第3話:百合姉と健全たぬき
ある意味初配信からとんでもないインパクトを与えてしまったルルとエミリ。
その様子を
「二人とも、なかなか強烈だったね……」
未来美は苦笑をしていたが、葵は大爆笑をしていた。
「あははっ、なかなか面白いよ。エミリちゃん……、要チェックだね」
「……変なことしたらダメだからね」
「そんなことするはずないでしょ。お姉さんはただ全裸でオフ会を――」
「わぁぁぁぁ……!?!? だ、ダメだよ!? ダメだよ!? ぜっっっっったいにダメだからね!?」
未来美は顔を真っ赤にして、手をばたつかせて慌てていた。
それを見た葵は未来美に抱きついていた。
「あーっ、もう。みくちゃんは可愛いわね。お姉さんがハグハグしてあげよう」
「わわっ、や、やめてよ……。もう……」
口では文句を言いつつも、抵抗する素振りを見せない未来美。
むしろ、大人しくされるがままになっていた。
「それにしても、また一緒にこうしていられるなんて、信じられないよ……」
「お姉さん的には全然気にしてなかったのに、みくちゃんが遠慮しちゃったからでしょ」
「だ、だってぇ……」
未来美が配信したきっかけは葵にあった。
葵がMeeTubeでゲーム実況をしていたのを見て、同じ話題ができればもっと葵と話せるよね……という考えで始めていた。
ただ、それが裏目に出てしまい、未来美のチャンネル登録者数はあっという間に葵を抜いてしまい、それをきっかけに少し話しにくくなって葵とは疎遠になってしまった。
何かを話しかけると葵が気にするのでは……、と未来美が遠慮してしまったのだ。
でも、巡り巡ってこうして同じシロルームの、しかも同期として配信できるようになった。
それがきっかけでこうして葵と元の仲に戻ることもできた。
いや、今まで離れていた分、思いっきり甘えていた。
「初配信で少し緊張してるから一緒にいていい?」
と、無理を言ってこうして葵の部屋にお邪魔していたのだ。
「ま、まずは葵ちゃんの放送だね。大丈夫? 準備はできてる?」
「大丈夫。エミリちゃんからもらったミニアニメは準備できてるし、プロフィールは……まぁ、適当に作ったから」
「適当って、大事なところだからね!? 最初にたくさんの人に見てもらわないとお気に入りの伸び方に差が出てきてしまうからね!?」
「お姉さんはそこまで気にしないんだけどな……」
「私が気にするの!? もう、前みたいに疎遠になるの、嫌だからね、私……」
「大丈夫よ。もう同じ企業ライバーの同期なんだからいつでも会えるよ。家も隣でしょ?」
「う、うん……。そ、そうだね。ありがとう……。って、なんで私のスカートをめくってるの!?!?」
未来美は顔を赤面させて必死にスカートを押さえていた。
「はははっ、目の前に可愛い子がいるのにスカートを捲らないなんて、失礼だとは思わないか?」
「思わないよ!? もう……、相変わらずなんだから……」
「とにかく安心して見ててよ。しっかりお姉さんが暴走して、最後のまとめを任せるから」
「ちょっと、なんで私がまとめる役なのよ!?」
「お姉さんがまとめられると思ってるの? できると思う?」
久々に見にきた葵の部屋はかなり散らかっており、未来美がそれを片付けていた。
しかも、シロルームとの細かい打ち合わせも未来美が予定を組んで、葵と一緒に行っていた。
年齢的には葵の方が上なのだが、しっかりしているのは未来美。
いや、年齢で言うならルル同様に未来美もシロルームで最年少。
でも、四期生全員が暴走するわけにはいかない。
自分がしっかりするしかなかった。
「葵ちゃんにはできないね。昨日の様子だとルルちゃんやエミリちゃん……にも任せられないし、うん、消去法だと私になるんだね――」
「大丈夫! みくちゃんならできるよ!」
「うん、励ましてくれるのは嬉しいけど、いい加減スカートから手を離してくれないかな?」
「それは気にしなくていいよ?」
「き、気にするよ!?」
◇◇◇
『《姉川イツキ初配信》お姉さんの紹介よ 《姉川イツキ/シロルーム四期生》』
1.0万人が待機中 ライブ配信中
⤴362 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …
【コメント】
:色っぽいな。
:珍しいお姉さんタイプ
:まさかコウ先輩タイプか!?
:いや、今のところ暴走枠しかいない四期生だぞ?
:全員暴走枠かw
ミニアニメを流し終えるとイツキはその姿を表していた。
茶色の長い髪をしたお姉さん。
胸は大きめで、それを協調したバニー衣装を着ている。
そして、何より自身が色っぽいことを理解しているイツキが、それらしい表情を見せていた。
イツキ:『あららっ、みんな、お姉さんの配信にきてくれたの? ありがとうね。お姉さんはシロルーム四期生、
【コメント】
:色っぽい
:よろしくー
:意外と普通だw
:ついに新しい真面目枠が来たか
イツキ:『あらあら、みんなお姉さんの真面目な話が聞きたいの? でもちょっと待ってね。今日は色々と決めないといけないからね』
イツキはそういうと自身のプロフィールを表示させていた。
●姉川イツキ《あねがわいつき》
年齢:22歳
性格:自由奔放
好きなもの:酒、エロ、フウ、百合
嫌いなもの:エロくないもの、BL
詳細:エロと百合をこよなく愛するお姉様
自身は暴走しがちだが、他人が暴走したときはなぜか抑える役割に回る。
Vtuberになったきっかけ:女の子同士がわちゃわちゃする様子を見て
配信予定:歌枠、コラボ枠、ゲーム枠
◇◇◇
イツキが普通に配信できているところを見てフウは少しホッとしていた。
これなら大丈夫だろう、と自分の配信を準備することにした。
しかし、それがすぐに間違いだったことに気づく。
イツキ:『プロフィールもタグもすぐに決まっちゃったわね。それじゃあ、お姉さんからひとつ、真面目な話をしましょうか。そう、宇宙誕生の話よ』
【コメント】
:まさかの宇宙w
:突拍子のない話w
:草草
イツキ:『そもそも、宇宙とは女の子のスカートの中から生まれるものよ! 具体的にはフウのパンツよ! つまりパンツには宇宙の真理全てが詰まっているのよ。それでフウのパンツなんだけど、さっき見た時は――』
突然訳もわからない前振りから斜め上のエロ談義を始めるイツキ。
それを隣で聞いていたフウは動きが固まっていた。
【コメント】
:まさかのエロw
:フウって次の子だよな?w
:ワクワク
狸川フウ:な、何勝手に人のぱ……下着について語ってるの!?!?
:本人居て草
イツキ:『でもでも、みんな可愛い子のパンツは見たいわよね? 色を知りたいわよね? この愛の伝道師たるお姉さんがその夢を叶えてあげるわよ。でも、フウはまだまだお子様だから白の小さいリボンがついたやつなのよね。もっと大人のやつを履いてもいいと思うんだけど……。って、痛い、痛いわよ、フウ』
ポカポカポカ……。
フウは無言でイツキのことを叩いていた。
その顔は真っ赤で目に涙を溜めて……。
フウ :『か、勝手に言わないでよ……。は、恥ずかしくて外に出られなくなるよ……』
イツキ:『大丈夫よ! フウが家を出られないならお姉さんが一生面倒見るからね』
フウ :『イツキ……』
イツキ:『だから安心してお姉さんに身も心も全て捧げてくれていいんだよ。むしろ今からレッツゴー!!』
フウ :『……っ!?!? あぅあぅ、な、何を……、何を言ってるのよ、ば、ばか!! 本当にばか!!』
ポカポカポカ……。
【コメント】
:やっぱり暴走枠だったw
:次のフウって子が四期生の真面目枠か
:楽しみだな
:というか一緒にいたのか
:初配信からオフ会か
フウ :『もう、次余計なことを言ったらしばらく家に行かないからね! 部屋も片付けないからね!』
イツキ:『うん、大丈夫だよ。お姉さんが代わりにフウの部屋に行くから』
フウ :『い、家にも入れないから!!』
イツキ:『わかったよ。今は余計なことを言わないから』
フウ :『それでいいの。そ、それじゃあ、私は自分の配信準備をしてくるからね』
それだけ言うとフウは言葉を発することがなくなった。
◇◇◇
『《狸川フウ初配信》自己紹介ポコー 《狸川フウ/シロルーム四期生》』
1.2万人が待機中 ライブ配信中
⤴483 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …
【コメント】
:さっきの子だな
:もしかして、語尾があるのか?
:さっきなかったぞ?w
:苦労屋狸
さっきイツキの枠でついつい声を出してしまったせいで、少し枠に顔を出すのが恥ずかしい。
それでも出ないわけには行かないので、ちょっと顔を出す。
短めの茶色の髪と丸い耳。そして、頭に乗っている金の王冠が顔を覗かせる。
フウ :『こ、こんポコー。ふうは
次第に調子が戻っていき、全身を表示させていた。
小柄な体型で白のワンピースを着ている狸の少女。
【コメント】
:語尾は意識しないと忘れちゃうのかw
:かわいい
:しかも純情w
:照れてる顔がまたいいな
フウ :『ご、語尾ってなんのことポコか? ふうは自然体です……ポコよ』
図星を突かれて慌ててしまう。
しかし、深呼吸をして気持ちを落ち着けると画面にプロフィールを表示させる。
●狸川フウ《たぬがわふう》
年齢:18歳
性格:純情で真面目
好きなもの:ゲーム。四期生、イツキ
嫌いなもの:一人。孤独。えっちぃこと
詳細:四期生のまとめ役をしている狸少女。自分以外全員がポン役と言うことで気苦労が絶えないが、明るく楽しそうに話す。えっちぃことを言われると顔を赤面させて、頭が働かなくなる。
Vtuberになったきっかけ:知り合いを増やしたかった
配信予定:ゲーム枠、コラボ枠、雑談枠
【コメント】
:嫌いなものの欄www
:言ってみたいw
:まさかのまとめ役w
:まとめ……られるのか?
フウ :『ふぇっ!? な、なんで? そ、そんなこと書いてないはずなのに……。あっ!? も、もしかして――』
フウは隣にいるイツキを睨みつける。
すると、イツキはイタズラがバレた子供のように舌を出していた。
フウ :『や、やっぱり……。イツキちゃんが勝手に書いたんだね。わ、私がそんな……、え、えち……、そ、そんな変なこと書くはずないもん!!』
イツキ:『ほらっ、フウ。語尾、忘れてるよ』
フウ :『っ!? ぽ、ポコ……』
イツキ:『それにフウはお姉さんのこと、好きでしょ? 間違ってないよね?』
フウ :『う、うん……』
イツキ:『それにえっちぃことはいつもしてるよね?』
フウ :『そ、それは嘘ポコ!! ふうはそんなことしないポコ!!』
ポコポコポコ……。
イツキを何度も叩く。
イツキ:『もっとオープンになろうよ。お姉さんはいつでもウェルカムだからね』
フウ :『やっぱり身の危険ポコ。誰か応援を呼ばないとだめポコ』
そう言った瞬間にキャスコードの通話が鳴る。
相手は……エミリだった。
エミリ:『応援が欲しいんだよね? 来てあげたよ?』
フウ :『丁重にお帰りくださいポコ』
エミリ:『ど、どうしてよ!? 応援が欲しいんだよね?』
フウ :『うん、応援が欲しいポコ。でも、ポン枠はいらないポコ。これ以上増えるとふうだと扱いきれなくなるポコ。それに、エミリだとイツキの力にもなるポコ。より悲惨なことになるのが目に見えるポコ』
エミリ:『うぐっ……、確かに否定できないね……』
フウ :『でも、イツキちゃんとも仲良くしてくれてありがとうね。そこは感謝してるポコよ』
エミリ:『っ!? き、気にしなくていいよ。同期で仲間だもんね。仲良くするのは当然だからね』
イツキ:『仲間なら裸の付き合いをするのも当然よね?』
フウ :『い、イツキちゃん!?!? な、何を言ってるの!? そんなこと当然のはずが――』
エミリ:『そうよね。同期同士愛し合ってるならそのくらい当然よね? ルルちゃんも呼んでやりましょう』
フウ :『ふうがおかしいポコかな? 違うよね!? どう考えても二人がおかしいよね?』
【コメント】
:やっぱりぽん二人を抑えきれないかw
:まだポンはもう一人いるw
:おとなしそうな子だもんな
イツキ:『よし、お姉さんが全力で協力しよう』
エミリ:『流石イツキさん、よくわかってる』
二人の間で熱い友情が芽生えていた。
ただし、それはモザイクのかかったピンクの感情からだったが――。
フウ :『わかったポコ。そこまで言うならふうはルルちゃんを連れて、三期生のユキ先輩の下へ行くよ。きっと、ユキ先輩ならこの配信を見ているはずだし、ふうたちが困っていたら見放さないと思うから……ポコ』
【コメント】
雪城ユキ:えっと……、困ってるなら手を貸すよ?
:ユキくん、本当にいたw
:まぁ、昨日の配信も見てたもんな
:今日は同時視聴枠は取ってないんだな
フウ :『ユキ先輩……ありがとうございます。それでどうするポコ?』
フウがにっこり微笑むとすぐにエミリが折れていた。
エミリ:『そ、その……、二人が嫌がることはしないから安心して……』
イツキ:『お、お姉さんは諦めないから……』
フウ :『はぁ……、イツキちゃんは後からお仕置きしておくポコよ……』
イツキ:『えっ? お仕置き?? はぁはぁ……』
フウ :『うん、晩御飯にイツキちゃんが嫌いな野菜炒めを作ってあげるポコ。ふうの作った料理、ちゃんと食べてくれるポコね?』
イツキ:『うぐっ、そ、そういうお仕置きは嫌だー!!』
こうして四期生、二人のポンに挟まれて、フウの初配信は無事? に終わっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます