三十六日目『魔王とラファエル』

「どうしてここに魔王が!?」


 今リーフィアの目の前には、邪気を放った魔王がいる。彼は紛れもなく魔王であり、リーフィアは足がすくんで身動きがとれなくなっていた。


「リーフィア先生。魔王って……」

「ああ。マリー、かつて世界を破壊した。存在。それが魔王であり、今私の目の前にいるこの存在だ」

「世界を……滅ぼした!?」


 そう言われた魔王は、嘲笑しながら言う。


「話を盛りすぎだよ。最終的に私は倒された。お前は知っているだろ。ラファエル」


 地に転がるラファエルは頷いた。


「天界で見たんだ。とある石碑を。そこに書かれていた。天神ムーンアイは魔王を命懸けで止めた。そして魔王は巨大な森の結界に囚われたと」

「天神ムーンアイ?」


 リーフィアはその話に疑問を抱いた。

 ムーンアイ。その名はルナ王国王女の名前であったから。


「魔王。お前は知っているんだろ。王女ムーンアイが何者か解っていたからこそ、彼女を誘拐した。そして何のためかは解らないが、勇者を次々と殺していった」

「ラファエル。君は意外と物知りだな」

「実は思い出したんだ。輪廻転生、その際の記憶を」

「そうか。なら話でもしようか」


 魔王とラファエルはゆっくりとどこかへと立ち去ろうとしていた。だがその前にリーフィアは剣を抜いて立ちふさがる。


「魔王。お前は今まで多くの勇者を殺し、そして世界をも破壊しようとした。いまここで、お前を殺す」


 両手で剣を握り、全身に風を纏わせた。

 マリーは何の口出しもできず、ただ隅でリーフィアを見ていることしかできなかった。


「グレイ。足止めをしろ」

「了解」


 全身鋼の肉体を有する謎のモンスターは、敵意むき出しのリーフィアの前へと拳を構えて行く手を塞ぐ。


「そこを退け」

「嫌だね。魔王様の命令は絶対だ」

「退け」


 疾風の如く速さでリーフィアは全身鋼のモンスターの心臓へと剣を突き刺す。だが鋼の体を貫くことはできず、グレイと呼ばれていた全身鋼のモンスターはリーフィアの腕を掴む。


「邪魔だ」

「行かせない」


 グレイがリーフィアの動きを封じている隙に、魔王とラファエルは何食わぬ顔でその場から立ち去った。


「待て。魔王」


 だが、魔王はどんどん離れていく。


「くそ……。くそおおおおおおおお」


 竜巻が吹き荒れた。

 リーフィアを台風の目とし、渦巻く風が天井を突き破ろうとしている。


「まだ……これほどの力が残っていたか」


 リーフィアは風の力で宙に浮き、グレイはその竜巻に吹き飛ばされて鋼の皮膚ですら傷だらけになっていた。


「魔王、逃がすか」


 リーフィアは風を操り、魔王の背後から剣を振るう。だが魔王は振り向くと、剣は魔王に当たる直前で停止し、その後空気が弾けたようにリーフィアは吹き飛んだ。


「リーフィア。君の剣では、私を斬ることはできない」


 圧倒的存在を前に、リーフィアは成す術なく背を地につけた。


「ああ。どうして私は……彼らの仇を討てなかった」


 リーフィアは腕で目を覆い、掠れた声で叫んでいた。

 どれだけ叫ぼうとも届かない彼らの仇を、討てなかった自分の弱さに苦しみながら。


「先生……」

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