四十一日目『彼女』

「リーフィア。あとは勇者を救出するだけだな」

「ああ。恐らく勇者は、この扉の奥にいる」


 リーフィアとロンギヌスは黒く光沢のある扉の前に立った。扉の奥から伝わる漏れている狂気に、リーフィアは足を止める。それでもロンギヌスとともに、足を踏み出した。


「開けるぞ」


 ロンギヌスとリーフィアを扉を二人で押した。光が漏れだし、そして扉は完全に開いた。

 その先に見えたものは、勇者を多く捕らえている巨大な檻。その前に立つ魔王の姿であった。


「魔王……」

「リーフィア。それにロンギヌスまで。君たち二人で一体何をしにここへ来たんだ?」


 魔王の冷静な態度に、リーフィアとロンギヌスは全くもって敵意を感じていなかった。


「魔王。お前は何のために世界を戦争状態にしている?」

「戦争状態にしたわけではない。ただ偶然そうなってしまった。その元凶は確かに私ではあるが、一番の原因は私ではないさ。リーフィア、君が育てた生徒の中にいるさ」

「私の生徒の中に!?」


 リーフィアは驚いた。

 そんなことなどお構い無く、魔王は去ろうとしていた。


「魔王。待て」

「リーフィア。まだ何か用か?」

「私の育てた生徒というのは……一体誰だ?」

「答えは教えられない。だが彼の居場所なら教えてあげよう。彼は今、アズマ国にいる。会いに行くといい。まあ、君がドラキュスに乗り移られていたと解っているかは分からないがな」


 魔王はリーフィアを見ると、最後に笑った。


「さようなら。いつか私のもとに来ると信じているよ。最後の試練、それさえ達成すれば、きっとは救われる」

「どういう意味だ」

「意味なんかない。私はただ彼女を救ってほしいと思っているだけだよ。またな。リーフィア」


 魔王は全身が漆黒に包まれると、一瞬にして魔王は消えた。一瞬の出来事に、リーフィアは驚くことしかできなかった。

 リーフィアは驚いている間に、ロンギヌスは勇者たちを閉じ込めていた檻を槍で破壊した。


「君たち。速く外に出るぞ」


 囚われていた勇者たちは、次々と外へと出ていった。だが出ていく勇者の数は一人少なかった。

 そこで、リーフィアの生徒であるグレムリンはリーフィアに言った。


「リーフィア先生。ブルーが……」

「まさか魔王に拐われたのか」

「違うのか。ブルーは……」



 それは拐われてすぐのこと。

 勇者たちは魔王が創った檻の中に囚われ、そして魔族は皆どこかへと消えた。見張りがいない中、ブルーはさっと立ち上がった。


「なあお前たち。俺は一人で逃げる。別に構わないよな」

「一人でって、何を言っているの?」

「すまないな。俺の役目は勇者機関を監視することなんだよ。だから今さらお前たちの前にいることができない。だからすまない」


 ブルーは罪を背負ったような顔をし、全身を液体化させ、檻の隙間から外へと逃げていった。



「そうか。そんなことがあったのか」

「うん。俺……あいつを止められなかった」

「そう悔やむな。あいつは自分の意思で決めたことだ。私にも止められなかっただろうし。それより今は速くここから脱け出そう。もしかしたらホムラが来るかもしれないし」


 リーフィアたちは王宮へと戻った。

 王宮へ戻るなり、休憩もせずに勇者は皆リーフィアとロンギヌスの会話を聞いていた。


「ロンギヌス。速くアズマ国に行こう。そうしないと、この戦いは戦いは終わらないんだから」

「分かった。今ここにいる全ての勇者でアズマ国に行こう。そしてこの戦争の元凶を倒す」


 リーフィアとロンギヌスは休憩することなく、勇者を率いてアズマ国へと向かう。

 マリー、グレムリン、他にも多くの勇者を率いる百人ほどの勇者の軍勢は、今アズマ国へと一歩一歩近づいていた。それに勘づいた一人の少年は、静かに呟いた。


「もうすぐ始まるぞ。世界を賭けた、戦いが」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る