第11話:引退配信 ♯夏瀬なな+α

 ココママとのコラボが終わってから数日が過ぎた。

 記念配信をすることになってしまったので、僕は慌ただしい日々を送っていた。



 まずはボイスの収録。



 これは自分で犬好きさんたちへ向けたメッセージを言うのだが、やはり喜んでもらえるようにしたい。


 そうなるとただ喋るだけでは不十分。

 出来るだけ気持ちを込めたものにしたい。


 しかも、ボイスの内容は僕のおまかせらしい。




「や、やっぱり告白するようなセリフ……だよね?」




 考えただけで顔が赤くなってしまう。




 一応このことでココネたちにも既に相談はしているのだが――。




ココネ:[ユキくんの告白が聞きたいです! 一生の宝にします!]


カグラ:[そうね。日々のお礼でも言ったらどうかしら?]


ユイ :[うみゅー、寝言をいれておくのー]




 ココネは本能剥き出しだし、カグラさんのは硬い気がする。

 ユイは……まぁ特殊な需要はあるかもしれないけど、どれもピンと来なかった。



 一番近いのはココネのやつだろうけど、流石に特定の誰かに対する告白なんて恥ずかし過ぎて、考えるだけで、頭が蒸発しそうになる。



――もう少し僕にも言えて、それらしい台詞はないかな? でも、他に相談する人は……。



 キャスコードの連絡先を見る。



――七瀬とかはどうかな? 僕の悩みも共感してくれるかもしれないし……。



 それとは別に七瀬について気になることもあった。



 今までは[さすらいの犬好き]として配信に来て、スパチャを投げてくれていた。

 更にコメントもしっかり残してくれていたのが、ここ最近のライブ放送ではその姿を見かけていない。



 最初はこういう日もあるかな……くらいに思っていたのだが、それが何日も続くと流石に気になって来る。




「一応連絡を送っておこうかな。何かあったのなら力になれるかもしれないし……」




 そう考えた僕は七瀬へチャットを送る。

 既にできている四期生のアカウントへ。



 アカウント名は[天瀬ルルあませるる]。



 小さいアイコンでしか見れないが、青銀色の髪をしていて、長さは肩くらいのショート。その頭の上に金の輪っかが見えるので、天使系のアバターだと推測できる。

 それがシロルームでの七瀬のアカウントだった。




ユキ :[最近あまり姿を見かけませんけど、お元気にしてますか?]




 ココネとかに送るときはこんなに堅苦しく送らないのに……、と思わず苦笑してしまう。



 そもそも七瀬にチャットを送ること自体、これが初めてなので仕方がない。

 忙しいならしばらくは返ってこないかも、と思ったが、すぐにチャットが返ってくる。




ルル :[す、すみません。ここ最近、四期生の活動の準備と夏瀬ななの活動を終えることの後始末に追われてて、ライブ配信に行けてないんです。で、でも、その分アーカイブは毎日ずっと聞いてますよ!]




 毎日ずっと聞いてる、って部分は聞きたくなかった。

 元気そうでよかった……。




 すると、そのアイコンから通話がかかってくる。




ルル :『もし、よかったらなんですけど、今度夏瀬ななの引退放送をするので、そのときに枠に来てくれませんか? ち、ちょっとだけでもいいので……。ユキ先輩がいるってわかると私、頑張れる気がするので――』




 七瀬の声は少し震え、怯えている様子が見てとれた。

 引退放送となると今までのファンから何を言われるかわからない。

 それに今まで続けてきたアカウントでの最後の配信。


 恐怖や悲しみ、その他色々な感情が入り交じっていて押しつぶされそうになっているのだろう。



 僕が行くだけでそれが和らぐなら力になりたい。

 ただ、実際に顔を出すと色々と問題がある。


 僕はあくまでも企業所属のVtuber。

 他人のところに顔を出すには担当の許可がいる。


 でも確認をするくらいならいいはず。




ユキ :『色々と確認してみるよ。ただ、期待しないで待っててね』


ルル :『は、はい。あ、ありがとうございます……』




 今は怯えている七瀬だが、きっと配信になったら自分を押し殺して、夏瀬ななを演じるのだろう。

 それがどれほど苦しいのか、僕にはわからない。



 僕にできることはだが、七瀬を応援して背中を推してあげることだけ。

 七瀬自身が決めたシロルーム四期生。その楽しさを教えてあげることだけだった。



――うん、そうだよね。七瀬は僕に来て欲しい・・・・・って言ったんだから、僕ができることは七瀬の力になることだけだよね?



 覚悟を決めた僕はすぐに担当さんに連絡を取る……前にまずは母さんに電話をしていた。




◇◆◇

『《引退放送》今までありがとう。夏瀬なな最後の放送だよ!』

8.0万人が視聴中 ライブ配信中

⤴2,384 ⤵271 ➦共有 ≡₊保存 …




【コメント】

:夏瀬ちゃん、本当に引退するの??

:始まった

:嘘……。今知った

:ずっと推しだよ




なな :『みなさん、こんばんは。夏瀬ななです。今日はたくさん集まっていただいてありがとうございます』




 七瀬はいつもの雰囲気で話し始めていた。

 そこに変わった様子はない。

 でも、よく見ると体が小刻みに震えている。




なな :『突然の発表、驚いたよね。うん、私も驚いた。まさか私がこんな決断をするなんて。本当にごめんなさい』




 七瀬は頭を下げて謝っていた。




なな :『で、でも、これだけは言わせてほしいの。悪い理由での引退ではなくて、むしろ逆! 私の夢のために。どうしても私のやりたいことをするために、引退を決意しました!』




【コメント】

:ほ、本当に引退するのか?

:夏瀬ちゃんの夢、応援するぞ

:がんばれー




なな :『みんながいたから私はここまで来られたんだよ。だから、みんなには感謝してもし足りないよ。本当にありがとう……』




【コメント】

:夏瀬ちゃん、今までありがとう

:俺も感謝してるよ

:寂しいよー




なな :『それじゃあ、最後の配信、いっくよー!』




 七瀬が笑顔を見せて楽しそうに歌い出す。


 そこには先ほどまでの震えていた七瀬奈々はいない。

 今いるのはみんなを楽しませようとしている夏瀬ななだけだった。





◇◇◇




なな :『……楽しい時間ってあっという間に過ぎていくね。うん……、色々とあったけど、夏瀬ななとして過ごしていた時間は私にとって大切なものだったよ。少しだけ心残りがあるとするなら、その……最後には来て欲しかったかな……。うん、仕方ないんだけどね……』




 七瀬はコメント欄に視線を向ける。

 もしかしたら……と思っていたけど、やっぱり難しかったのだろう。

 別アカウントでコメントしてくれたのかもしれないけど、その場合、やっぱり判断することはできない。


 かといって、ユキくんアカウントだと、どうしてもシロルームの企業としての意向がある。



――仕方ないよね。



 そう思い、苦笑いしてコメント欄から視線を外す。


 すると、このタイミングでキャスコードの方から通話がかかってくる。




 相手は――ゆ、ユキくん!?




なな :『み、みんな、ごめんね。ミュートにするからちょっと待ってて』




 大慌てでミュートにしたあと、通話をとる。




なな :『ゆ、ユキくんですか!?』


ユキ :『わふっ、お、驚きすぎだよ。……うん、僕が遅れたのが悪いんだよね。ごめん……』


なな :『そ、そんなことはないですけど、その――』


ユキ :『と、とりあえず詳しい話は後にしよう。コラボ許可をもらってきたよ』




 ユキの声が震えている。

 かなり無理をしてるのがよくわかる。



――私のために? まだ会って数回の、ただ先輩後輩の間柄である私のために? ううん、ユキくんはこういう人なんだ。臆病なくせに優しいんだ。先輩後輩関係なく、困ってる人なら助けてくれる。だから私も惹かれたんだ――。

 今日もただ一言、コメントをしてくれるだけでよかった。私も言葉足らずで全部伝えていなかったのは悪かった。

 でも、私のためにかなり無理をしてくれたのだろう。企業系Vtuberであるユキが、今は個人のMeeTuberである夏瀬ななとコラボをするなんて……。



 並大抵のことで承諾が得られるとも思えない。

 それでもそんな苦労をお首に出さないで、いつものように……。



――全くこの先輩は……。本当に最高のサプライズプレゼントをくれるんですね……。



 七瀬は目に涙を浮かべながら笑顔を見せていた。




◇◆◇




【コメント】

:遅いな……

:何かトラブルか?

:電話でもきたのか?

:あっ、戻ってきた

:ななちゃん、泣いてる?




なな :『み、みんな、ごめんね。すごく待たせちゃったね。そ、その……、私も突然のことで驚いちゃって……。ある人が私の引退にあたってサプライズプレゼントをくれたんだよ。それが嬉しくてその……』




 七瀬の目からは涙が止まらずに溢れ出ていた。

 しかし、その表情は笑顔で悪いことがあったのではない、ということだけわかる。

 ただ、その涙もすぐに拭って笑顔を見せていた。




なな :『と、とりあえず、ここにも来てくれたから、みんなにも挨拶をしてもらうね』




 七瀬に促された僕は覚悟を決めて、大きく深呼吸をする。

 そして、気合を入れて大声で言う。




『わ、わふぅー!! み、皆さん、こんばんはー!!』




 しかし、音量調整に失敗しているのか、その声はほとんど聞こえなかった。




【コメント】

:誰が来たんだ?

:全く聞こえないよ?

:遠くの方から小さい声だけは聞こえたな




 速攻帰りたくなる。

 自分の枠だったら今すぐにでも切っていたかもしれない。


 でもここは七瀬の枠。

 しかも、最後の配信枠だ。


 この程度で負けるわけにはいかない。

 一旦音量調整を行なった後、もう一度僕は挨拶をする。




『わ、わふぅー。こ、こんばんは。こ、今度は聞こえてるかな? まだダメなら言ってほしいな?』


なな :『私の方は大丈夫だよ。だから隠れようとしないでね』




【コメント】

:聞こえたけど、この声って……

:ま、まじか?

:大事な時にミスをして場を和ますこの感じ……

:どうやって連れてきたんだ??

:他のライバーならともかく同期からも逃げる臆病だぞ?

:ユキ犬姫だぁぁぁぁ!!!!




 散々な言われようだった……。

 というか、七瀬のリスナーたちにも僕のこと、知られているんだ……。


 そう考えるとどこかいつもと同じような雰囲気を感じてくる。




『えっと……、ぼ、僕だってやる時はやるんだよ……。本当は今も逃げ出したいくらい緊張してるけど、今日に限っていえばやらないといけない時だからね。それとユキ犬姫……は広めたくていいよ。ただの犬、でいいからね。シロルーム三期生、雪城ユキです。その……、夏瀬ななさんが引退されると聞いて、コラボの許可を取ってきました。ど、どうぞよろしくお願いします……』




 僕が言い終えると七瀬はユキくんのイラストを画面の端に表示してくれる。




なな :『本当にびっくりしたよ。確かに私の枠に来て欲しいって言ったけど、まさかコラボの許可まで取ってきてくれるなんて……』


『えっと、だって「来てほしい」ってコラボのことだよね? だからちょっと色々と頑張ったんだよ』




 普通ならかなり厳しいコラボ許可。

 だから僕はまず母さんに相談をしてみた。七瀬の個人アカウントでの最後の活動を応援してあげたい……と。


 ただ、いつもなら二つ返事をくれる母さんでもこの時ばかりは回答を渋っていた。

 だから、何度も何度も説得を繰り返して、ようやく母さんが頷いてくれてから担当さんに相談をした。


 僕にしてはかなり動いたと思う。

 母さんにはココネに買ってもらった服を着て写真を撮らせる約束をさせられたが――。




なな ;『えっと、それはコメントがほしいなってことだったんだよ。流石にユキくんは企業所属のVtuberなので、できてもこの辺りかなって……』


『……僕、コメント欄に帰るね。乙わふ様でした』


なな :『待って待って! せっかくきたんだからゆっくりしていってよ。わ、私、本当に感動したんだから……」




【コメント】

:コラボしなくていいと分かった瞬間に速攻帰ろうとするユキくん草

:いつものユキくんだw

:コラボ慣れしすぎたなw

:でも楽しそうな雰囲気

:ななちゃんが引退するんだって忘れそうだな




『うぅぅ……、ここまで来ちゃったから仕方ないよね。今までお疲れ様』


なな :『あ、ありがとう……。ユキくんから言われると照れちゃうね』


『でも、本当に今日で最後なんだね……。その……、初めてコラボできたのにもうお別れになっちゃうんだね……』




 そのことを考えると、僕の方が悲しくなってくる。

 七瀬の最後の配信だから楽しんでもらえるようにしないといけないのに、目からポロポロと涙が出てしまう。


 すると、七瀬は優しい笑みを浮かべる。




なな :『ユキくん、私の代わりに泣いてくれたんだね。ありがとう……』


『だって……、だって……。これが最後だと考えると本当に悲しくなって……。これからもいてほしいのに……』


なな :『大丈夫だよ、確かに夏瀬ななわたしはいなくなるけど、天瀬ルルわたしはいるから。だから、これからもずっとよろしくね』


『うん……、うん……、そ、そうだよね。そうなんだよね……。こんなところで泣いてたらダメだよね』




 僕も涙を拭いとる。

 流石に七瀬みたいにすぐに元通り、と言うわけにはいかず、涙声のままだった。


 なんとか笑みをこぼせるくらいにはなっていた。

 でも、終了時間が迫ってくるとやはり涙が堪えられなくなってくる。


 そして、それは七瀬も同じのようだ。




なな :『本当に私は幸せだったよ……。リスナーに見守られて、ユキくんが駆けつけてくれて……、最高の引退配信だった……。今までの私だったら考えられなかった。グスッ……。ほ、本当に、本当にありがとう……。明日から夏瀬ななはいなくなるけど、それでもみんなの心には残り続けるから。そして、私がこうして、MeeTuberとして成長できたのもみんなのおかげだから――』


『うぅぅ……、ほ、本当にいなくなっちゃうんだね……。ぼ、僕は忘れないよ。ちゃんと心に刻みつけるからね……』


なな :『ユキくん……。うん、大丈夫だよ。私自身はいなくならないよ。ちょっと違う道へ進むだけだからね。だから、もし別のところで新しい私に会えたら……。その私が今よりも……。ううん、今とは比べ物にならないほど楽しそうにしていたなら、そっと背中を押してほしいな。もし、その私が不幸だと思うなら、無理やり夏瀬ななへの道に戻してほしいな』


『大丈夫だよ……。夏瀬さんが楽しい生活を送れるように僕も協力するからね』




 僕を見て決意したという七瀬。


 先輩として、仲間として、そして、この配信に呼んだもらった友人として……、七瀬に楽しんでもらえるように頑張らないと。




【コメント】

:今までありがとう

:絶対に忘れないよ

:お疲れ様

:本当にありがとう




なな :『みんな、本当にありがとう。……お、終わるタイミングがないね。私だと終われないかも……。ゆ、ユキくん、終わりの挨拶、お願いしてもいいかな?』


『ぼ、僕!? うん、わ、分かったよ。でも終わりじゃないよね? 始まりの挨拶だよね?』


なな :『で、でも、今日は最後の配信で……』


『な、夏瀬さんが新しい道へ進む記念の日だから……。そ、その……、終わりじゃないよ。だから、今までありがとう。これからも頑張っていこうね!』


なな :『う、うん! みんな、本当に今日はありがとう』




この放送は終了しました。


『《引退放送》今までありがとう。夏瀬なな最後の放送です』

9.8万人が視聴 0分前に配信済み

⤴2.0万 ⤵13 ➦共有 ≡₊保存 …




◇◇◇




『《♯ユキ犬姫拾いました》いまのきもち……聞いてほしいな《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

1.2万人が待機中 20XX/06/13 23:00に公開予定

⤴392 ⤵0 ➦共有 ≡₊保存 …




 夏瀬なな引退放送の後、僕は落ち込む気持ちを隠しきれずに思わずゲリラ配信をしていた。


 引退自体はどうすることもできないこと。



――だからこれは僕の愚痴……。



 それを犬好きさんに言うのは気が引ける。

 でも、この気持ちを隠したままにするのも何か違う気がしたので、思いきって枠を取っていた。



 すでに始まっているミニアニメ。

 いつものようにコメント欄が流れていく。




【コメント】

:ユキくんの気持ち?

:珍しいタイトルだな

:何かあったのかな?

:昨日のアレじゃないか?

:あぁ、ユキくん泣いてたもんな。




 すでに察しがついている人もいるようだった。


 ミニアニメが終わったのを確認したあと、犬姫バージョンのユキくんを表示する。


 もちろん段ボールの中に入れるのを忘れない。




『わ、わふぅ……』




 いつもの挨拶をしようとしたのだが、言葉が出ず、声が漏れただけになってしまった。


 弱々しい声……。


 これだけで何かあったのだと理解できる。




【コメント】

:わふぅ

:わふぅ

:元気ないね

《:¥10,000 元気出して》

:ユキくん大丈夫?




 コメントでも心配されてしまう。




『だ、大丈夫……。うん、大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて……』




 せっかく見に来てもらったのに、逆に心配させてしまったら申し訳ない。

 もっとしっかりしないと……。




『そ、その……、き、今日はさっきあったことを話そうと思います……』




 思い出した瞬間に目から涙が出てくる。




『うぅぅ……、も、もう知ってる人はいるよね。そ、その……、僕の知り合いだった夏瀬ななさんが引退を――』




 ここまで言って、もう涙がだらだらと流れて、まともに言葉が出なくなってしまう。




【コメント】

:ユキくん頑張れ

:無理しなくていいんだよ

:落ち着くまで待つよ




『あ、ありがとう。む、無理じゃないよ。言わずにそのまま別の配信をすることもできたんだよ。でも、いつも来てくれるみんなには聞いて欲しいなって思っ……』




 涙を拭いながら、なんとか笑みを作ろうとする。

 しかし、うまく表情を作れずに引き攣った笑みになってしまう。


 それでもなんとか話を続けていく。




『夏瀬さんが引退するのは聞いてたんだ……。悪い意味での引退じゃないことも知ってるし、夏瀬さんが完全にいなくなるわけではないことも知ってる……。でも、今まで頑張ってきたものが簡単に無くなっちゃう。それが急に怖くなったんだよ……。僕はいつまで雪城ユキぼくでいられるのかなって……』




 また涙が流れてしまう。




【コメント】

:安心して

:ユキくんはユキくんだよ

:大丈夫だよ




『うん、ありがとう。大丈夫、僕はもう大丈夫……』




 涙を拭うと強い視線を向ける。




『僕は今のシロルームが好きだよ。友人でもあり、仲間でもあるココママやユイ、カグラさん……三期生のみんなが大好きだよ。少し暴走気味なアカネ先輩や落ち着いてるコウ先輩、他にも面白おかしくてもなんだかんだ優しい先輩たちが好きだよ。これから入ってくる四期生の後輩たちも好きだよ。そして、犬好きさんたちのことももちろん大好きだよ……』




 少し顔を染めながら言う。

 恥ずかしいけど、大事なことなので顔だけ段ボールから出しながら……。





【コメント】

:告白助かる

:逝く……

:俺もダメだ

:衛生兵、衛星兵はいないか!?

:俺も逝く……




『だからね。僕はこの場所をなくしたくない。この場所は僕にとってはかけがえのない宝物だから。だから、僕はこの場所を守っていくよ。逃げ出したくなる時もあるけど、その……頑張るから。でも、僕は何もできないただの犬だからね。もしよかったらだけど、犬好きさん、これからも僕に力を貸してね』




 ようやく持てた覚悟。


 スカウトされたから……、とどこか他人事のように思っていた。

 でも、これからは僕自身……。ううん、僕を含めたみんなといられるこの場所を守るために頑張ろう。




【コメント】

《真心ココネ🔧:¥50,000 ユキくんは十分頑張ってますよ》

《さすらいの犬好き:¥50,000 やっぱり強いよ、ユキくん》

《:¥1,000 ユキくんのためならいくらでも手を貸すぞ!」

《:¥5,000 ユキくんがテンパってるところは好きだ》

《:¥10,000 力になるぞ》

《神宮寺カグラ🔧:¥50,000 ユキが力を貸して欲しいなら仕方ないわね》

《:¥50,000 少ないけどユキくんのためなら》

《:¥30,000 今月これだけしか投げられない。ごめん》

《羊沢ユイ🔧:¥50,000 交通費とゲーム代なの》

《美空アカネ🔧:¥50,000 次のコラボ、いつにする?》




『わわっ、きゅ、急に来た!? た、たくさんありがとうございます。みんなが力を貸してくれるから今の僕がいるんだよ。でも、その……。無理は本当にしないでね。みんながいなくなると僕、悲しいからね』




 いつもみんなには助けてもらっている。感謝してもし足りないくらいだ。

 この放送は僕だけじゃなくて、みんな一緒に作ってるんだよね。




『あっ、あとユイ? そのゲーム代と交通費ってなにかな? アカネさんとのコラボは……、ほらっ、来週にシロルーム全員のコラボがありますから、それで……』




【コメント】

:アカネパイセン、体良く断られてて草

:全体コラボって何するんだろうな?

:シロルーム全員で12人か

:まだできるゲームがあるな

美空アカネ🔧:くっ、かくなる上はえっちぃイラストを人質に無理やりコラボを……

海星コウ🔧:アカネ、何言ってるのかな? 最近あまりパソコンで暴走してないなって思ったらスマホでしてたんだね

美空アカネ🔧:こ、コウ!? くっ、見つかってしまったか……。

羊沢ユイ🔧:うみゅー、もちろん次にするVRゲーム用のお金なの。ユキくん、機材持ってないから




『いつの間にか僕の持ってる機材まで把握されてるのはなんでかな? 前のお泊まりの時? なんか部屋漁りしてたもんね』




 VRゲーム機ってやっぱり値が張るから中々手を伸ばせなかったんだよね。

 コラボで使うなら買ってもいいかもしれない。




『アカネ先輩はご愁傷様……。最近コウ先輩を見ないなって思ったらそんなことがあったんですね。全体コラボの内容は……そろそろ発表されるのかな? オフじゃなくなりそうだから僕としては嬉しいかな。うん……』




【コメント】

真心ココネ🔧:予定通り配信が終わりましたら三期生でオフ会をしますよ?

:ココママ草

:ユキくんどんまい




『で、でも、夜だし、ぼ、僕、配信終わったら寝ちゃうかも……』




【コメント】

真心ココネ🔧:わかりました。では、私の方が行きますね

:草

:コラボ楽しみ




『わ、わふっ、本当に皆さん、ありがとうございます。おかげで少し気持ちが楽になったかも……。で、ではそろそろ今日の放送を終わりま――』




この放送は終了しました。


『《♯ユキ犬姫拾いました》いまのきもち……聞いてほしいな《雪城ユキ/シロルーム三期生》』

2.3万人が視聴 0分前に配信済み

⤴1.0万 ⤵14 ➦共有 ≡₊保存 …


チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数23.0万人

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