二十日目『約束』
風がなびく勇者医療室では、サクラノとエドガーが頭に包帯を巻いてそれぞれのベッドで眠っていた。
そこへ一匹の雀が入り込み、エドガーの頭上でとまった。
「ちゅんちゅん」
「うーん。一体なんだ?」
目を開けると、そこには一匹の雀がとまっていた。
「おーいお前。どこから迷い込んできたんだ?」
寝ぼけているようなとぼけているような、そんなトーンでエドガーは頭上にのった雀へと語り掛けている。
ふと隣へと視線を移すと、そこではサクラノがすやすやと眠っていた。エドガーは洞窟で起きたことを思い出し、体を起き上がらせてサクラノを見た。それと同時に雀は飛び、窓の向こうへと飛んでいった。
「サクラノ……。生きていたか」
エドガーはサクラノの寝顔を見つめていた。
眠っているサクラノはとても静かで、エドガーはそんな彼女を美しいと心のどこかで思っていた。
「う……」
サクラノは目を覚まし、上半身を起き上がらせた。そして周囲を見渡すや、エドガーと目があった。
「起きるのが早いな。エドガー。にしても、どうして私の部屋に入っている?」
「サクラノ、ここは病院だぞ。寮じゃないよ」
サクラノは再び周囲を見渡すや、いつもとは違う景色に驚き、そして状況を理解したのか、サクラノは微笑んだ。
「そういえばそうだった。私は大怪我をしたのか」
「でも生きていてくれて本当に良かったよ。サクラノがいたおかげで、俺は……」
心の底から出た言葉を飲み込み、思わず頬を赤くする。
それを見て、サクラノは首をかしげる。
「どうかしたのか?顔が赤いぞ」
「な、なんでもないよ」
「でも顔が赤いぞ」
「なんでもないって」
顔を覗き込もうとするサクラノから目線を逸らし、反射的にエドガーは後ろを向いた。
「エドガー。まだ完治してないんじゃないか?」
「治ってるって。ただ……」
「教えてくれ。何か隠しているのか?」
「隠してはいる。だが……なんというかな、あまり言うべきではない気がするんだ」
「どういうことだ?」
「気持ちっていうのはさ、意外と理解できないものなんだよ。曖昧で、深くてなんだ。まだ曖昧だからこそ、言ってはいけないんだ。言葉っていうのはさ、一度言ったら消えないものになってしまうから」
「そうか。ならしばらく待とう。君がその言葉を伝えてくれるまで、私はいつまでも待っている」
桜が窓から部屋へ入り、地面へと落ちていく。そんな中で、彼女は眩しい笑みを見せた。
思わず見とれてしまうほどに、その笑顔は魔法なんかでは価値を知ることができない、そんな美しいものであった。
ーーサクラノ。いつかこの気持ちを伝えられたのなら、この思いを君へ届けられたのなら、その時はきっと、悔いの残らないようにしたい。だから待っていてくれ。再び桜が咲く季節に。
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