、どうしたの?』


カグラ:『も、もうユイに切らせないから聞いてくれるかしら?』


『――今からする対戦のことだよね?』


カグラ:『えぇ、そうよ。改めて宣戦布告しようと思ってね』


『えっと、それはいいけど、カグラさんはいいの?』


カグラ:『どうかしたのかしら?』


『もうゲーム、始まってるよ?』




 僕は話しながらも自分のキャラを動かしていた。

 でも、カグラはその場で留まったまま。

 いつ狙われてもおかしくなかった。




カグラ:『あぁぁぁ、い、いつの間に始まったの!? と、とにかく覚悟すると良いからね!』




 それだけいうとカグラは通話を切る……ことなくそのままにしていた。

 そのおかげで向こうの状況もリアルタイムに入ってくる。




ユイ :『うにゅー、どんどん撃つの!』


カグラ:『いたたっ、私を撃ってるわよ!?』


ユイ :『気のせいなのー! どんどん撃つのー!』


カグラ:『痛い、痛いって! だから私を撃ってるって言ってるわよね!?』


ユイ :『味方の味方は敵なのー!!』


カグラ:『味方よ!? 敵じゃないわよ!!』




【コメント】

:実質三対一w

:カグラ様www

:これならまだ勝ち目があるかもwww

:いや、これは二対一対一じゃないか?w

:ユイちゃん一人勝ちがあるかもw




『えとえと……、大丈夫?』


カグラ:『っ!? だ、大丈夫よ!?』


ユイ :『うみゅ、ゆいが三人に圧勝するの』


カグラ:『だから味方よ!!』


オンプ:『えっと、これ、撃っちゃってもいいの?』




 オンプが困った様子で僕のことを見てくる。




『大丈夫だよ。二人とも僕たちを油断させようとしてるだけなので』


オンプ:『そ、そうなの? えいっ!』


『いたたっ、それ、僕だよ!?』




【コメント】

:フレンドリーファイアの応酬w

:ヒメノンw

:ヤバいな。チーム戦なのに個人戦だw

天瀬ルル:ぼくだったらユキ先輩と完璧なコンビネーションを見せることができたのに……




◇◇◇




 それから勝負は混戦を極め、気がついたときは僕たち三人は瀕死でユイ一人だけがピンピンしていた。




ユイ :『うぃなーなのー』


カグラ:『ど、どうしてあんな米粒くらいしか見えないところから当てられるのよ……』


『うぅぅ……、やっぱりユイは強かったよ……』


オンプ:『な、何もできなかったのです……』




 がっくりと肩を落とすオンプ。




ユイ :『ふふふっ、ゆいに勝つのは百億年早いの』


『それって一生勝てないってことだよね!?』


オンプ:『負けちゃったのです……』




 画面に表示されているのは『敗北』の文字。




【コメント】

:惜しかった

:ユイちゃんは強かった

:でも、ユキくんの腕上がってきてるな

天瀬ルル:ユキ先輩、今度は僕ともやりましょう

:ヒメノン、敬語に戻ってるねw




オンプ:『あっ……。ゆ、ユキくん、た、叩いて欲しいの』




 オンプははりせんを手渡してくる。

 ただ、さすがにそれを女の子相手に使う勇気は僕にはなかった。


 しかし、オンプは少し怯えた表情を見せながらはりせんを差し出して動かない。




『えっと、本当にいいの……?』


オンプ:『や、約束は約束なの……』




 別にはりせんで叩く約束はしてないんだけど、確かに敬語を使わない約束はしたもんね。

 そこまで言われてしまったらやるしかない。


 僕は覚悟を決めるとオンプからはりせんを受け取る。

 そして、涙目になりながらぎゅっと目を閉じるオンプに対して、軽く……。本当に軽く当たる程度にはりせんを当てる。




オンプ:『手を抜いてるの……』


『こ、これ以上はできないよぉ……』


オンプ:『で、でも、罰が……』


『ぼ、僕の罰じゃないよね!? ならこれで大丈夫だよ……。そ、それよりもほらっ、つ、次のゲームに行こうよ。ゆ、ユイ達には流石に勝てなかったけど、それでも僕たちはうまくなっているはずだよ!?』


オンプ:『そ、そうなの。今度こそ初勝利目指して頑張るの!!』




◇◇◇




 それからゲームをしばらく続けていた。

 流石になかなか勝てなかったものの、日が変わる頃にようやく僕たちは初勝利を飾ることができた。




オンプ:『――う、そ……』


『う、嘘じゃないよ! や、やっと勝てましたよ!?』




 思わず僕とオンプはハイタッチをしていた。

 そして、オンプは感極まって思わず僕に抱きついてくる。




オンプ:『や、やったよ、ユキくん! わ、私、こうやって勝つことがなかったから本当に嬉しいの』


『あぅあぅ……、そ、その……、お、オンプ先輩……!?』




 僕は必死に手足をバタつかせて抵抗したが、身体差によってまともに抵抗できなかった。




『お、オンプ先輩……、お、落ち着いて……。そ、その……、い、いろんなところが当たってます……』


オンプ:『はぅっ!?』




 オンプはようやく我に帰ると顔を真っ赤にして僕を離してくれる。




オンプ:『あぅあぅあぅ……、そ、その、あの……、ご、ごめんなさい……。私、その……、う、嬉しくて……』


『えとえと……、ぼ、僕の方こそその……、あの……、ありがとうございます?』


オンプ:『……ふふっ』




 僕が訳もわからずにお礼を言うとオンプは、クスクスと笑い出していた。

 それに釣られるように僕も笑い出す。




オンプ:『き、今日は本当にありがとう。その……、また一緒にやりませんか? また別のゲームも――』


『も、もちろんだよ。僕もその……、こうやって一緒に成長していけて……、た、楽しかったよ……』




 僕が微笑みかけるとオンプは顔を染める。




オンプ:『そ、そっか……。こういうところが他の子を落としていくんだね。天然のタラシさんなんだね……』


『そ、そんなことないよ……』




 あらぬ誤解を押し付けられそうになりながらも、良い雰囲気のままオンプとのコラボを終えることができた。

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