二十六日目『過去を思い出す度に』

 真夜中の校舎裏を歩く二人の影。


「ニャーマル。こんな時間に呼び出してどうしたの?何かおかしいよ」

「いや。今までのことを考えてみたら、能力を知っているのは国王とそれに属する者、と予想していたが、どうやら違ったみたいだよ」

「どういうこと?」

「つまり犯人は俺の能力を知っており、尚且つリーフィア先生が囚われていることを知っている者となる。そう考えると、自ずと犯人は絞られるんだよ」


 ニャーマルはふと、過去の思い出に浸っていた。



「ニャーマル。今日も森に行くのか」

「ああ。俺もいち早く強くなって、この村を出て勇者になりたいんだ」

「へえ。ニャーマルならなれると思うぞ」

「なってやるさ。世界一の勇者に」

「それはもうーー」

「ーーニャーマル。リーニャ。ご飯ができたわよ」


 家の外にまで響く母親のうるさい声に、ニャーマルは木刀を置いて家へと戻った。その後を追い、猫耳をつけたリーニャはニャーマルとともに家へと入る。


「さあ、手を洗ったら飯をたべなさい」


 ニャーマルが洗面所へと行くと、妹であるリーニャもあとを追って洗面所へと向かった。

 洗面所で手を洗う二人の姿は、とても微笑ましいものであった。


「リーニャ。今日もどっちがたくさん食えるか勝負しようぜ」

「兄ちゃんは大食いだからな。いつも負けてばっかだから私にも勝算がある勝負がしたいよ」


 リーニャはつまらなそうに言うと、ニャーマルは考え、言った。


「なら食事を終えたら森に行くぞ。そこでどっちが森一番の木に触れて返ってこれるか勝負しよう」

「それなら勝てるかも」


 リーニャの顔には笑みがこぼれた。

 だがその話を聞いた父親は、話へ割り込んだ。


「二人とも。森へは行かせんぞ。それに夜の森はいっそう危険だ。絶対行くなよ」

「嫌だ嫌だ。絶対いくもん」


 リーニャは父親の前へと立って抗議する。すると父親は何も言わず、振り返って母親の方へと向かった。


「相変わらず父さんは」

「父さんはリーニャにだけは頭が上がらないからな」


 そこには賑やかな家族が暮らしていた。

 その村にはおよそ二十人ほどしかいない小さな村ではあるものの、皆はこの村に誇りを持ち、どこよりも賑やかで明るい村であった。

 だがその村のすぐ近くにはとある国があり、その国には盗賊がよく出入りしていた。噂によるとその国は盗賊に占領された後とか。

 そんな噂が流れる中で、村の者たちは皆警戒をしていた。夜になるとすぐに眠り、明かりを消して村の存在を気づかせまいとしていたのだ。


「飯食い終わったらすぐに寝ろよ」

「「はーい」」


 ニャーマルとリーニャは食事を終え、布団に入る。それを見て安心したのか、父と母も布団に布団に入って眠り始める。

 だが数分後、ニャーマルとリーニャは布団から顔を出し、ランタンを片手に家の外へと出た。


「兄ちゃん。案外楽勝だったな」

「そうだね」


 真っ暗な暗闇の中、明かりが動いているのを一人の盗賊が目撃した。その男はすぐさま走り、盗賊を束ねているドクグマという男へ報告をする。


「そうか。ならばここいらに村がありそうだな」

「村を見つけたらどうしますか?」

「スティール。そんなの決まっておろう。我々は盗賊なのだから」


 ニャーマルとリーニャは村一番の木へとついた。だが先についたのはリーニャで、ニャーマルは敗北した。

 走りすぎて疲れたのか、二人は木を背に座り込んだ。そこで目にしたのは……燃えていく村であった。


「兄ちゃん。あの村って……」


 ニャーマルは冷や汗をかき、ランタンを投げ捨てて火が立ち上る方へと走り出した。


「兄ちゃん」


 リーニャの声が背で響く中、ニャーマルは足をただ村へと運ばせている。


(どうして……。どうして……。どうして……)


「父さん、母さん」


 ニャーマルは燃え盛る村へとつくや、大声で叫んだ。だが返事はなく、その代わりに背後から盗賊が剣を振るって襲いかかった。


「お前ら。俺たちの村を」


 ニャーマルは振り向き、背後にいた盗賊の剣を奪い取り、二人の盗賊を剣で斬った。


「兄ちゃん」

「リーニャ。どうやら誰も……生きてはいないようだよ……」


 重たい声で言うニャーマルに、リーニャはただ落ち込むことしかできなかった。


「リーニャ。俺たちだけでも生きるぞ。逃げて生き残って……」


 一発の銃声が鳴り響いた。その銃声は一人の少女の心臓を貫いた。倒れるリーニャを抱え、ニャーマルはリーニャの顔を覗き込む。


「リーニャ……」

「兄ちゃん。私、やっぱ……兄ちゃんの妹でよかったよ」

「リーニャぁぁぁあ」

「これ、最後に受け取って。私の猫耳をつけて、頑張って生きてね。兄ちゃんが生きている限り、この村の皆は生き続けるから……だから……」


 リーニャは自分がつけていた猫耳を外し、ニャーマルへとつけた。


「確かに受け取ったよ」

「おいおい。まだ一人生きていたか」

「おい。お前がリーニャを、殺ったのか」


 ニャーマルが殺意を向けていた相手は盗賊を統括するドクグマであった。だがそんなことは村育ちのニャーマルには解らないことであった。


「ここでお前を殺す」

「やってみろ」


 殺意に支配されたニャーマルの足元には、いつの間にか無数の死体が転がっていた。

 もしその光景を遠目で見たのなら、誰もがニャーマルに恐怖を抱かざるを得ないだろう。もし、彼が泣いていなかったのなら。




 虚無感に支配されていたニャーマルは、焼け残った村の隅で一人の少女を見つけた。


「君、名前は?」

「アリ、アンヌ。アリアンヌ」

「アリアンヌか。俺はニャーマルだ」


 アリアンヌは服も着ず、裸で寒そうにしていた。そんなアリアンヌを見かねてか、ニャーマルは服を自分が着ていた服をアリアンヌの肩にかけた。


「来るか?俺と一緒に」

「うん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る