三十六日目『勇者機関からの脱出、』
魔王の出現とともに、勇者を襲っていたモンスターは既に消えていた。全身鋼のモンスター、四足のモンスターはいつの間にか破壊され尽くした勇者機関からは消えていた。
「リーフィア先生……」
マリーは何も言えず、リーフィアのそばに立っていた。モンスターが去ったことを知らないマリーは、いつモンスターが襲ってくるかという恐怖に体をすくめていた。
「なあマリー。そろそろ行くか」
「は、はい」
「どうしたんだよ。そんなに驚いて。速くここから出ないと、またモンスターに襲われるぞ」
「わ、分かりました」
走るリーフィアの背中を追いかけながら、マリーは考え事をしていた。
(先生は……魔王と何かあったのか?そんなことは、きっと私が聞くことではないと分かっている。だけど……もしこれからに関わってくるのなら。いや、今は考え事をしている場合ではない。ここから脱出することだけを考えよう)
マリーは考えることを止め、リーフィアの背中を追うことだけに集中する。
走っていると出口が見えてきた。その出口に入って頭上を見上げると、先が見えないほどに螺旋階段が上に上にと続いていた。
「マリー。よーく私に掴まっておけ」
「はい。分かりました」
マリーはリーフィアへと抱きついた。リーフィアもマリーを片手でそっと覆う。
「では飛ぶぞ」
リーフィアの全身には風が纏わりつき、風が地面に放たれるとともにリーフィアは一瞬にして螺旋階段の頂上までたどり着いた。
「よし。降りるぞ」
リーフィアは風を操り、ゆっくりと地面へと降りた。
そこから先は王宮内部へと続く道。リーフィアはマリーを降ろし、剣を抜いて暗い道をゆっくりと進んでいく。
目を凝らさないと見えない道だが、リーフィアには見えているようだ。
「この先が大広間。つまりは玉座のある場所だ」
「でもどうしてこれまで勇者にも王宮の中の人にも出くわさないんでしょうか」
「まあこの道はあの地下施設にしか繋がっていないからな。人がいない。だがこの先からは常に誰かが見張りをしているはずだ。それに大広間だから王も……」
(そういえば王はどこへ行ったんだ。もし螺旋階段を上がって逃げているのなら良いのだが……。ラファエルが魔王とともにどこかへと消えていったのを考えると、もしかしたら国王は……)
そんな考えをしている内にも、リーフィアは大広間へとついた。大広間には灯りが灯されており、内装がはっきりと見える。
「遅かったね。リーフィアさん」
一人の女が、リーフィアの前に笑みを浮かべて立っていた。
「アリアンヌ!?」
「ああ。今の私はアリアンヌではない。魔王に従えた一人、ホムラだよ」
「また魔族か……」
リーフィアは剣を握っていたが、手には力が入っていなかった。
「リーフィア先生……?」
「大丈夫だ。もし攻撃してきたら、すぐに対処する」
マリーを背に、リーフィアは剣を握ってアリアンヌへと向けていた。
「まあ私は今ここで君たちと争うことはしない。それに、じきに勇者がここへと戻ってきてしまう。それだけは避けたいからね」
「お前、王宮を護っていたはずの勇者はどこへ行った?」
「私は変身の能力を持っていてね、今までずっと国王になりすましてきた。そこでさっき私は命令したのさ。全ての勇者は街の見回りに行けと。つまりここは、私と君たちの三人だけだよ」
ホムラは数歩リーフィアへと歩み寄った。
「それでだ、私は君たちに一つ教えておこうと思うんだよ。現在、世界規模で戦いが起こっている。それはなぜだと思う?」
「お前たちが原因か?」
「違う。答えは自分の目で確かめろ。今起きている戦いの犯人は、もしかしたら勇者機関出身の勇者かもね」
「勇者機関出身?」
「さようなら。勇者リーフィア、そしてマリー。あと一つ言い忘れていたが、先ほどこの大広間に来た勇者十名は、私たちが拐った」
その言葉を最後に、ホムラは火炎に包まれたと思ったら、火炎とともに姿を消した。
「どうして……どうして……」
リーフィアは悔やんでいた。
何も救えない、自分の弱さを。
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